第51話:第1ラウンド


 金で装飾された白い馬車が、時速80kmで街道を滑走する。

 周りを固めるのは白銀の鎧を纏う騎士たち。完全に目立ち捲ってるよな。


「なあ、エリク。別荘に着くまでは襲撃される可能性がないってことか?」


 途中で襲わせるつもりなら、もっと遅い移動方法を選ぶだろう。時速80kmじゃ高レベルの奴か魔物モンスターしか追いつけないからな。


「そういう訳じゃないけど、街道で襲われると他の人に迷惑が掛かるからね。僕としては別荘に着くまで待って欲しいんだよ。だけど相手がやることだからね。誘導はするけど、コントロールはできないよ」


 とりあえず、警戒はしておくべきってことだな。

 まあ、それは良いんだけど。


「じゃあ、次は私の番ね。ソフィアの性格だとジョーカーは……よし、こっち! え……嘘でしょ!」


「うふふふっ! 私の方がミリアよりも上手みたいですね」


「ミリア、今度は私の番ですわ」


「サーシャ、ちょっと待って……さあ、好きなのを引いて良いわよ!」


 俺とエリクが話している傍で。ソフィア、ミリア、サーシャの3人が、お茶を飲みながらトランプをしている。

 襲撃される可能性があることは、3人も当然知っているけどな。


「おまえら、良い度胸してるよな」


 何を言ってるのかしらという感じで、ソフィアが悪戯っぽく微笑む。


「この前も言いましたよね。エリク殿下のやることですし、アリウスもいますから。私はみんなとの旅行を楽しませて貰うつもりですよ」


「そうよね。戦うことはエリク殿下とアリウスに任せるから。私たちは100%遊びに集中するわよ」


 完全に旅行を楽しむつもりの2人に対して、サーシャは申し訳なさそうにジークを見る。


「ジーク殿下、私は……」


「俺のことは気にするなよ。サーシャも楽しめば良いぜ」


 ジークはダンジョン実習のときに、王家の務めとして自分で考えて行動しろと、エリクに言われているからな。さすがに遊んでいる訳にはいかないだろう。

 だけど3人がトランプをしているのを、チラチラ見ているからな。本当は自分も参加したいんだろう。


 このとき、俺の『索敵サーチ』が反応する。


「エリク。空から襲撃が来るけど迎撃するか? 結構本気で殺しに来ているみたいだけどな」


 俺の『索敵』の効果範囲は5 kmを超えているから反応があったけど。空を飛んで来るなら、そろそろ視認できる頃だな。

 ダンジョン実習のときの『掃除屋スイーパー』よりも明らかにレベルが高い奴が、近づいて来るんだよ。


「襲撃です! ドラゴンが来ます!」


 護衛たちが慌てて部屋に飛び込んで来る。外の連中も気づいたみたいだな。

 『索敵』の反応で騎士たちが馬車の前方で陣形を組んでいるのが解る。だけど上から攻撃されたら、陣形なんて意味がないけどな。


「こんなところで襲撃するなんて、少しは周りの迷惑を考えて欲しいよ」


 ドラゴンが襲撃して来てもエリクは慌てていない。ソフィアとミリアも気にせずに、トランプを続けている。

 ジークとサーシャは戸惑って、マルスは顔を引きつらせているけどな。

 

「ドラゴンが相手だと僕の騎士じゃ被害が出そうだし。まだ手の内を晒したくないからね。アリウスにお願いするけど、飼い主・・・は殺さないでくれるかな。アリウスならできるよね」


 誰が襲撃して来るのか、エリクは解っているみたいだな。


「何、ドラゴンの襲撃だって? 本当なのか!」


 ソファーで居眠りしていたバーンが、護衛に起こされて興奮している。


「アリウス、ドラゴンを狩りに行くのか。だったら俺も……」


「バーン殿下、何を考えているんですか!」


「そうですよ、殿下! 絶対に止めてください!」


 護衛たちが慌てて止める。こいつらも苦労しているよな。


「じゃあ、ちょっと行って来るよ」


「アリウス、待ってください」


 振り向くと、ソフィアが気遣わしげに俺を見つめていた。


「貴方なら大丈夫だと思いますが。気をつけてくださいね」


「そうよ、アリウス。何があるか解らないんだから、油断したら駄目だからね」


 ミリアは言い方がアレだけど、心配しているのは解る。2人とも良い奴だからな。


「ああ、気をつけるからさ。ソフィアとミリアは旅行を楽しんでいてくれよ」


 俺は短距離転移で馬車の上空に移動する。飛行魔法フライは当然発動済みだ。


 斜め右前方から急速に近づいて来る赤いドラゴン。『索敵』の反応から大よその強さは解っていたけど、鑑定したら255レベルだった。

 ドラゴンは空中からブレスで攻撃して来るから、レベル以上に厄介なんだよ。


 だけど今回ドラゴンはオマケで、背中に乗っている赤いフルプレートの奴の方が明らかに強いからな。


 空中で加速して一気に距離を詰める。魔力を込めた剣でドラゴンを縦に両断した。

 まあ、所詮は200レベル台だし。高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』のエンシェントドラゴンは数倍のレベルだからな。


「随分と好きにやってくれるじゃねえか。てめえ、何者だ?」


 真っ赤なフルプレートを纏う髭面の巨漢が空中に浮かぶ。まあ、飛行魔法くらい発動しているよな。

 身長は2mを余裕で超えていて、横幅は俺の倍以上あるな。

 巨漢は無骨な両刃の戦斧を両手に1本ずつ構える。


 ダリウスから諜報部が集めた情報は聞いているし、独自で情報収集もしているからな。俺はこいつが誰か知っているんだよ。


 『闇落ちした竜騎士』ブラスト・ガーランド。元S級冒険者の『掃除屋スイーパー』だ。通り名の方は自分で勝手に名乗っているらしいけどな。


 パーティーの仲間を皆殺しにして、冒険者資格を剥奪されたとか。相当凶暴だって噂だけど。見た目に騙される奴が多そうだな。

 ブラストはこんな格好をしているけど、一番得意なのは魔法だからな。勿論、鑑定したから解ったんだけどね。


「俺はアリウス・ジルベルト。王立魔法学院の学生だよ。ああ、言っておくけど冒険者のアリウスとは関係ないからな」


 一応、言っておく。信じる信じないは自由だけどな。


「へっ! ハッタリを言うなら、もっと上手くやりやがれ! こんなところにSSS級のアリウスがいる筈がねえだろう。あいつはソロで『ギュネイの大迷宮』を攻略中って話だからな」


 いや、布石は打っておいて正解だな。カーネルの街の冒険者ギルドに毎日のように通って、アリバイを作った甲斐があるよ。

 だけど俺は『ギュネイの大迷宮』を攻略中だなんて一度も言ってないけどな。


「待てよ、アリウス・ジルベルトって……そうか! てめえが元SS級のダリウス・ジルベルトの息子か。ならそれなりに強えことも頷けるぜ。

 俺のドラゴンを殺しやがって! 天然のドラゴンは貴重なんだぜ。この俺を怒らせたことを、後悔させてやる!」


 ブラストは2本の戦斧を軽々と振り回して攻撃して来た。パワーはあるけど技術はイマイチだな。

 まあ、戦斧の攻撃はブラフで、魔法を放つタイミングを計ってるのは解っているけどな。


 魔法で不意討ちするのも戦術だから、セコイという気はないよ。だけど俺に付き合う義理はないからな。


 さらに加速してブラストに迫ると、奴が反応する前に殴りつける。

 吹き飛ばされたブラストが、背中から激突して地面が陥没した。


 とりあえず、まだ生きているし。問題ないな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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