第48話:無自覚
「ソフィアのブラウス、蝶の刺繍が素敵ですわ」
「サーシャ、ありがとうございます。貴方のチュニックも良い色ですね」
市場までは徒歩で移動する。王族や貴族は普段から馬車を使うけど。ソフィア曰く、友だちと遊びに行くときは喋りながら歩くのが基本らしい。
俺は冒険者だから馬車なんて使わないし。シリウスとアリシアは元A級冒険者の家庭教師に鍛えられているから、みんなよりも足が速いくらいだな。
今日の女子たちはカジュアルな服を着ている。制服以外のみんなを見るのはエリク主催のパーティー以来で、ミリアに関しては初めてだな。あとはダンジョン実習や剣術の授業で装備を付けたところを見たくらいか。
正確に言えばソフィアとサーシャは子供の頃に社交界で見ているけど、それをカウントしてもな。
「ソフィアの服は新鮮な感じで良いな。ミリアの服も良く似合っているよ」
「あ、ありがとうございます……」
「何よ、いきなり……でも、ありがとう……」
前世では女子の服はとにかく褒めろと言われた記憶があるけど、実行したことはなかったんだよ。
だけど今日は素直に言えた。2人は嫌そうじゃないから問題ないよな。
「何だ、アリウス。サーシャのことは褒めないのか?」
ジークが少し不機嫌な感じで言うけど。
「ジーク、それはおまえの役目だろう。俺は遠慮してるんだよ」
「そうか……」
これでジークも納得したみたいだな。
ゲームでは描写されなかったけど、護衛が一緒なのは仕方ないよな。ジークは王子だし、ソフィアとサーシャは大貴族だからな。学院の外に出るときは必ず護衛がつくらしい。
ジークの護衛が4人でソフィアとサーシャの護衛が2人ずつだ。全員目立たない同じような格好をしているけど、動きを見れば誰の警護をしているのか解るんだよ。
誤解がないように言っておくけど、ジークの護衛はみんなを守るように動いているからな。
まあ、この面子なら護衛がいなくても一般人に後れを取ることはないけどな。
魔法実技の授業はサーシャ以外は全員Aクラスだし、サーシャもBクラスだ。剣術だってみんなそれなりにこなせる。
実戦経験が豊富とは言えないけど、ダンジョン実習では普通に戦っていたからな。
シリウスとアリシアも9歳だけど、すでに8レベルだからな。
この世界の一般人は大半が0レベル。それなりに喧嘩慣れしてる奴や、とりあえず剣術や魔法が使えるって奴が1レベルってところだな。
グレイは総合的な強さの指標がレベルだって言ってたけど、俺の感覚だと戦闘系の経験を積むことでレベルが上がる感じだ。
一般人は戦闘を経験したり、戦闘に関する技術を習得することがないからレベルが上がらないんだよ。
みんなで喋っているうちに市場に到着した。午後の市場は食料品が粗方片づいていて、穀物や酒を扱う店以外は素材や雑貨、あとは衣類を扱う店がメインって感じだな。
それでも王侯貴族が行くような店じゃないけど。ジークやソフィアにとっては市場調査という意味があるし。普通に市場を見て回るのが楽しいみたいだな。
「このお店の古着は……あまり質が良くないわね。縫製の仕方が悪いから解れちゃってるわ」
「僕は服のことは良く解らないけど。さっきの店の大豆が良い豆なのは解ったよ。マイアさんに教えて貰ったからね」
うちの妹と弟は市場に慣れているな。まあ、ジルベルト家は貴族の格とかどうでも良くて、一般常識を教えているからな。
ダリウスは最下級の貴族の騎士爵出身だし。レイアは平民出身だからな。2人とも元冒険者ということもあって、色々な意味で実力主義なんだよ。
「ジーク殿下。このブローチ、可愛いですね」
「そうだな。サーシャに似合いそうだから買ってやるよ」
「ジーク殿下、良いんですか?」
「ああ、こんな安物で悪いがな」
「そんなことありません。嬉しいです!」
ジークとサーシャだけ『恋学』してるよな。ジークはミリアとも仲が良いけど、ミリアとは普通の友だちって感じだからな。
だけど今も護衛が一緒にいるのに、全然気にしないでイチャつくよな。まあ、2人は正式な婚約者だし。護衛の騎士たちも慣れたもので完全に空気と化しているからな。
「あの、もし良かったら」
「飲み物くらい問題ないですよね」
屋台で買った飲み物を護衛たちに配ってるのは、うちの弟と妹だ。配る前にジークたちに許可も取っている。
「シリウス、アリシア、ありがとうございます。2人に代わってお礼を言いますね」
ソフィアの護衛が飲み物を受け取ると、ソフィアが嬉しそうに笑う。他のみんなもシリウスとアリシアに礼を言っている。
ホント、うちの弟と妹は良くできているよな。
「なあ、シリウスとアリシアも欲しいものがあったら言えよ」
ご褒美として、俺も2人に何か買ってやろうと思ったんだけどさ。
「母様に無駄遣いしたらダメって言われてるから要らないわ」
「うん。お金は大切だから、必要な物以外は買っちゃダメだよ」
うちの弟と妹はしっかりしていた。だったら後で必要なモノを渡してやるか。
「なんだか、アリウスの方が2人の弟みたいね」
ミリアが悪戯っぽく笑う。
「ああ。俺よりしっかりしているし、自慢の弟と妹だな」
「何よ、少しは否定しなさいよ。
「いや、本当にそう思うんだよ。俺はほとんど実家に帰ってないから、正直に言うと兄弟って実感がなかったけど。この前実家に行ったときに、家庭教師に習っているところを見たけど。2人とも真面目で努力家なんだよな。
シリウスとアリシアは可愛くて賢いし。強くなることしか考えてない俺には、本当に勿体ないくらい良い弟と妹だよな」
「アリウス兄様、そんなことないわ!」
「そうだよ。兄様の方がずっと凄いよ!」
人前で褒められて恥ずかしいのか、アリシアとシリウスが慌てて否定する。ホント、可愛いよな。
「アリウスって……」
ミリアがジト目で見ている。
「何だよ、ミリア。言いたいことがあるなら言えよな」
「じゃあ、言わせても貰うけど。アリウスは人のことは良く見ている癖に、自分のことになると自覚がなさ過ぎるのよ。シリウスとアリシアは恥ずかしいよりも嬉しいのよ。貴方にあんな風に褒められたら、嬉しいに決まっているでしょう!」
「そうか? 俺は思ったことを言っただけだけどな」
ミリアに言われて2人の顔を見る。顔は真っ赤だけど、確かに恥ずかしいというよりも照れてる感じだな。
「みんな、何の話をしているんですか?」
丁度やってきたソフィアに、ミリアが溜息をつく。
「今、アリウスに無自覚だって教えていたところよ」
「まあ……ミリアは本当にハッキリ言いますね」
「だって、アリウスにはストレートに言わないと伝わらないから」
だけど、なんでミリアは怒っているんだよ? それにソフィアも否定しないってことは、俺が無自覚だって思ってるんだよな。だったら直した方が良いな。
「俺が無自覚だと思うならさ、そう思ったときに今みたいに指摘してくれないか。指摘してくれれば、みんなとの感覚の違いを比較できるからな」
「それくらい別に良い……いや、良くないわよ!」
「え? 何でだよ?」
「だって、そんなことを言ったら……とにかく、もうこの話はお終いよ!」
ミリアがいきなり話を切り上げたけど、俺は何か不味いことを言ったのか?
「今のは……私もアリウスが悪いと思います」
ソフィアに困った顔で言われてもな。俺には何のことだか解らないんだけど。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????
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