第67話:対決


 俺は『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動したまま、学院の正門に向かう。


 正門の前では案の定、学院の警備員たちとシュタインヘルトが揉めていた。


「俺はアリウス・ジルベルトという生徒に用があるだけだ。たぶん人違いだと思うが、用が済んだら直ぐに帰る」


 動き易さを重視した複合装甲の鎧の上に、白いサーコート。190cmを超える長身のシュタインヘルトは、見た目だけで威圧感がある。その上、こいつはSSS級冒険者の力を一切隠そうとしないからな。


「そ、そんなことを言われましても。何度も申し上げていますが、たとえSSS級冒険者のシュタインヘルト様でも、学院の関係者以外を通す訳にはいきません」


 10人以上の警備員が集まって。冷や汗をかきながら、必死でシュタインヘルトを止めている。いや、警備員と言っても所詮は10レベル以下だからな。シュタインヘルトを相手に逃げないだけでも、褒めてやるべきだろう。


 他にも姿を隠した諜報部の連中が4人、周りに潜んでいる。ダリウスがシュタインヘルトのことは任せろって言ったからな。尾行する人数を増やしたんだろう。

 だけどシュタインヘルトが本気になったら、諜報部の連中でも相手にならないからな。


「みんな、どうしたのかな? 騒ぎが起きているって聞いたんだけど」


 そこにエリクが登場する。一緒にいるのは侍女兼護衛の藍色の髪のベラと、亜麻色の髪のイーシャだ。


「貴方が有名なSSS級冒険者のカールハインツ・シュタインヘルト殿ですね。僕はエリク・スタリオン。ロナウディア王国の第1王子です」


 一国の王子の方がSSS級冒険者よりも地位は上だけど。エリクが敬語を使っているのは、シュタインヘルトに敬意を払っているからだ。


「王国の王子か……エリク殿下、悪いが俺はおまえに用はない。アリウス・ジルベルトという生徒を知っているなら、ここに連れて来てくれ」


 シュタインヘルトの不遜な態度に、ベラとイーシャが殺気立つ。

 だけどシュタインヘルトに一睨みされただけで、2人は動けなくなった。

 まあ、本当にエリクが危なくなったら、それでも命を捨てて盾になるだろうけどな。


「シュタインヘルト殿。申し訳ありませんが、アリウスを連れて来ることはできません。彼は私の大切な友人ですから。武装したまま学院に来るような方に、会わせる訳にはいきませんよ」


 エリクはいつもの爽やかな笑顔で言う。シュタインヘルトの鋭い眼光も、エリクには効いていない。


「ならば武装を解けば、学院に入れてくれるのか?」


「それは今さらですよ。こちらの常識が通じない相手を、学院に入れる訳にはいきませんね」


 たぶんエリクはシュタインヘルトが何と言おうが、初めから通すつもりなんて無いだろう。エリクは良い奴だけど、屁理屈を言わせたら誰も敵わないからな。


「だったら、勝手に入るまでの話だ」


 シュタインヘルトの言葉に、ベラとイーシャが覚悟を決める。諜報部の連中も本気で仕掛けるつもりだな。

 まあ、シュタインヘルトが無茶をするなら、俺が相手になるけど。


「シュタインヘルト殿。貴方がアリウスに会いたい理由は何ですか?」


 それでもエリクだけは冷静だ。今も爽やかな笑みを浮かべている。

 シュタインヘルトもエリクの態度が意外なのか。素直に質問に応える。


「俺はSSS級冒険者のアリウスを探している。奴がこの王都にいるのは間違いない・・・・・。だが冒険者ギルドで訊いても奴の居場所は解らなかった。

 代わりに元SS級冒険者ダリウス・ジルベルトの息子のアリウスという奴が、この学院に通っていることと、学生の癖にS級冒険者並みの実力だという噂を聞いた。

 SSS級冒険者のアリウスが悠長に学院などに通うとは思わないが。一応本人じゃないか確かめておこうと思ってな」


 まあ、俺は学院で色々とやらかしたからな。冒険者ギルドで噂になっているのは仕方ない。


「でしたら、シュタインヘルト殿が確かめるまでもありませんよ。貴方が想っているように、アリウス・ジルべルトとSSS級冒険者のアリウスは別人です。王家の名に懸けて、この僕が保証しますよ」


 いや、エリク。そんなことを言って良いのか?

 まあ、言ってしまった以上は後戻りできないけどな。


「エリク殿下。疑うようで悪いが、その言葉に二言はないんだな?」


 シュタインヘルトの鋭い眼光がエリクを射抜く。


「はい。何度言っても構いませんよ。僕は事実を言っているんですから」


「解った。エリク殿下、おまえの言葉を信じよう」


 シュタインヘルトは不敵な笑みを浮かべると、背を向けて立ち去って行く。

 本当にエリクが言ったことを信じたのかは、解らないけどな。


 シュタインヘルトの姿が完全に見えなくなると。エリク以外の皆がほっと息を漏らす。


「エリク殿下、ありがとうございます」


 警備員たちに礼を言われて、エリクはいつもの爽やかな笑みを返す。

 そして何事もなかったように、ベラとイーシャを連れて教室へと戻りながら。


「アリウス、これは君への貸しだからね。君は貴族の地位なんてどうでも良いと思っているだろうけど。僕に借りを返すまでは、シュタインヘルトと勝手に喧嘩をしたら駄目だからね」


 俺がいることが解っているように小声で囁く。


 勿論、俺もエリクに借りを作ったことは解っている。エリクがそのため・・・・に王家の名に懸けて嘘をつくというリスクを負ったこともな。


 今、俺がシュタインヘルトの前に姿を現わせば、ロナウディアの王家が嘘をついたことを認めることになる。

 嘘1つで王家が揺らぐことはないが、王家の面子を潰すことになる。政敵に攻撃材料を与えることになるから、エリクにとっては結構なリスクだな。


 エリクがそこまでした理由は、俺が何を考えているか解っているからだ。

 結局のところ俺は、もしシュタインヘルトが暴走したら、止めるためにSSS級冒険者のアリウスだとバレて貴族の地位を捨てることになっても構わないと思っている。

 ダリウスやシリウス、アリシアには悪いけど。優先順位の問題だからな。


 だからエリクはリスクを負って俺に釘を刺した。俺が貴族の地位を捨てたら、次の王国宰相になる可能性は限りなくゼロに近づくからな。

 エリク自身は俺の地位なんて関係ないだろうけど。ジルベルト侯爵家を捨てた平民を宰相にしたら貴族たちが黙っていないし。俺もシリウスやアリシアと権力争いをするつもりなんてないからな。


 まあ、シュタインヘルトが大人しく帰れば何の問題もないし。俺はシュタインヘルトのことを知らない訳じゃないからな。

 本当に何かあったら、できるだけ上手く・・・やるよ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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