第61話:マルシアの気持ち


 ジェシカと昼飯を食べている店の料理は、どれも普通に旨いんだけど。


「お待たせしました。ドリンクになります」


 運ばれてきたグラスは1つで、ストローが2本刺してあった。


「あ、あれ? な、なんで飲み物が1つなのかな?」


 ジェシカの台詞が棒読みだし。マルシアがニマニマしている。これもマルシアの入れ知恵ってことか。


「とりあえず、飲むか」


「え……」


 いや、ストローは別々だしな。別に大したことじゃないだろう。

 ジェシカが真っ赤になっているけど。自分でやっておいて恥ずかしがるなよ。


 2人でデザートまで食べて会計を済ます。


「あの……こちらも宜しいんでしょうか?」


 戸惑う店員。マルシアたちの昼飯代まで本当に請求されたけど。


「ああ、構わないよ」


 とりあえず払っておく。後でマルシアに払わせれば良いだけの話だからな。


 午後も俺とジェシカは色々な店を見て回った。服や帽子や靴とかアクセサリーの店とかな。


「ねえ、アリウス……どう、かな?」


 試着室で着替えたジェシカが、恥ずかしそうにゆっくりカーテンを開ける。

 胸元を強調するシースルーなブラウスに、膝上10cmのミニスカート。


「ああ。似合っていると思うよ」


 前世で女子の服はとにかく褒めろと言われた記憶があるし。実際にジェシカに似合っていると思うけど。ジェシカにしては大胆過ぎるだろう。どうせこれもマルシアの差し金だよな。


 今日はやたらと距離が近いし。ジェシカは何気ない感じで手や肩に触れて来る。その度に真っ赤になるからバレバレだけどな。


 マルシアとアランは昼飯の後もずっと付いて来ているし。さすがにやり過ぎだよな。だけどマルシア、おまえの思い通りにはならないからな。


「なあ、ジェシカ。服も良いけどさ。武器や鎧の店に行かないか」


「え……でも、今日はそういうところは……」


 ジェシカは否定しようとするけど、内心は乗り気なのが解る。ジェシカも冒険者だから、装備に興味がない筈がないよな。

 今日のジェシカは冒険者が行くような店を意図的に避けていた。どうせマルシアに、女子力をアピールできない場所に行くなとか言われたんだろう。


「まあ、そう言わずにさ。俺は剣を見に行きたいんだよ」


「え……ちょっと、アリウス!」


 強引に手を掴んで歩き出す。ジェシカは真っ赤になってるけどな。

 マルシアとアランが後を追って来るけど無視する。


 とりあえず近くの武器屋に入る。俺たち以外の客は、当然だけどいかにも冒険者という格好だな。

 Vネックのセーターとスカートのジェシカが浮いているけど。そんなことを気にする必要はないよな。


「なあ、ジェシカ。おまえは昔からバスタードソードを使ってるけどさ。やっぱり使い勝手が良いからか?」


「え……まあ、そうね。片手でも両手でも使えるから便利なのよ。相手とか状況によって使い分けられるし」


「じゃあ、俺も試しに使ってみるかな。今度低難易度ロークラスダンジョンに行くことになったからさ。普段やらないことを試してみようと思うんだよ」


「だったら、しょうがないわね。私が慣れてない人でも使いやすい剣を選んであげるわよ」


 剣を選んでいるジェシカは、服を選ぶときよりも楽しそうだな。


「うーん……この店の剣も悪くないけど、アリウスだと物足りないと思うわよ。ねえ、私の行きつけの店があるから、これからそこに行かない?」


「ああ。ジェシカ、案内してくれよ」


 それから俺とジェシカは剣と装備の話をしながら武器屋を5軒梯子した。

 俺とジェシカは装備も戦闘スタイルも違うけど。ジェシカもS級冒険者だから戦い方に拘りがあるし、選ぶ装備も理に適っている。


 そう言えば、こういう話ってグレイとセレナとしかしたことないよな。

 2人は冒険者に関することなら何でも知っているし。俺も自分なりに試行錯誤しながらやって来たけど。

 ジェシカと話していると俺と違う発想をしていたり。結構参考になるよな。


「うーん……店売りだとこれが限界ね。でもアリウスには軽過ぎると思うわ」


 バスタードソードに拘りがあるジェシカは、3軒目の武器屋に戻って俺の剣を選んでくれた。だけど結局、イマイチ気に入らないみたいだな。


「まあ、低難易度ダンジョンだからな。この剣で十分じゃないか」


「だけどアリウスが使うんだから……ねえ、私の予備の剣を使ってみる?」


「いや、良いよ。今回はジェシカが選んでくれたこの剣を使うからさ」


 バスタードソードを使うのは初めてだからな。シンプルな店売りの剣で試してみようと思うんだよ。


「じゃあ……この剣は私がアリウスにプレゼントするわよ」


 今日は1日ジェシカに付き合う約束だからな。ジェシカに買って貰うのはちょっと違う気もするけど。俺は素直に受け取ることにした。


「ああ、ジェシカ。ありがとう」


「えっと……どういたしまして」


 ジェシカの顔が赤い。まあ、素直に礼を言われると照れるよな。


 夕暮れのカーネルの街をジェシカと2人で歩く。


「なあ、ジェシカ。俺が行きたいって言ったから、途中から冒険者が行くような店ばかりになったけどさ。ジェシカはもっと服とか見たかったのか?」


「ううん。正直に言うけど、剣を見る方が楽しかったわ。せっかくアリウスと出掛けるから、女の子らしくしたいと思ったんだけど。やっぱり私はガサツな冒険者よね」


「いや、剣が好きだからガサツとか思わないけどな。ジェシカは十分女の子らしいと思うよ。俺は今日ジェシカと一緒にいて楽しかったからな」


「アリウス……うん! 私もアリウスと一緒に買い物ができて楽しかったわ!」


 ジェシカが満面の笑みを浮かべる。やっぱりジェシカは笑っているのが一番だよな。


 夕飯は気取らない店で一緒に食べてから、俺はジェシカと別れた。


「おまえら、今日は1日楽しんだみたいだな」

 

 見え見えの尾行だからな。短距離転移でマルシアとアランの目の前に移動する。


「アリウスさん……」


 アランは目を反らすけど。


「せっかくあたしがセッティングしたのに、アリウス君のせいで台無しだよ。でもヘタレのジェシカとしては今日は合格かな」


 結局夕飯まで俺にたかったマルシアは、悪びれることもなくニマニマしている。

 まあ、マルシアは悪ふざけが過ぎるように見えるけどさ。


「俺が気づいていないと思っているみたいだけど。マルシアは悪ふざけのフリをしているだけで、本当はジェシカのことが心配で堪らないんだよな」


「な……アリウス君は何を言ってるかな? 訳が解んないよ」


 マルシアがめずらしく慌てている。


「いや、誤魔化しても無駄だからな。毛が逆立っているし、バレバレなんだよ。やたらとジェシカをいじるのも、放っておけないからだろう」


 マルシアはジェシカのことが大好きなんだよな。大切な仲間という意味で。

 俺とジェシカをくっつけようとするのも、ジェシカのことを想ってのことだ。

 だけど素直じゃないから、直ぐに悪ふざけをしているフリをして誤魔化すんだよ。


「そんなこと……アリウス君が勝手に言っているだけだよね」


「ああ。だけど他にも俺と同じ意見の奴がいると思うよ。たとえば――なあ、アラン。おまえがマルシアに付き合ったのは、こいつがジェシカのことを想っているからだろう」


 アランがただの悪ふざけに付き合うとは思わないからな。


「俺は……アリウスさんなら、ジェシカを任せられるって。だからマルシアと一緒に、ジェシカを応援しようって……」


 アラン、悪い。そう言えばおまえ、ジェシカのことが好きだったんだよな。


「アラン、何を勝手なこと言ってんの! あたしはジェシカを応援するつもりなんてないからね!」


 マルシアは必死に否定するけど。いや、だから全然誤魔化せてないって。

 なあ、マルシア。おまえの顔、真っ赤だからな。


「なあ、マルシア。おまえの気持ちが解らない訳じゃないけど。俺とジェシカのことは放っておいてくれないか。俺もジェシカのことを大切な仲間だと思ってるからさ。

 だからジェシカのことを変に煽るような真似はして欲しくないんだよ。これは俺とジェシカの問題だからな」


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

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