第42話:面倒なこと


 面倒なことは続けざまに起きるもので。数日後、学院に行くと、エリクに話があるからと呼び出された。


 昼休みにエリクのサロンに行くと、料理は用意してあるけど料理人や侍女はいない。

 エリクと2人きりか。まったく、嫌な予感しかしないな。


「アリウス。来週の週末はみんなで王家の別荘まで旅行に行くから、予定を空けておいてくれるかな。

 メンバーは僕とアリウスに、ジークとバーン殿下にマルス卿。あとはソフィアとサーシャ嬢にミリアさんだよ」


「何だよ、いきなりだな。あんまり聞きたくないけど、エリクには何か狙いがあるんだよな」


 エリクが何の目的もなしに、こんな計画を立てる筈がないよな。


「ああ。ヨルダン公爵を誘い出そうと思ってね」


 ヨルダン公爵家はロナウディア王国の3大公爵家の1つだ。

 まあ、それはどうでも良いんだけど。現当主のビクトル・ヨルダン公爵はダンジョン実習で起きた事件の本当の黒幕なんだよ。


 証拠がないから捕らえることはできなかったけど。今回の事件で処分された貴族たちに金を流していたとか、状況証拠なら揃っている。

 諜報部もヨルダン公爵が黒幕と断定しているって、ダリウスも言っていたな。


「俺もヨルダン公爵は黒だと思うけど。このタイミングで動くほど馬鹿じゃないだろう」


 まだ事件が起きてから2週間だ。こっちが警戒していることが解っているのに仕掛けて来るとは思えない。


「君たちがそう思っているからこそ、ヨルダン公爵は裏を掻いて動くよ。彼はそういう人だからね。

 それに僕が色々とエサを撒いているし、動かす・・・のは簡単だよ」


 最近、エリクは俺に対して自分が計略好きということを隠さなくなった。

 共犯者として認められたってことか。いや、全然嬉しくないけどな。


 エリクが良い奴なのは変わらない。だけど周りの人間をエサとして使うのはどうかと思うよ。

 まあ、みんなを絶対に守る自信があって、それだけの用意もしているだろうけどな。


「バーンとミリアは巻き込む必要はないだろう。完全に部外者だからな」


 2人はダンジョン実習のときも守り易いという理由で、念のために同じグループに入れただけの話だ。


「2人には全部事情を話した上で自分で判断して貰うけど、たぶん来ると思うよ。

 ヨルダン公爵を誘い出すことが最大の目的だけど、僕は普通に旅行も楽しもうと思っているからね。

 アリウスもいるんだから全く問題ないだろう?」


 前回と同じレベルの襲撃者なら、エリクの護衛と諜報部だけで問題なく撃退できるだろう。

 だけどヨルダン公爵も1度失敗した以上、次はもっと手練れを用意するだろうな。


 まあ、エリクはそれも承知の上で、対策を立てているだろうけどさ。


「解ったよ。だけど今回限りだからな。俺は週末は忙しいんだよ」


「ああ。アリウスの事情は理解しているつもりだよ。今回で確実に終わらせる・・・・・・・・から、安心してくれて良いよ」


 エリクが確実と言うんだから本当に確実なんだろう。ヨルダン公爵が動かなくても無理矢理動かす手段はあるみたいだしな。


「エリク、暗殺は最後の手段ってところか?」


「嫌だな、アリウス。僕はそんなことは考えてないよ」


 エリクは間を空けずに即答したけどな。俺は嘘をついていると確信したよ。


※ ※ ※ ※


 エリクが用意してくれた昼飯は全部平らげたけど。上品な料理はイマイチ食べた気がしないからな。俺はエリクと別れた後、学食に向かった。


 普通に定食を頼んで、適当に空いている席に座る。まだこれくらい余裕で食べられるからな。


 相変わらず女子の熱い視線と男子の嫉妬の視線を感じるけど。もう慣れたから空気と同じだな。

 たまには堂々と喧嘩を売って来る奴がいないのかと思うよ。俺は売られた喧嘩は買う主義だからな。


 だけどダンジョン実習の後は、俺と目が合うと慌てて反らす奴が増えたよな。

 まあ、エリクが流した噂のせいだけどな。女子は余計に寄って来るようになったしな。

 プラスマイナスゼロ……いや、両方ともマイナスだな。


「アリウス。その……良かったら、ご一緒しませんか?」


 やって来たのは、取り巻きたちとお喋りしていたソフィアだった。

 一番奥の広いテーブル席は相変わらずソフィアたちが使ってるけど、他の生徒も普通に混じっているな。


「別に構わないけど、ソフィアたちはもう食べ終わっているんだろう。女子のお喋りに混じるのは気が乗らないな」


「私がアリウスとお喋りしたいんです。それじゃ駄目かしら?」


 ソフィアはクスリと笑う。ホント、ソフィアは完璧な美少女だよな。


「ああ、解ったよ」


 俺が立ち上がろうとすると、ソフィアが隣の席に座る。


「私が誘ったんですから、アリウスが席を代わる必要はありませんよ」


「だけど、あいつらのことは良いのか?」


 取り巻きたちがこっちを見て、黄色い声を上げながら何かヒソヒソ喋っている。

 まあ、何を話しているか。大体想像はつくけどな。


「ええ。もう食事は済みましたから、問題ありませんよ」


 ソフィアと話したのは他愛のない内容だ。授業のこととか、ソフィアとミリアが放課後一緒に遊んでいることとか。

 最近はサーシャも一緒に行動することが増えたらしい。


「アリウスは放課後になると、直ぐに帰ってしまいますよね。たまには私たちと一緒に遊びに行きませんか?」


 随分ストレートな誘い方だな。


「いや、ソフィアはエリクの婚約者だからな。俺と遊びに行くのは不味いだろう」


「別に2人きりという訳ではありませんし。お友だち・・・・と遊びに行くのは問題ありませんよ」


 ソフィアが友だちという言葉を強調する。もしかして舞踏会でのバーンとの話を聞いたのか?

 まあ、友だちと言うのが恥ずかしいとか。冷静に考えれば、さすがに子供っぽ過ぎるよな。


「そうだな。誘ってくれるなら遊びに行くよ。予定を空けるから、日程が決まったら教えてくれるか」


「え……冗談じゃないんですね?」


「なんだ、冗談なのか?」


 まあ、俺とソフィアが一緒に遊びに行くとか。冗談に決まっているか。


「い、いいえ! そんなことありませんよ! 誘ってもアリウスは絶対に来ないと思っていただけですから!」


 ソフィアが慌てて否定する。別に慌てるようなことじゃないだろう。

 誘っても来ないと思われるのは仕方ない。これまで全然付き合ってないからな。


「約束ですからね。必ず守ってください!」


「ああ、解ったよ」


 自分でも不思議に思うけど。友だち同士で遊びに行くとか、俺は全然興味がなかった。

 だけど最近はこういう・・・・のも悪くないと思うようになったんだよな。


「ところで、ソフィア。エリクから別荘に行く話は聞いているか?」


「ええ。みんなで旅行なんて楽しみですよね」


「いや、そうじゃなくて。裏の話は?」


 声を落として訊くと、ソフィアが頷く。


「勿論、知っていますよ。ですがエリク殿下のやることですし、アリウスもいますから。何の問題もありませんよね」


 ナニこの謎の信頼感と思うけど、嫌な訳じゃない。

 俺はソフィアたちを守りたいと思っている。こいつらは良い奴だからな。


「まあ、俺にできることはやるよ」


「だったら安心ですね」


 一点の曇りもない笑みに思わず見惚れる。

 いや、ソフィアはエリクの婚約者だからな。そういう・・・・のは不味いだろう。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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