第58話:まだ終わらない1日


 事後処理を終わらせた後。エリクの騎士と諜報部の連中には、交代で休んで貰う。

 朝までまだ時間があるし。みんなもそれぞれの部屋で休むことにした。


 俺は王都に帰るまでは起きているけど。いや、こういうときに油断して後悔したくないからな。

 家に帰るまでが修学旅行って話もあるし。寮に帰ってから眠れば良いからな。


 翌朝は少し遅い時間に起きて、みんなで一緒に朝飯を食べた。結局予定より早く、昼には出発して王都に戻ることになった。


 ミリアはまだ顔色が少し悪いし、疲れている感じだけど。

 ソフィアとサーシャとお喋りしながら、それなりに楽しそうにしている。


 ソフィアとサーシャもミリアの様子に気づいて心配しているけど。ミリア本人が大丈夫と言うから、優しく見守っている感じだな。


 結局、帰り道は王都に着くまで襲われることはなかった。

 俺たちは馬車でそのまま学院に行って解散することになる。


「ねえ、ミリア。少し早く帰って来ましたので。これから私の部屋でお喋りしませんか? サーシャも一緒に、今夜は私の部屋でお泊まり会をしましょう」


「そうですわ。私もまだお喋りしたいんですの。ミリア、付き合って貰いますわよ」


 ソフィアとサーシャが優しい笑みを浮かべてミリアを誘う。


「でも、明日は授業があるわよ」


「着替えと授業に必要なモノを持ってくれば問題ありませんよ」


「それに美味しいお菓子とお茶も必要ですね」


 ミリアも2人の意図を理解しているんだろうな。はにかむように笑う。


「ソフィア、サーシャ……ありがとう。気を遣わせちゃったわね」


「ミリアは何を言っているです? 私たちはお喋りしたいだけですよ」


「そうですわ。ミリアこそ変な気を遣ったらダメですよ」


「うん、解ったわ。部屋に戻って支度をしたら、すぐに行くわね」


 いや、盗み聞きしてた訳じゃないからな。俺もミリアのことが少し心配だったんだよ。

 だけどソフィアとサーシャに任せておけば、大丈夫そうだな。


「じゃあ、俺は帰って寝るよ。みんな、また明日学院でな」


 2日くらい眠らなくても問題ないけどな。最長で5日間眠らないで戦ったことがあるし。まあ、そこまでやると後がきついけどな。


「アリウス、今回はご苦労だったね。あとの政治的なことは僕の仕事だから、アリウスはゆっくり寝てくれるかな」


 襲撃の件は片付いたけど。残されたヨルダン公爵家の人間や、領地や財産をどうするかとか。政治的な意味での事後処理はまだ残っている。

 だけどエリクが言ったように、それは俺の仕事じゃないからな。


 マルスをエサにした件も、まだ結果を聞いてないけど。エリクのことだから上手くやったんだろうな。


 みんなと別れて学院の敷地の中を歩く。

 昼飯は馬車の中で軽く済ませただけだから、寝る前に何か食べたいんだけど。

 今日は日曜日だから学食はやっていないんだよな。


 寮の夕食の時間にはまだ早いし、街に出て店を探してみるか。

 そんなことを考えながら学院の通用門を出ると。


「いやー、偶然やな。こんなところでアリウスはんに会うとは夢にも思ってへんかったわ」


 真っ赤な爬虫類系の革のローブと、大きな宝石が幾つも付いた首飾り。白い髪と金色の瞳の小柄な女子。

 アリサ・クスノキが目の前にいて、こんな風にわざとらしいことを言ったんだよ。


※ ※ ※ ※


 俺の『索敵サーチ』の効果範囲は5km以上ある。だけどアリサは突然目の前に現われたんだよ。

 いや、ネタは解っているけどな。アリサは俺の『索敵』の効果範囲の外から短距離転移を連発して移動して来たんだよ。


 まあ、他にも俺が王都に戻ったタイミングでアリサが現れた理由とか。訊きたいことは色々あるけどな。


 とりあえず腹が減っているからな。適当にメシが食べられる店に入る。


 そこは平民の学生が通う食堂で。俺も何度か来たことがある。

 50歳くらいの夫婦だけでやっている小じんまりとした店だ。


「おっちゃん、今日のおすすめは何や?」


 店に入るなり、アリサが店主に気軽に話し掛ける。

 アリサのエセ関西弁に、店主は最初戸惑っていたけど。アリサのコミュ力は半端ないからな。


 アリサと店主は直ぐに仲良くなって。気がつくと2人分のおすすめ定食と、サービスの肉の串焼きが俺のテーブルに並んでいた。


「それで。アリサ、今度は何の用だよ?」


 食べながらアリサに訊く。おすすめ定食の皿は1分で空になって、今は串焼きを食べているところだ。


「アリウスはんは食べるのも豪快やな。見ていて気持ちがええわ」


 アリサは相変わらずマイペースだよな。


「なあ、アリウスはん。ちょっと面倒臭い話と、凄く面倒臭い話があるんやけど。どっちから聞きたい?」


「俺はどっちも聞きたくないよ」


 アリサが来た時点で。面倒な話を持って来たことは解っていたけどな。


「まあ、そう言わんといてや。聞いておいた方が、アリウスはんのタメやで」


 意味深な笑みを浮かべて、アリサは話し始めた。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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