第60話:買い物


 とりあえず、勇者のこともシュタインヘルトのことも保留だな。直ぐに実害がある訳じゃないからな。

 シュタインヘルトはクリスみたいな暴力馬鹿じゃないし。俺がいないときにカーネルの街に来ても問題ないだろう。


 ということで。月曜日は朝から学院に通うことにする。

 アリサが監視していたことをエリクに話したけど。エリクと諜報部の連中も監視されていること自体には気づいていたらしい。

 誰が監視しているのか解らないから泳がせていたらしいけど。エリクに尻尾を掴ませなかったアリサの諜報能力は、やっぱり高いってことだよな。


 ミリアは別のクラスだから、そこまで頻繁に会う訳じゃないけど。昼休みに食堂でソフィアたちと一緒にいたミリアは、いつもと変わらない感じだった。

 昨日は女子3人でお泊り会をしたみたいだし。ソフィアとサーシャに任せて正解だな。


 結局、バーンとミリアと学院のダンジョンに行くのは今週の土曜日になった。ウイークデーにすると俺がまた授業をサボるからって、ミリアが日程を決めたんだよ。

 だけど今の俺は2つ目の最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』の攻略中心の生活を送っているからな。学院のダンジョンにいつ行っても、その時間の分だけ授業をサボるけどな。まあ、説明すると面倒なことになりそうだからな。黙っていたけど。


「アリウス……ごめん、待った?」


「いや、ジェシカ。気にするなよ。俺が早く来ただけだからな」


 火曜日の午前10時。俺は授業をサボってカーネルの街にいる。

 結局、授業をサボるのかと思うかも知れないけど。ジェシカと出掛ける約束をした方が先だからな。


 俺たちが待ち合わせたのは、カーネルの街の中心にある広場だ。別に冒険者ギルドで良いと思ったけどな。ジェシカの希望だから素直に従ったんだよ。


「ねえ、アリウス……その、私の格好……可笑しくない?」


 今日のジェシカはいつもの蒼いハーフプレート姿じゃない。Vネックの白いセーターに、少し短めのスカート。冒険者ギルドで一緒に夕飯を食べるときも装備を外しているけど。スカートを履いたジェシカは、なんか新鮮だよな。


 だけどジェシカはスタイルが良いからな。胸元とか足とか。正直、目のやり場に困るんだよ。いや、俺とジェシカは、そういう関係じゃないからな。


「ああ。よく似合っているよ」


「あ、ありがとう……」


 ジェシカは俯き加減で、何故か顔が赤い。まあ、普段と違う格好をするのはちょっと恥ずかしいよな。


「それで、今日は買い物に行くんだったよな。ジェシカは何を買うんだよ?」


「え……い、色々よ。ねえ、アリウス。今日は1日付き合ってくれるのよね?」


「ああ、そういう約束だからな」


「じゃ、じゃあ……」


 ジェシカが突然俺の手を握る。


「ア、アリウスが逃げないように……つ、捕まえておくだけよ!」


 俺ってそんなに信用ないのか? いや、たぶんマルシアの入知恵だよな。

 俺の『索敵サーチ』にマルシアの反応があるし。

 マルシアもバレるのが解っていて、やっているんだろうな。今度、シメてやるか。


 まあ、今日のところはジェシカ優先だからな。

 ジェシカは俺のせいでクリスに殺されそうになった訳だし。カーネルの街にあまり来なかったことの埋め合わせもしないとな。


 俺にとってカーネルの街は、ダンジョン攻略の後に夕飯を食べる場所だけど。

 カーネルの街があるクリスタ公国では2番目に大きい都市で。ロナウディア王国の王都ほどじゃないけど発展してるんだよ。


 伝統的な美しい街並みの王都に対して、カーネルの街は雑然としているけど。俺としてはカーネルの街の方が落ち着くな。

 結局、俺には貴族の生活よりも、冒険者の方が合っているんだよな。


 ジェシカに付き合って色々な店に入る。

 ジェシカも普段は毎日高難易度ハイクラスダンジョン『ギュネイの大迷宮』を攻略しているからな。 ゆっくり買い物をする時間がないんだろう。


「ねえ、アリウス。このペアのコーヒーカップ、素敵だと思わない?」


「まあ、そうだな」


「こっちの木のフォークとスプーンも可愛い!」


「ああ。ジェシカが気に入ったなら良いんじゃないか」


 だけど俺と一緒に買い物して楽しいのか? 俺は服とか雑貨とか、武器以外のモノに全然興味がないからな。

 まあ、ジェシカが楽しそうにしているから構わないけど。何が楽しいのか、正直良く解らないんだよな。


 昼飯はちょっと洒落た感じの店に入る。ドレスコードがある店じゃないけど、客は皆それなりに着飾っているよな。

 ジェシカのイメージだと、ちょっと背伸びした感じだけど。そんなことを言ったら怒るだろうな。


 まあ、それは良いとして。

 俺たちが席についた直後。猫耳女子とガタイの良い若い男が店に入って来た。眼鏡を掛けて雑に変装しているけど、間違いなくマルシアとアランだ。

 マルシアは解るけど、なんでアランまでいるんだよ。


 2人は俺たちから少し離れた席に座る。ジェシカの後ろ側だからジェシカは気づいていないけど。


「料理を高い順に持って来てよ。あそこの席の銀髪君の奢りだから、請求は向こうにしてよね」


 いや、全部聞こえているし。マルシア、おまえは全然隠れる気なんてないだろう。


「ね、ねえ、アリウス。素敵なお店よね……うん? アリウス、何かあった?」


「いや、何でもないよ。馬鹿が2人いただけだからさ」


 今日は1日ジェシカに付き合う約束だし。ジェシカはマルシアに揶揄からかわれるのは嫌みたいだからな。


 マルシア、余計なことをしたら――どうなるか、解っているよな?


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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