第46話:小さな来客
「ほな、うちは帰るわ」
話は済んだという感じで、アリサはアッサリと帰っていった。
最後に意味深な台詞を言ってからな。
「けどアリウスはんとは、また直ぐに会うことになると思うわ。うちは楽しみやで」
どうせ何か企んでるんだろう。俺は全然楽しみじゃないけどな。
とりあえず、アリサの件は保留だな。
本人は転生者だって言ってたけど、まだ本当なのか解らないし。
手を組みたいとか言われてもな。何を考えているか良く解らない奴と、手を組むつもりはないからな。
俺が転生者だとバラすなら、売られた喧嘩は買うよ。だけどさっきの感じだと、今のところはそのつもりがないみたいだからな。
まあ、今日のところは話が済んだからな。俺も帰るつもりだったけど。
面倒なことは終わってなかったんだよな。
「クリスのパーティーのメンバーが話があるって言うから、私は心配してたのに……アリサって人に迫られて、アリウスは満更じゃないみたいね」
ジェシカがジト目で見ている。
まあ、アリサが『
「ジェシカ、勘違いするなよ。アリサの目当ては俺の力で、手を組まないかって誘われただけだよ。だけど俺は何を考えているか良く知らない奴と、手を組むつもりはないからな」
「あの女がアリウスを
誘われたのは間違いじゃないけど、曲解してるよな。まあ、アリサが思わせ振りなことをしたから仕方ないか。
「アリサが勝手に言ってるだけだよ。なあ、ジェシカ。そんなことより、この前言った話だけど。最近あまり来なかったことの埋め合わせとして、今度おまえに1日付き合うよ」
このタイミングで言うと誤魔化すみたいだけど。アリサのことでジェシカに言い訳する気はないからな。
「え……良いの? そんなこと言ったら、本当に丸1日付き合って貰うわよ」
「ああ。クリスのことでジェシカを巻き込んだからな。1日くらい構わないよ」
「アリウスと1日中2人きり……この
すっかり機嫌が直ったジェシカが何かブツブツ言ってるけど。まあ、これで問題は解決だな。
「ジェシカはチョロ過ぎるけど。アリウス君も墓穴を掘ったことに気づいてないよね?」
マルシアがニマニマ笑う。こいつ、何を言ってるんだよ?
「マルシア。そう言えば、おまえは勇者パーティーのグラスランナーが気にいらないとか言ってたよな。俺はほとんど話をしなかったけど、どこが気に入らないんだ?」
「なに、アリウス君。また誤魔化そうとしてる? まあ、良いけどね。
あのグラスランナーの女、匂いがヤバイんだよね。ああ、臭いって意味じゃないよ。死臭を纏ってるって感じかな」
俺は鑑定したから知ってるけど。グラスランナーのリンダ・ロッシュは、単にレベルが高いってだけじゃないんだよな。
だけど勇者パーティーの奴らは、みんなそんな感じたからな。
マルシアは同じ
「ジェシカ。俺は今週予定が詰まってるから、おまえと付き合うのは来週で構わないよな?」
「だったら、来週の火曜日はどう?」
「ああ、解った。じゃあ、待ち合わせ時間とか細かいことは
「うん、アリウス。楽しみにしてるわね!」
ジェシカとの話も済んだからな。今度こそ俺も帰ることにするか。
※ ※ ※ ※
翌日の放課後。俺はソフィアたちと遊びに行く約束をしている。
メンバーは俺とソフィアとミリアにサーシャ、あとはジークだ。
まあ、ミリアとサーシャがいるんだからな。2人と仲の良いジークが来るのも不思議じゃない。
特にサーシャはジークに対して1人『
だけどこのメンバーなら、誘われるのは俺じゃなくてエリクだろう。なんて言ったら、何故かソフィアに睨まれたんだよ。
「エリク殿下には事前に報告していますから、何の問題もありません」
問題ないことはわかったけど。だから何で睨まれたんだ?
ソフィアに私服で遊びに行くからと念を押されたから、一旦寮の部屋に戻ることにする。
服なら
寮に戻ると、俺の部屋の前に小さな銀髪が2人。
「アリウス兄様、お帰りなさい。えへへ……来ちゃった!」
「兄様、ごめんなさい。アリシアがどうしても兄様のところに行きたいって言うから……」
アリシアとシリウス。今年9歳になる双子の俺の妹と弟だ。
まあ、だいたいの状況は理解したけどな。
「だって、兄様が全然家に帰って来てくれないから……それにシリウスはズルいわよ。シリウスだって兄様に会いたいって言ってたじゃない!」
「いや、僕はそんなこと……」
妹と弟にこんなことを言われたらな。これから用事があるからって、追い返す訳にもいかないよな。
前世の俺に兄弟はいなかったし。冒険者になってからずっと世界中を巡っていたから、2人には数回しか会ったことがないんだよな。だから俺には兄弟の感覚が良く解らないけどな。
「アリシア、シリウス。誰かに出掛けるって言って来たのか?」
「……お手紙は置いて来たわ」
「……」
勝手に家を抜け出して来たってことか。俺も散々やったから偉そうなことは言えないけどな。
「勝手に出掛けると、みんなが心配するだろう。今日のところは俺からマイアさんに
今度から俺のところに来るときは、必ず誰かに言ってからにしろよ」
マイアさんはダリウスとレイアが不在の時に家の管理を任せている侍女長だ。
彼女は元冒険者で魔法が使えるから、俺も用事があるときに何度か伝言でやり取りしたことがある。
「兄様、ごめんなさい……」
「僕も……ごめんなさい」
「いや、反省したならもう良いよ。それにしても、おまえらはどうやって俺の部屋まで来たんだよ?」
学院の生徒の8割が貴族だからな。それなりに警備が厳重で部外者が勝手に入ることはできない。
それに学院の敷地は広いし、俺は寮の場所なんて教えてないからな。アリシアとシリウスが俺の部屋を見つけるのは難しいだろう。
「僕たちが名前を言ってアリウス兄様のところに行きたいって言ったら、学院の人が案内してくれたよ」
「うん。私とシリウスのことを知ってるみたいで、父様と母様にはお世話になっていますって言ってたわ。管理人室で待っていて欲しいって言われたけど断ったの。だって兄様が帰って来たときにお部屋の前にいて、ビックリさせたかったから」
つまり学院の人間が王国宰相に忖度したってことか。だけど家族だからって、俺の部屋を勝手に教えるのはどうなんだよ?
まあ、おかげでアリシアとシリウスが迷子にならなかったから許してやるか。
「俺はこれから出掛けるけど。おまえたちも一緒に来るか?」
「「え……良いの?」」
期待に満ちた2人の
「ああ。急いで着替えて来るから、ちょっと待っていろよ」
部屋に入ってドアを閉めるなり、一瞬で着替える。俺は即座に装備を変更できるスキルを持っているからな。服を替えるくらい簡単なんだよ。
直ぐに戻ると、アリシアとシリウスに驚かれたけどな。
「人を待たせているから、ちょっと急ぐからな。少し恥ずかしいかも知れないけど我慢しろよ」
「「え……」」
俺は2人を左右の腕に抱き抱えて走り出す。
子供2人を抱えて走るくらい、俺のステータスなら余裕だからな。人の間を縫うように駆け抜ける。
「ア、アリウス兄様……やっぱり恥ずかしいよ」
「そ、そうだよ。僕たちはもう子供じゃいんだから」
周りの目を気にして真っ赤になる2人。そういうところが子供っぽいんだけどな。
「じゃあ、もっと速く走って直ぐに終わらせるからな。しっかり掴まっていろよ」
「「え……ちょっと何を……」」
俺は一気に加速して、待ち合わせ場所まで1分で到着した。
アリシアとシリウスは完全に引いてたけどな。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????
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