第52話:敵に回したくない奴


 ブラストに手錠と足枷を付けて魔力を封じる。クリスに使ったのと同じ魔道具だ。

 ブラストのレベルは378だけど、魔力を封じればエリクの騎士でも抑えられるからな。


「アリウス、ありがとう。良くやってくれたね。おかげでこっちの被害はゼロだよ。後のことは僕に任せてくれるかな」


 エリクの騎士たちがブラストを荷物用の馬車に連れて行く。

 荷馬車用の馬車には、魔道具の檻が積まれていた。鑑定してみたけど、S級冒険者でも破壊できないほど頑丈な奴だ。

 用意周到なエリクは、俺と同じような用意をしていたってことだな。


 さらには2人の騎士が同乗して監視するらしいから、魔力を封じたブラストが脱出するのは不可能だろう。


「なあ、エリク。ブラストの襲撃はエリクの想定範囲内みたいだけど。他にも襲撃して来る奴らの中に、ブラスト並みか、それ以上の奴がいると思うか?」


 俺はブラストが襲撃して来ることを知っていた訳じゃない。ブラストという『掃除屋スイーパー』の存在を知っていただけだ。

 諜報部も俺自身も、今回のヨルダン公爵の戦力を把握してないんだよ。


 ダンジョン実習のときは、外壁に囲まれた王都だから、侵入した『掃除屋』を把握することができた。だけど王都の外だと、どこからでも侵入できるからな。


「僕はいると思っているよ。ヨルダン公爵はなりふり構わずに、僕たちを殺しに来ているからね」


 そんな話、聞いてないけどな。


「エリク、おまえは何をしたんだよ?」


「僕はそんなに大したことはしてないんだけどね」


 エリクは俺に近づいて来て、小声で囁く。


「ヨルダン公爵の側近を何人か買収して、買収したことをわざとバラしたんだよ。そのせいでヨルダン公爵は疑心暗鬼になっているみたいだね。

 ああ、買収した側近もヨルダン公爵が誰を刺客に雇ったかは知らなかったけどね」


 なあ、エリク。いつもの爽やかな笑みを浮かべながら、おまえは何を言ってるんだよ。


「あとはヨルダン公爵の派閥の貴族に圧力を掛けて、大半を離反させたんだ。どっちにつくのが得か教えてあげたら、みんな素直に従ってくれたよ。それと商人たちにも……」


 おい、ヨルダン公爵を完全に追い詰めているだろう。


 ヨルダン公爵は仕掛けて来るとは思わないタイミングで仕掛けるような性格とか、エリクは言ってけど。おまえが追い詰めたから、動いただけの話だよな。


「何でエリクはそこまでやるんだよ?」


 俺の質問に、エリクは爽やかな笑みのまま答える。


「アリウス、何を言ってるんだよ。ヨルダン公爵は僕に喧嘩を売ったんだからね。今後同じことする奴が出ないように、徹底的に叩き潰すに決まっているだろう」


 こいつだけは絶対に敵に回したくないな。

 初めてそう思ったよ。


「本当にドラゴンを討伐したんだな」


 このタイミングで、みんなが馬車から出て来た。

 ブラストを閉じ込めるまでは万が一があるから、待っていて貰ったんだけど。


「それにしても凄いな! 縦に真っ二つじゃないか! クソ!  アリウスが仕留めるところを見たかったぜ!」


 真っ先に出て来たバーンがドラゴンを見て興奮している。

 だけど悪いけど、今は暑苦しいバーンがいつもよりもウザく感じるんだよな。


「さすがはアリウスですね。怪我人もいないみたいですし」


 ソフィアが満面の笑みを浮かべる。エリクの話の後だと、ソフィアの笑顔に癒されるよな。


「ねえ、アリウス。何かあった? どうしたのよ。いつものアリウスじゃないみたい」


 ミリアがマジマジと俺を見る。


「いや、別に何でもないよ」


 ミリアはまだ納得していないみたいだけど。エリクを敵に回したときの怖さを知っただけだからな。

 エリクが良い奴だってことは、変わりないんだよ。


「エリク、ドラゴンの死体はどうするんだ? ドラゴンの素材は貴重だろう」


 ダンジョンだとドラゴンを倒しても魔石しか残らないからな。ブラストも言ってたけど、天然のドラゴンは結構貴重なんだよ。


「アリウスが倒したんだから、好きにして構わないよ」


 そういうことなら遠慮なく貰うか。

 俺に素材を使って何かを作る趣味はないけど。欲しい奴がいたら適正価格で提供すれば良いからな。

 俺はドラゴンを丸ごと収納庫ストレージに回収する。


「お、おい……何だよ、今の?」


 まさかドラゴンを丸ごと回収するとは思っていなかったのか。周りの護衛たちが完全に引いている。

 まあ、普通の奴の収納庫にドラゴンなんて入らないからな。


 ジークとサーシャも普通に驚いているし。マルスは顔を引きつらせているけど。

 他の4人の反応は違った。


「アリウスと一緒にいたら、こんなことでイチイチ驚いてられないわよ」


「そうですね。アリウスのやることですから」


「ソフィア。その言い方だと、アリウスを僕と同じレベルで扱っているように聞こえるんだけど。僕の方がアリウスよりもマシだからね」


「いや、エリク殿下とアリウスじゃ全然タイプが違うが。やっていることのヤバさは同レベルだろう」


 俺の扱いが悪い気がするのは、気のせいじゃないよな。

 だけどエリクのやることの方がエグいと思うのは、俺だけなのか?


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る