第45話:アリサの本音


「なあ、うちはさっきから勝手にアリウスはんって呼んどるけど。初対面やさかい、家名で呼んだ方がええか? ジル……おっと! アリウスはんを家名で呼ぶのはご法度やったな。最近、忘れっぽくてあかんな。堪忍やで!」


 俺が王国宰相の息子だと知ってるアリサは、それをネタに何か企んでいるみたいだけど。


「いや、どっちで呼んでも構わないよ」


 まあ、バレたらバレれたでジルベルトの名前を捨てれば良いだけの話だからな。俺は別に王国宰相を継ぎたい訳じゃないし。


 今のタイミングで学院を辞めるつもりはないけど、平民になったら残れるか微妙なところだな。

 だけどエリクに頼めば協力してくれるだろう。エリクに必要なのは宰相の肩書やジルベルトの名前じゃないからな。


 俺がまるで動じないことをどう思ったのか、アリサは意味深な笑みを浮かべる。


「ほな、アリウスはんって呼ばせて貰うわ。なあ、ちょっと遅なったけど。うちのパーティーのメンバーを紹介するわ」


 アリサが4人を紹介する。黒髪で眼鏡の男がリョウ・キサラギ。こいつは見た目も日本人みたいだな。


 金髪のエルフがフォン・リエステラ。赤い髪のドワーフがバスター・ハウンド。オレンジ色の髪のグラスランナーがリンダ・ロッシュ。


 4人の名前を告げるだけで、それ以上の説明はない。

 まあ、俺は鑑定したから解っているけどな。


 仲間たちの紹介が終わると、アリサは酒を追加注文した。俺を含めた6人のグラスにピンク色の発泡酒を注ぐ。


「ほな、改めて。うちらとアリウスはんの手打ちということで、乾杯や!」


 4杯の目の酒を飲み干す。もうこれくらいで十分だろう。


「なあ、アリサさん。あんたの本当の目的は何なんだよ。そろそろ本題に入ってくれないか」


 これ以上茶番に付き合うつもりはないんだよ。


「さすがはアリウスはん、察しが良くて助かるわ」


 アリサはニヤリと笑うと。


「単刀直入に言うわ。うちらの目的はクリスの馬鹿と同じで、アリウスはんを勇者パーティーに入れることや。最年少SSS級冒険者のアリウスはんを勇者パーティーに加えることは、アベル様たっての願いなんや。


 なあ、アリウスはんにとっても悪い話やないで。うちらと一緒に魔王を倒して世界を救う英雄にならんか? そしたら名声も富も女も思いのままや!」


「悪いけど興味がないんだ。他を当たってくれよ」


 俺が即答で断ると、アリサは楽しそうに声を立てて笑い出した。


 そして突然『防音サウンドプルーフ』を無詠唱で発動する。


「勝手に魔法を使ったのは謝るけどな、ここからが本音の話や。

 まあ、アリウスはんならそう言うやろと思ってたわ。SSS級冒険者なら金に困らんし、アリウスはんは二枚目から女に仰山モテるやろ。

 世界救う英雄なんて言われても、うちかてピンと来いへんし。ということで、うちはアリウスはんを誘うのを諦めるわ」


「ちょっと、アリサ……」


「おい、勝手なことを……」


 アリサの台詞に4人の仲間が動揺する。


「あんたら、何を慌ててんの? ええから、ここはうちに任せとき。悪いようにはせえへんで。

 あとな、この話はここだけってことで、アベル様には絶対にチクったらあかんで」


 一睨みで仲間たちを黙らせると、アリサは再び俺に向き直る。


「アリウスはんが勇者パーティーなんてちんけな器に納まる人やないことは解ってるつもりや。

 あんたがもっと弱かったら、うちもアベル様に素直に従って、強硬手段に出ることも考えたんやがな。

 さすがは正真正銘のSSS級冒険者や。うちの鑑定でもレベルが解らんとか、勝てる筈ないわ。

 まあ、鑑定したのはお互い様やからな。怒らんといてや」


 勿論、アリサが鑑定したことには気づいていたけどな。


「アリウスはん。うちもな、魔王を倒して世界を救うとか眠たいことを本気で信じとる訳やないで。アベル・・・とはビジネスとして付き合ってるだけや」


 仲間たちの驚きぶりからして、こいつらも初めて聞く話みたいだな。


「そんなことを言って良いのか? あんたが口止めしたところで、仲間が勇者に報告するかも知れないだろう」


「何、そこは心配ないんや。こいつらかて、誰を怒らせたら1番怖いか解ってる筈や……なあ、そうやろ?」


 アリサが睨みを利かせると、4人の仲間が青い顔で頷く。

 さっきも簡単に黙らせたけど、こいつらの関係が解った気がするな。


「なあ、アリウスはん。うちのことは『さん』なんて付けずに呼び捨てにして欲しいんや。うちとアリウスはんの仲や、堅苦しいのはなしやで。

 うちが『はん』て付けるのは癖みたいなもんやさかい、気にせんでくれると助かるわ」


 俺とアリサがどんな仲なのか解らないけどな。


「別に構わないよ。アリサ、これで話は終わりじゃないだろう」


「勿論、ここからが本番や。なあ、アリウスはん。勇者パーティーの話は抜きにして、うちと手を組まへん? 絶対に損はさせへんで」


 突然の申し出。いかにも怪しいな。


「なんで俺がアリサと手を組む必要があるんだよ?」


「うちはアリウスはんの役に必ず立つ自信があるんや。うちの実力は鑑定したアリウスはんなら解っとるやろ?


 そしてうちにもアリウスはんの力が必要なんや。強いだけじゃなくて、この世界のことを・・・・・・・・良く解っとる・・・・・・あんたの力がな。


 まあ、要するにうちとアリウスはんは相性バッチリってことや」


 アリサは俺のことをどこまで知っているのか。どこまで本気なのかも解らないけどな。


「俺が簡単に了承するとか、アリサも思ってないだろう」


「勿論。今日のところは挨拶だけや。だけどうちは狙った獲物を必ず仕留める女やからな」


 アリサは突然席を立つと、俺の方に近づいて来る。

 俺は座ったままだから、視線の高さがちょうど合った。


「まあ、これからガンガンアピールするさかい。アリウスはん、覚悟しておいてや」


 アリサは俺の方に身を乗り出すと、息が掛かるほど近づいて妖艶な笑みを浮かべる。


「うちは絶対に口説き落とす自信があるで。なにしろ、うちとアリウスはんは□□□□□のよしみやからな」


 途中に口パクだけで声に出さない部分があったけど。アリサが何て言ったのか、俺は直ぐに解った。


 『同じ転生者』――アリサはそう言ったんだよ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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