第50話:攻略と旅行


 2つ目の最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』に出現する魔物モンスターは悪魔じゃなくて魔神なんだよ。

 正確に言えば『偽神デミフィーンド』って呼ばれる下級の魔神だけどな。


 その姿は山羊の角と蝙蝠の翼が生えた美丈夫イケメンだ。身長は20mを超えているけどな。


 黒い地獄の業火ヘルズフレイムを纏っているから近づくだけでHPが削られるし。攻撃が直撃すれば俺のHPでも半分近く持っていかれるんだよ。

 口からブレスまで吐くし。炎のブレスなのに光のブレス並みに速いのはどういうことだよ?


 単純に攻撃力を比較すると『太古の神々の砦』のラスボス『究極のアルティメット騎士ナイト』の方が強い。だけど『究極の騎士』は1体なのに『偽神』は1,000体以上同時に出現するからな。


 いや、強い敵と戦うのは燃えるけどさ。ソロだと完全に火力不足なんだよな。

 グレイとセレナと一緒に攻略したときは普通にクリアできたけど。1人だとスキル全開で攻撃して何とか倒せるレベルだからな。今の俺の継続戦闘能力で1階層をクリアするのは厳しいかな。


 まあ、新しい階層に挑むときはいつもギリギリだけどな。クリアすることなんて考えないで戦闘に集中する。俺がもっと強くなればクリアできることは解っているからな。

 一瞬でも気を抜けば死に直結する戦いを続けることで、自分が強くなっていくことが実感できるんだよ。


 自分の限界を見極めて、撤退するタイミングを選択する。勿論、本当に限界ギリギリじゃなくて、退路の分の余力は残している。

 判断を間違えれば確実に死ぬし、見極めが甘いと強くなれないからな。


 撤退するのも簡単じゃない。階層全体を俯瞰する感覚と、目の前の敵の動きを同時に意識しながら、攻撃と回避の最適解をコンマ1秒毎に導き出す。

 それができないと生き残れないからな。


※ ※ ※ ※


 今週末はみんなと王家の別荘へ旅行に行く――というのは建前で。

 エリクの狙いはダンジョン実習で起きた事件の本当の黒幕、ビクトル・ヨルダン公爵を誘き出すことだ。


 だから今週も金曜から授業をサボって……いや、エリクに付き合うから公休扱いか?


「アリウス、公休にはならないよ。そんなことを許したらキリがないからね。王子の僕も欠席扱いだよ」


「今さら授業をサボったところで、アリウスには関係ないだろう。おまえは授業をサボり捲っているからな」


 バーンの機嫌が悪いのは、俺が剣術や魔法実技の授業までサボっているからだ。

 クラスが違うバーンと一緒の授業は、あとは月1回のダンジョン実習くらいだからな。


 いや、俺だって毎回サボるつもりはないよ。だけど今は『魔神の牢獄』の攻略を優先したいんだ。

 本当は週末も攻略したいけど、エリクとの約束だしな。ヨルダン公爵の刺客も侮れないし。


「バーン、別荘に着いたら模擬戦をやるか?」


「おお、良いな。さすが親友、そう来なくちゃな」


 バーンは豪快に笑うけど。


「エリクのパーティーでおまえに揶揄からかわれたことは、まだ片がついてないからな。みっちり鍛えてやるよ」


 俺が友だちって言葉に過剰反応したことを、バーンに可愛いらしいとか言われたからな。

 友だちと呼ぶことにはもう慣れたけど。バーンに借りを返していないからな。


「な、なあ、アリウス……模擬戦は楽しみだが、力加減はほどほどにしてくれよ」


「何だよ、バーン。遠慮するなよ。殺さない程度に本気を出してやるからさ」


 勿論、冗談だけどな。バーンを揶揄ってちょっとスッキリしたな。


「郊外に行くからね。大型の馬車を用意したよ。荷物用の馬車も用意したから、そっちも使ってくれるかな」


 エリクが用意したのは金で装飾された白塗りの馬車。荷物用の馬車も同じデザインだ。


 みんなが乗る方の馬車は大型のキャンピングカーみたいなサイズだ。中は二重構造で、外側の廊下のような部分は侍女や護衛が待機するスペースだ。


 内側の部屋の部分は柔らかいカーペットが全面に敷かれている。その上にテーブルを囲んで5人は座れそうな革張りのソファーが2脚に、肘掛け椅子が4脚。広間がそのまま移動する感じだよな。


 派手なのは馬車だけじゃないんだよ。馬車を引くのは4頭の白馬だ。しかも普通の馬じゃなくて、ユニコーンの血が混じっていると言われるノーコーンだからな。まあ、俺は鑑定したから解るんだけど。


 馬車に同乗するのは、ソフィアとサーシャの侍女を兼ねた護衛が2人ずつ。バーンとジークも護衛を2人ずつ連れている。あとはエリクの侍女が2人の計10人だ。


外の護衛は騎馬を駆る10人の騎士と、御者席に座る2人の騎士の計12人。全員白銀の鎧を纏っていて、騎士が乗る馬も全部ノーコーンだ。

 ダンジョン実習で教師として俺たちの引率役をしたオスカーや、最下層に一緒に転移したターナ、ジール、ジェリド、ガイアの4人もちゃっかりいる。


 だけど護衛の本命は騎士じゃないんだよな。今も『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を併用して隠れている諜報部の奴らだ。

 そいつらが馬に乗っていないのは、自分で移動した方が速いからだ。


 ノーコーンは普通に時速80km以上出るからな。前世の車並みのスピードで街道を走り抜ける。

 こんな速度で走ると振動が凄そうだけど。そこは魔法がある世界だからな。

 馬車自体が一種の魔導具で、僅かに空中に浮かんでいるからな。全く振動がないんだよ。滅茶苦茶目立っているけどな。


「えっと……なんでボクが呼ばれたのかな? いや、呼んでくれたことは嬉しいんだけど」


 マルスが居心地悪そうに肘掛け椅子に座っている。

 ちなみに護衛は連れて来ていない。


「枢機卿猊下から話は聞いているよね。マルス卿が望んでいるように、君と親交を深めようと思ってね」


 エリクがいつもの爽やかな笑みで応えるけど、絶対に嘘だよな。エリクの交渉相手はマルスじゃなくて、父親の枢機卿だからな。


 何か取引をしたんだろうけど。俺にはマルスが売られて行く子牛に見えるよ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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