第59話:面倒な奴ら


「なあ、アリウスはん。ちょっと面倒臭い話と、凄く面倒臭い話があるんやけど。どっちから聞きたい?」


「俺はどっちも聞きたくないよ」


「そう言わんといてや。聞いておいた方が、アリウスはんのタメやで」


 意味深な笑みを浮かべて、アリサは話し始めた。


「まずは、ちょっと面倒臭い話の方や。話を蒸し返すようで悪いけどな、勇者アベルがアリウスはんに会わせろってまた言っとるのや」


 アリサはもう勇者を『様』付けで呼ぶつもりがないみたいだな。

 まあ、それは良いとして。こんな話を他人に訊かれたら不味いとアリサも思っているみたいだからな。

 だけど息が掛かるほど顔を近づけて俺の耳元で囁くのは、ちょっと近すぎるだろう?


「アリウスはんが勇者パーティーに入る気がないことは解っとるから、それはええんやけど。スキルを与える勇者の能力には、アリウスはんも興味あるやろ」


 勇者がクリスに与えた『勇者の心ブレイブハート』。闘争心を掻き立ててステータスを向上させるスキルだ。

 この世界のスキルは鍛錬や実戦の中で習得するものなのに。勇者はスキルを他人に与えられるんだよな。


 クリスは元々凶暴な性格だとは思うけど、『勇者の心』を発動したクリスの凶暴さは異常だったからな。

 狂戦士バーサーカーのようなスキルを与えることができる勇者の能力に、確かに興味はあるけどな。


 勇者と魔王について、俺は情報収集を続けている。まだ何もしていない魔王と、そんな魔王から世界を救うと宣言している勇者。だけど勇者の影響力は、俺が考えていたよりも何故かずっと大きいんだよな。

 だからと言って、俺は勇者を怖いと思わないけどな。面倒臭い奴だと思うだけで。


「うちは会うだけ会ってみたらええと思うわ。アベルが無理矢理拘束するとかアホな手段に出ても。アリウスはんなら力づくで対処できるから問題ないやろ」


「アリサは俺と勇者を喧嘩させたいのかよ?」


「それも面白いと思うけどな。アリウスはんと喧嘩したらアベルに勝ち目なんてあらへんからな。うちが全力で止めるわ」


 アリサは何を考えているのか良く解らない奴だけど。こうして話したり色々と調べているうちに、どういう奴か少し解ってきたな。


「なあ、アリサ。おまえは勇者とはビジネスとして付き合っているだけって言ったけど。他の国の奴らが勇者を支持する理由も、魔族の領域にある利権絡みじゃないのか?」


「へー……さすがやな。うちはアリウスはんが、ますます欲しくなったわ」


 アリサは面白がるように笑う。アリサは適当なお世辞を言うような奴だけど。今の言葉が全部お世辞じゃないってことは解る。まあ、アリサが欲しいのは俺の力だけどな。


「なあ、アリサ。俺が王都に戻ったタイミングでおまえが現れたってことは、俺たちとヨルダン公爵のことは全部調べがついているってことだよな。そんなことをした目的は何だよ?」


 アリサがこのタイミングで現れたのは偶然じゃない。ヨルダン公爵の襲撃のことを知って、どこかで監視していたんだろう。

 俺の『索敵サーチ』の効果範囲は5km以上あるからな。アリサ本人が監視していたら当然気づいたけど。他の人間や魔道具を使うとか方法ならいくらでもあるからな。


「目的とかそんな大げさな話やないんや。うちがアリウスはんの役に立つこと証明しようと思ってな。情報収集はアリウスはんや諜報部の専売特許やないで。うちにとっては空気を吸うくらいに当たり前のことや」


 アリサは悪戯が成功した子供のように笑う。


「アリウスはんがロナウディア王国宰相の息子ってことは知ってたからな。ちょっと調べればエリク王子との関係や、ヨルダン公爵と揉め事を起こしてることは直ぐに解ったわ。


 あとはエリク王子とヨルダン公爵双方の動きを監視していただけや。どんな方法を使ったかは企業秘密やけど。


 戦況次第でうちも参戦するつもりやったんやけど。アリウスはんがそれなり・・・・の戦力を全部片づけてしもうたからな」


 つまりアリサは全部知っていながら、高みの見物をしていたってことだ。

 参戦するつもりだったとか言ってるけど、後からは何とでも言えるからな。


 だけどエリクや諜報部の連中に気づかせずに監視していたってことは、アリサの方が上手ってことか?

 いや、エリクなら監視されていたこと自体は気づいていただろうからな。明日学院に行ったら訊いてみるか。


「なんや、イマイチ反応が良くないな。うちが先に教えなかったことが、アリウスはんは気に食わんみたいやな。だけど、うちはヨルダン公爵の戦力を分析した上で、アリウスはんの敵やないと判断したんや。小者相手に余計なことをして、うちは自分を安売りするつもりはないで」


 アリサの意図が解らない訳じゃないけどな。俺としては、みんなが危険に晒される可能性は潰しておきたかったんだよ。

 だからアリサが先に教えてくれたら、アリサのことを見直したけどな。


「……ああ、そう言うことか。うちとしたことが、アリウスはんを見誤ったみたいやな」


 アリサは悔しそうな顔をする。俺が何を考えているか。アリサにも解ったみたいだな。


「まあ、やってしもうたことを後悔しても仕方ないわ。アリウスはん、話を戻すけどな。うちが初めに言った『凄く面倒臭い話』のことやけど。アリウスはんもカールハインツ・シュタインヘルトって冒険者のことは知っとるやろ?」


 アリサは意図的に話題を変える。


「ああ、知っているけど。シュタインヘルトはSSS級冒険者だからな」


 俺は半分不戦勝でSSS級になったようなものだけど。シュタインヘルトは正真正銘のSSS級冒険者だからな。まあ、性格に問題があるけど。


「そのシュタインヘルトがな。アリウスはんを探してるらしいで」


 いや、全然意味が解らないんだけど。シュタインヘルトを一言で言えば『武人』だ。俺とは違うベクトルで強さを追い求めているんだよ。


 俺みたいにギリギリの戦いの中で強くなっていくことが楽しいんじゃなくて。シュタインヘルトは純粋に技術を極めて、自分よりも強い冒険者を倒すことで強さを証明しようしているんだよ。


 いや、なんで俺がシュタインヘルトについて詳しいかと言えば。グレイとセレナと一緒にいるときに、シュタインヘルトが何度もグレイに挑んで来たからだよ。毎回グレイに敗北していたけどな。

 別にシュタインヘルトが弱いんじゃなくて、グレイが強過ぎるだけだよ。


 だけど、そんなシュタインヘルトが、俺を探している理由が解らないんだよ。シュタインヘルトから見たら俺は格下・・だからな。


 いや、俺はグレイとセレナと一緒に5番目の最難関ハイクラスダンジョンまで攻略したし。ソロで『太古の神々の砦』を攻略したけど。そんなことは他の冒険者は誰も知らないからな。


 グレイとセレナも攻略したことを自慢するような性格じゃないし。騒がれると面倒だからな。冒険者ギルドに報告してないんだよ。

 だから俺の評価は今でもSSS級の中で1番下で。シュタインヘルトには、所詮はグレイとセレナのオマケみたいに思われているんじゃないかな。


「ああ、やっぱりか……そういうことやな」


 アリサが意味深な笑みを浮かべる。


「その様子だとアリウスはんは何も聞いてへんみたいやけど。シュタインヘルトがアリウスはんを探す原因を作ったのは、アリウスはんの師匠やで」


 アリサ曰く。シュタインヘルトはグレイにまた勝負を挑んで敗北したらしい。まあ、ここまではいつものことだけどな。

 だけどグレイはボコボコにしたシュタインヘルトに、こんなことを言ったらしい。


『シュタインヘルト、てめえも懲りねえ奴だな。だけど毎回相手にするのも面倒だからな。てめえはもっと実力を磨いてから来いよ。うちのアリウスみたいにな……いや、今のアリウスなら俺よりも強えかもな』


 グレイがそんなことを言う筈が……いや、十分あり得るよな。グレイなら言いそうだからな。

 それに3日前にグレイとセレナから『伝言メッセージ』が来たけど。そういう・・・・意味だったんだな。


『アリウス、ソロで最難関ダンジョンを攻略したおまえにとって日常は退屈だよな。だから、おまえに最適なプレゼントを贈ったからな。まあ、そっちに奴がいつ行くか解らねえけどな』


『グレイが暴走して『伝言』を送ったみたいだけど。アリウスはグレイにも面倒な奴にも付き合う必要はないからね。後のことは私に任せなさいよ』


 意味不明なパズルのピースがようやく繋がったけど。グレイが勝手にやったことに、セレナは怒っているってことだよな。


 まあ、シュタインヘルトが『転移魔法テレポート』と『飛行魔法フライ』が嫌いってことは有名だからな。いつ俺のところに来るか解らないけど。


「シュタインヘルトが今どこにいるか、うちは知っとるけどな。今回はアリウスはんとの交渉材料に使うつもりはないで」


 アリサはシュタインヘルトの居場所を告げる。だけど、そこは想定外の場所だった。


 なあ、アリサ。なんでシュタインヘルトが、魔王のところにいるんだよ?


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????



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