第41話:クリスの目的


「ちょっと、クリスをボコってくるよ」


 魔剣ウロボロスを天井から引き抜いて、意識を失ったクリスを引きずっていく。

 俺が向かったのは、冒険者ギルドの地下にある鍛錬場だ。


 まあ、クリスはジェシカとアランを殺そうとしたんだからな。殺して構わないし、今さら俺は人を殺すことを躊躇ためらったりしないけど。確かめたいことがあるし、クリスにはまだ訊きたいことがあるんだよ。


 クリスと魔剣ウロボロスを床に放り投げて、『完全治癒パーフェクトヒール』を発動する。


「アリウス……てめえ、舐めた真似をしやがって!」


 クリスは魔剣を掴むと、いきなり襲い掛かって来る。


「おまえも懲りないよな」


 俺はクリスをボコボコにしてから、再び『完全治癒』を発動する。


 それを何度も繰り返すけど、クリスの精神は折れなかった。

 回復する度に襲い掛かって来るから、その度にボコボコにする。


 こいつ、ホント精神的にタフだな……ていうか、たぶん俺の知らないスキルのせいだな。


 俺は意識を失っているクリスに手錠と足枷を付ける。これは最難関トップクラスダンジョン産の魔力を封じる魔導具だ。

 魔力を封じればスキルも発動できないからな。


 再び『完全治癒』を発動すると、クリスが意識を取り戻した。


「……て、てめえ! 俺に何しやがった?」


「何って、魔力を封じる魔導具を嵌めただけだよ」


 クリスの様子がさっきまでと明らかに違う。狂犬みたいに凶暴だったのに、今は怯えた顔で俺を見ている。

 ああ、やっぱり『勇者の心ブレイブハート』ってスキルのせいか。


 俺の鑑定レベルならスキルの中身もある程度解析できる。だからクリスに『勇者の心』を使わせて解析したんだよ。


 『勇者の心』は闘争心を掻き立ててステータスを向上させるスキルだ。

 クリスのステータスが異常に高かったのも『勇者の心』を発動してたからだ。スキルを封じたクリスのステータスは低くはないけど、並みの600レベル台ってところだな。


「それで、クリス・ブラッド。勇者パーティーのおまえが俺に何の用だよ?」


 クリスが勇者パーティーの一員だってことは、グレイとセレナが伝言メッセージで教えてくれたんだよ。


 学院があるロナウディア王国の王都周辺以外は、オーソドックス過ぎて没になったRPGの世界だからな。この世界には勇者と魔王が実在するんだよ。


 300年ほど前に勇者によって魔王は滅ぼされた。だけど半年くらい前に勇者と魔王が復活したんだよ。まあ、復活したって言うか。新たに覚醒したって感じだけどな。


 俺は世界情勢を把握するために情報を集めているから、勇者と魔王が復活したことも知っていた。だけど正直に言って、全然興味がないんだよな。


 魔王が復活したって言っても、復活したばかりで軍備を整えているところだからな。まだ実際に動いてないから、被害が出ている訳じゃないんだよ。

 それに、そもそも魔王が世界の脅威になるのか。魔王が何を考えているのか、魔王の実力だって解ってないんだからな。


 そんな魔王を勇者が倒して世界を救うとか言われても、全然リアリティがないんだよ。

 俺は勇者や魔王に関わる暇があるなら、ダンジョンを攻略するからな。


「俺は勇者からてめえを……史上最年少SSS級冒険者のアリウスを連れて来いて言われたんだよ。勇者パーティーの一員にするためにな」


「何だよそれ。おまえ、そんなことのためにジェシカとアランを殺そうとしたのか?」


「さっきの冒険者のことか? 勇者パーティーの俺の邪魔をするなら、殺されても仕方ねえだろう」


「おい……おまえ、本気で言ってるのか?」


 俺が睨みつけるとクリスは黙り込む。結局、こいつが凶暴だったのも『勇者の心』のせいか。

 まあ、元々凶暴な性格だとは思うけどな。さっきまでは異常だったからな。


「だけど、おまえは俺も殺そうとしたよな? 俺を連れて行くことが目的だって言ったよな」


「……てめえを殺しても構わねえって、勇者に言われたんだよ。てめえを倒せば俺がSSS級だからな」


 確かにSSS級の俺を倒せば、クリスが代わりにSSS級冒険者なる。

 だけど600レベル台のクリスはSSS級に勝てるレベルじゃない。『勇者の心』があるから勝てると思ったのか? いや、思わされて・・・・・いたのか。


「なあ、クリス。おまえの『勇者の心』ってスキルは勇者に与えられたのか?」


「てめえ、何でそれを……」


 『勇者の心』って名前からカマを掛けんだけど、当たりみたいだな。

 この世界のスキルは鍛錬や実戦の中で習得するものだけど、勇者はスキルを与えられるのか。


 それにしても『勇者の心』は狂戦士バーサーカーのような力を与えるスキルだからな。そんなスキルを与える勇者って――


「俺を殺しても構わないとか、俺を連れて行くためにジェシカとアランを殺そうとするとか。おまえらの方が魔王よりも悪なんじゃないのか」


「……」


 クリスが言い返さないのは、少しは正気に戻ったからか。

 まあ、別の意味で勇者に少し興味が湧いたけど。これ以上こいつらに付き合うつもりはないんだよ。


「言っておくけど、その手錠と足枷はおまえには絶対に外せないからな。魔力を封じられたまま反省しろよ」


 訊きたいことは訊いたし、『勇者の心』についても解ったからな。

 もうクリスを殺して構わないけど、魔力を封じておけば問題ないだろう。


 とりあえず、クリスはカーネルの街の領主に引き渡すことにする。

 犯罪者を裁くのは領主の仕事だし、冒険者が多いカーネルの街の牢獄は頑丈なので有名だからな。

 牢獄に入れるまでは逃げられる可能性があるから、俺が直接連れて行くことにした。


「ジェシカ、アラン、巻き込んで悪かったな。みんなにも迷惑を掛けたけど、とりあえず問題は解決したよ」


 クリスを引き渡して冒険者ギルドに戻ったとき、俺は自分が迂闊だったことに気づく。

 ジェシカがいきなり抱きついて来たからだ。


「アリウスが………私を守ってくれた!」


 ジェシカが俺をうっとりと見つめる。


「なあ、ジェシカ。結果的にはおまえを守った形だけど。クリスの狙いは俺だった訳だし。おまえが殺されそうになったのは、俺のせいだからな」


「でもアリウスは、私のために怒ってくれたよね?」


「いや、そうだけど。仲間を殺そうとしたら怒るのは当たり前だろう」


「だからアリウスは私のために怒ってくれたんだよね?」


 真っ直ぐに俺を見つめる瞳。


「……ああ、そうだよ」


「……アリウス! ありがとう!」


 俺の胸に顔を埋めるジェシカ。いや、この状況で止めろとは言えないだろう?


「まあ、アリウス君の自業自得だよね」


 ニマニマ笑うマルシアがウザい。アランも何か言いたそうだけど、空気を読んで言わなかった。いや、こういうときだけ空気を読むなよ。


 結局ジェシカが満足するまで、俺は冒険者たちに生暖かい目で見られることになった。

※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る