第44話:本当に面倒なこと


 本当に面倒なことは立て続けに起きるものだよな。

 次の日、再びダンジョンに潜っていたら、ジェシカから伝言メッセージが来た。


『クリス・ブラッドのパーティーのメンバーだって人たちが、アリウスと話がしたいって冒険者ギルドに来てるんだけど。それって勇者パーティーってことよね?


 アリウス、どうする? とりあえずクリスと違って喧嘩腰じゃないみたいだけど。


 あと、この前は色々あって訊くのを忘れてたけど。クリスが来る直前に、アリウスは何か言い掛けてたわよね?


 『だから今度……』とか。あれはどういう意味? 物凄く期待してるんだけど!』


 クリスが勇者パーティーのメンバーだということは、ジェシカたちに話してある。

 知らないと余計なトラブルに巻き込まれる可能性があるからな。


 だけど何だよ、この長文? 面倒な内容が2つ書いてあるんだけど。

 ジェシカには聞こえなかったと思ってたんだけど。まあ、勇者パーティーの方を片付けるのが先だな。


 経験上解っているけど、面倒なことを後回しにすると、余計に面倒なことになるんだよな。

 だから、俺の判断は正しいと思うよ……たぶん。


※ ※ ※ ※


 ジェシカに伝言メッセージで『今から行く』と返事を送ると、俺は転移魔法テレポートでカーネルの街に直行する。


 冒険者ギルドに着くと、ジェシカとマルシアが入口の前で待ち構えていた。


「アリウス、早かったわね。ちょっと面倒そうな人たちだけど、とりあえず話が通じないことはないみたい」


「あたしは気に入らないけどね。とくにあのグラスランナーの女とか……」


 マルシアがめずらしく機嫌が悪いな。だけど今、グラスランナーって言ったよな?


「まあ、とりあえず話を聞いてみるよ。みんなには俺のせいで何度も迷惑を掛けて悪いな」


「何よ、迷惑だなんて。アリウスの役に立てるなら嬉しいわよ」


「ジェシカ、惚気るのは後にしなよ。アリウス君の前だとジェシカは、ホントにポンコツだよね」


「マ、マルシア、何を言ってるのよ! 私は惚気てなんか……」


「なに、今さら否定するの? ジェシカはポンコツな上にヘタレだよね」


「いや、おまえら何をじゃれてるんだよ。俺は勝手に入るからな」


「「あ、アリウス(君)、ちょっと待って!」」


 2人が声を合わせて呼び止める。


「冗談抜きで、油断のならない人たちだから覚悟しておいてね」


「そうそう。あいつらに比べたらクリスが馬鹿に……いや、クリスは凶暴な馬鹿だったけど。あいつらは馬鹿じゃないだけ質が悪いと思うよ」


 ジェシカとマルシアがこれだけ警戒する相手か。まあ、勇者パーティーだからな。

 何が起きても対処できるように、俺はダンジョンに入るつもりで冒険者ギルドの扉を潜った。


 だけど冒険者ギルドの中の雰囲気は、俺が予想していたものと違った。

 

 そこら中のテーブルの上に並ぶ料理の皿と酒のボトル。冒険者たちは上機嫌で酒盛りをしている。


「クスノキさん、悪いな。俺たちまで奢って貰っちまって!」


「気にせんでええで、どうせあぶく銭や。それとうちのことは気楽にアリサと呼んでくれへん? 堅苦しいのは嫌いなんや」


 エセ関西弁? 喋っているのは一番奥のテーブルの中心にいる女だ。


 年齢は20代半ばくらい。白い髪と金色の瞳で小動物のような顔立ち。

 身体も小柄で身長は150cmくらい。格好は派手だ。真っ赤な爬虫類系の革のローブを纏って、大きな宝石が幾つも付いた首飾りを付けている。


 冒険者ギルドに入るなり、エセ関西弁女と目が合う。女は面白がるように笑った。


「あんたが最年少SSS級冒険者のアリウスはんやな、直ぐに解ったわ。やっぱりSSS級は漂う雰囲気が違うんやな」


 女の言葉に一緒のテーブルにいる4人が一斉に俺を見る。

 黒髪で眼鏡の男と、あとはエルフにドワーフにグラスランナーだ。


 俺は世界中のダンジョンを巡っていたから、人間以外の種族を見ることもめずらしくないけど。何と言うか、如何にもRPGのパーティーというメンバーだよな。エセ関西弁女と眼鏡の男以外は。


「ああ。俺に話があるんだってな」


 周りの冒険者たちは変わらずで、酒を飲んで盛り上がっている。

 酒を飲みながらも一部の奴は警戒しているけどな。ジェシカの仲間たちとゲイルたちだ。


「アリウスはん、お初にお目に掛かるわ。うちは勇者アベル様の番頭……ちゃうか。勇者パーティーのサブリーダー、アリサ・クスノキや。

 まずはクリスの馬鹿が迷惑を掛けたことをお詫びするわ。本当にあの暴力馬鹿はどうしようもないわ。何ならうちが監獄に行ってクリスの首を切り落としくるさかい、それで手打ちにしてくれへん?」


 アリサが代表して話をしてるってことは、勇者本人は来てないみたいだな。

 それにしてもいきなり捲し立てるし、物騒なことを言ってるよな。


 アリサはエセ関西弁を喋っているし、名前も日本人みたいだけど。だからといって転生者かどうかは解らない。

 この世界には日本モドキの国があるんだよ。その国と繋がりがあれば、名前だけは日本人のような奴がいてもおかしくない。

 言葉だって普通に日本語と英語で喋ってるからな。関西弁で喋る奴がいても不思議じゃないんだよ。


「いや、別に殺さなくて良いよ。殺すつもりなら自分でやったからな。それにクリスは勇者パーティーのメンバーだってだけで、アリサさんに責任はないだろう」


「いやあ、アリウスはんが太っ腹で助かるわ。さすがはSSS級冒険者や。今日はお詫びにうちが奢るさかい。アリウスはん、まずは駆けつけ3杯どうや?」


 アリサが俺と自分のグラスにピンク色の発泡酒を注ぐ。この冒険者ギルドで一番高い酒だ。


「それじゃ、うちとアリウスはんの出会いに乾杯や」


「ああ、そうだな」


 別に断る理由はないし。もし毒や薬を盛られてもアリウスのステータスなら問題ないからな。グラスを軽くぶつけて、酒を一気に飲み干す。


「アリウスはん、良い飲みっぷりやな。うちは酒の強い男が好きなんや。ささ、もう1杯どうや?」


 勧められるままに、続けざまに酒を飲み干す。まあ、これくらいは付き合ってやるよ。


「なあ、うちはさっきから勝手にアリウスはんって呼んどるけど。初対面やさかい、家名で呼んだ方がええか? ジル……おっと! アリウスはんを家名で呼ぶのはご法度やったな。最近、忘れっぽくてあかんな。堪忍やで!」


 いきなり仕掛けて来たな。バレると色々と面倒だから、俺はロナウディア王国宰相の息子だって隠してるけど。それをネタに揺さぶりを掛けるつもりなのか?


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る