第66話:シュタインヘルト
近況ノートにも書かせて貰いましたが、某出版社からこの作品を書籍化したいという打診がありました。これも皆さんが読んでくれているおかげです。本当にありがとうございます。
書籍化のための作業がありますので、しばらくは更新頻度が落ちると思いますが。エタたる訳ではありませんので、気長に待って貰えると嬉しいです。
これからも、よろしくお願いします。
―――――――――――――――――――
王都の冒険者ギルドにいきなりやって来た、SSS級冒険者カールハインツ・シュタインヘルト。
アリサから聞いたのは2週間くらい前に、シュタインヘルトが懲りもせずにグレイに挑んで破れた後。
『今のアリウスなら俺よりも強えかもな』
そんなグレイの発言のせいで、今度は俺を倒しに来ると思ったのに。シュタインヘルトは何故か魔王のところにいるって話だった。
いや、この時点で訳の解らない状況なんだけど。今はもっと訳が解らない。
シュタインヘルトが王都に来たのは偶然って訳じゃないよな。だけど、どうして俺の居場所を知っているんだ?
それにシュタインヘルトは『
まあ、そもそも情報源がアリサだからな。どこまで信憑性のある情報か解らないし、まずは状況を整理するか。
俺は『
『父さん、遅い時間に悪いけど。SSS級冒険者のシュタインヘルトが、王都にいることは知っている?』
『伝言』は直ぐに返ってきた。
『アリウスも情報が早いな。今日、シュタインヘルトが王都に現れたことは俺も知っているよ。SSS冒険者のアリウスを探しているらしいが、おまえが当人だってことはまだバレていないようだ』
ダリウスは諜報部を従える王国宰相だからな。シュタインヘルトのことも知っているとは思ったけど、予想通りだった。
何度か『伝言』のやり取りをして解ったけど。ダリウスはもっとシュタインヘルトの情報を集めてから、俺に伝えるつもりだったらしい。
まあ、シュタインヘルトが俺を探していることも、魔王のところにいたこともダリウスには伝えていないし。シュタインヘルトはSSS級冒険者ってだけで『
『一応、諜報部に尾行させているが。シュタインヘルトは今冒険者ギルドにいるようだな』
周りの冒険者たちの中に、それなりにレベルの高い奴がいる。こいつが諜報部の人間だろうな。
さてと。シュタインヘルトの目的がやっぱり俺だってことは解ったけど。結局のところ、詳しいことは本人に訊いてみないと解らないからな。
だけどここで俺が姿を見せたら、SSS級冒険者のアリウスが俺だって他の奴にもバレるな。
SSS級冒険者のアリウスがアリウス・ジルベルトだってバレると、貴族のしがらみで面倒なことになる。たとえばカーネルの街の領主に招かれて俺が無視すると、ロナウディア王国とクリスタ公国の国際問題になりかねないんだよ。
まあ、そのときは俺がジルベルトの名前を捨てて、貴族を辞めれば良いだけの話だけどな。アリサも俺が王国宰相の息子だって知っているし。俺の正体がバレるのは時間の問題だろう。
『父さん、これから俺がシュタインヘルトと話をつけるよ』
ダリウスに『伝言』を送ると、即座に返信が来る。
『アリウス、ちょっと待て!』
短い文面の後に、続けざまに『伝言』が来た。
『そんなことをしたら、おまえがSSS級冒険者だってバレるだろう!』
『バレたら冒険者として活動がしづらくなるぞ!』
『おまえのことだから、ジルベルトの名を捨てれば良いとか考えているだろう!』
ダリウスには俺の考えが読まれているな。まあ、俺の親だから当然か。
『とりあえず、何か実害がある訳じゃないんだ。シュタインヘルトのことは俺に任せてくれ!』
俺にとっては貴族を辞めれば良いだけの話だけど。結局のところ、ダリウスは俺に王国宰相の地位を継がせたいんだよな。
いや、ダリウスは最後は自分で決めて良いって言ったけど。本音では、俺を宰相にしたいと思っていることくらい解るよ。
まあ、俺が宰相にならないと、シリウスかアリシアに押し付けることになるからな。本人が納得しているなら別だけど、まだ2人は子供だからな。自分で判断ができない時期に押し付けるのは、さすがに不味いだろう。
『解ったよ、父さん。シュタインヘルトのことは任せるよ』
とりあえず、シュタインヘルトの方から仕掛けて来るまではな。
俺は『認識阻害』と『透明化』を発動したまま、誰にも気づかれることなく冒険者ギルドを後にした。
※ ※ ※ ※
次の日の朝。俺はダリウスとレイアに直接会って。グレイがシュタインヘルトを
「グレイの奴、何を勝手なことをしてくれるんだ」
「全くよね。今度会ったら、どうしてやろうかしら!」
レイアの笑顔が怖い。まあ、グレイの自業自得だから、フォローする気なんてないけどな。
「それにしても、シュタインヘルトが魔王のところにか……魔王が強者を集めている噂は聞いているが。シュタインヘルトが魔王の片棒を担ぐとは思えないな」
シュタインヘルトは相手が強ければ誰にでも挑むような迷惑な奴だけど。正義感だけは強いからな。
今から10年くらい前に、マバール連邦って国で
1万を超える
それに魔王については、まだ何もしていないんだからな。俺は魔王だから悪だって決めつけるつもりはない。
魔王が悪じゃなければ、シュタインヘルトと繋がっている可能性はあるけど。何しろ情報が少な過ぎるからな。今の段階で判断するのは早計だろう。
「アリウス兄さん、いってらっしゃい!」
「アリウスお兄ちゃん、また帰って来てね!」
シリウスとアリシアに見送られて、俺は学院に登校する。こういうのも悪くないよな。
金曜日の授業はサボることが多いけど。今はシュタインヘルトが王都にいるからな。とりあえず俺も王都を離れる訳にいかない。
まあ、シュタインヘルトが王都に長くいるようなら。とりあえず実害はない訳だし。無視して『魔神の牢獄』の攻略に行くけどな。
「アリウスが金曜の授業をサボらないなんて、めずらしいね」
教室に行くなり、エリクにいつもの爽やかな笑顔で言われる。
「エリク、こっちにも都合があるんだよ」
「アリウスの都合って、もしかしてSSS級冒険者の
まあ、エリクならシュタインヘルトの情報を掴んでいて当然だよな。
「ああ。ちょっと面倒なことになって――」
俺は『
俺が言葉を途切れさせたのは、シュタインヘルトが学院に来たからだ。
まあ、理由なら想像がつく。元SS級冒険者のダリウスとレイアの息子の俺が、色々とやらかしたことは噂になっているからな。
冒険者ギルドでアリウスって名前を出せば、学院に通っている俺の話くらい出るよな。
ダリウスにはシュタインヘルトのことは任せろって言われているけど。あいつの目的は俺だからな。もし強硬手段に出るなら、ダリウスには悪いけど俺が自分で解決するよ。
「アリウスも気づいているみたいだけど。学院にいるときくらい、少しは僕に頼ってくれるかな」
エリクはいつもの爽やかな笑みを浮かべて立ち上がると、教室を出て行こうとする。
「エリク殿下、どうされたのですか?」
取り巻きのラグナスたちが慌てて反応するけど。
「ラグナス、君たちには関係のないことだよ。僕は用事ができたから、ちょっと出かけて来るよ」
エリクは有無を言わせずに告げる。まあ、エリクがどこに行こうとしているのか。『索敵』を使わなくても解るけどな。
クラスメイトたちがエリクたちに注目している間に、俺も『認識阻害』と『透明化』を発動して教室を出る。
行き先はエリクと同じ。シュタインヘルトがいる学院の正門前だ。
エリクに言われたから頼らせて貰うつもりだけど。相手はSSS級冒険者だからな。もし何かあったら、俺が自分で解決するよ。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????
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