3章 勇者と魔王

第40話:襲撃


「なんか……最近、アリウスとご飯を食べる回数が減ったと思うのよね」


 カーネルの街の冒険者ギルド。ジェシカが一緒にメシを食べながら頬を膨らませる。


 確かに最近は最難関トップクラスダンジョンの攻略を優先して、時間ギリギリまでダンジョンに潜ることが多い。

 他にもパーティーや学院のこととか色々あったからな。ジェシカたちと一緒に夕飯を食べるのは久しぶりだった。


「まあ、それは紛れもない事実だね……あ、マスター。せっかくのアリウス君の奢りだからね。1番高いお酒をボトルで、あと料理も高い順にジャンジャン持って来てよ!」


 マルシアはいつものようにマイペースだな。俺は奢るなんて一言も言ってないけどな。


「おい、マルシア。アリウスさんにたかるなって! アリウスさん、心配しないでくださいよ。酒代は俺が全部出しますんで」


「あたしとしては別にアランの奢りでも良いよ。よし! アランが破産するまで食べて飲み捲るからね!」


 いや、俺はアランに集るつもりなんてないからな。自慢じゃないけど金なら余っているんだよ。


 グレイとセレナと一緒に冒険して、一生困らないだけの金を稼いだし。学院に通うようになってからも、ダンジョンに潜って大量の魔石を持ち帰っているからな。

 特に最近は最難関ダンジョンを攻略しているから、俺の収納庫ストレージは最高品質の魔石が大量に入っている。


 ソロで最難関ダンジョンを攻略しているのがバレると面倒だから、収納庫に放置しているけど。暫くは最難関ダンジョン産のアイテムと一緒に死蔵しておくしかないな。


「なあ、ジェシカ。俺も最近あまり来てない自覚はあるからさ。だから今度……」


 言い掛けたタイミングで、冒険者ギルドの扉が激しい音を立てて開く。


 まだ19時過ぎだし、この時間帯に冒険者が来るのはめずらしいことじゃない。

 だけど入って来たのは、見た目からして異彩を放つ奴だった。


 鮮やかな蒼い髪と血のように赤い瞳。客観的に見て『恋学コイガク』の攻略対象レベルのイケメンだ。だけど派手な金色のフルプレートの男は、イケメンに似合わない獰猛な獣のような笑みを浮かべていた。


「なあ、ここにSSS級冒険者のアリウスがいるんだろう。さっさと出て来いよ。じゃないと派手に暴れるぜ」


 こいつはヤバい奴だ。みんなそう思っているみたいだな。


「アリウス。ここは俺たちに任せて、おまえは裏口から逃げろ」


 A級冒険者のゲイルが小声で言う。これまで見たことがないような真剣な顔で。ゲイル、おまえも真剣な顔をすることがあるんだな。

 ゲイルのパーティーの奴らも、嫌な汗を掻きながら頷いている。


「おい、ゲイル。何を格好つけてるんだよ。俺の問題は俺が解決するからな」


 ゲイルを茶化しながら、俺は金色フルプレートの奴から視線を外さない。

 相手は600レベル超えだし、鑑定したから奴のステータスやスキルも解っている。

 ただレベルが高いだけじゃない。ステータスが異常に高いし、俺の知らないスキルを持っている。


「アリウスさんに何の用だ? 返答次第じゃ、容赦しないからな!」


 金色フルプレートの前にアランが立ち塞がる。


「なんだ、S級冒険者か? 雑魚に用はねえんだよ。死にたくねえなら、このクリス・ブラッド様の邪魔をすんじゃねえぜ」


 金色フルプレート――クリス・ブラッドは背中に背負っていた大剣を引き抜く。竜を象った特徴的な柄と金色の刃は『竜の王宮』産の魔剣ウロボロスだな。


「ギルドで剣を抜きやがって……頭イカれてるのか?」


 冒険者ギルドで殺傷事件を起こせば立派な犯罪者だ。これだけ証人もいるし、言い逃れできない。


「だったら何だ? 俺は特別だからな。てめえら冒険者を殺したところで、咎められることはねえんだよ」


 クリスが殺意を撒き散らす。こいつは本気だな。殺すことを一切躊躇ためらっていない。


「何が特別か知らないけど。あんたみたいな危ない奴をアリウスに会わせる訳にいかないわね」


 ジェシカは愛用のバスタードソードを抜いてアランの隣に立つと、正面から真っ直ぐにクリスを睨みつける。アランも頷いて大剣を引き抜いた。


「雑魚が調子に乗るなよ。良いぜ……殺してやるよ!」


 クリスはニヤリと笑うと、魔剣ウロボロスを横向きに一閃する。ジェシカとアランを纏めて凪ぎ払うつもりだな。


 ジェシカとアランは反応するけど、物凄い速度の斬撃に動きが追いつかない。

 先に当たるのはジェシカの方で、無防備な胴を魔剣が切り裂く――なんて、そんなことを俺が許す筈がないだろ。


 天井に突き刺さるウロボロス。俺が素手で弾き飛ばしたからだ。


「ジェシカとアランを殺そうとするとか……おまえこそ死にたいみたいだな」


「てめえが……アリウスか」


 クリスは殺意剥き出しの笑みを浮かべる。だけどそんなことはどうでも良いんだよ。


「ジェシカ、アラン、邪魔して悪いな。だけど、こいつは俺の獲物だからな」


「「アリウス(さん)……」」


 ジェシカとアランの声が重なる。おまえら意外と仲が良いな。


「随分と余裕じゃねえか……ムカつくぜ!」


 クリスが収納庫ストレージから予備の剣を取り出す。

 だけど遅過ぎるんだよ。俺は奴が剣を構える前に殴りつける。


「うげえええ……」


 拳が腹に突き刺さって、クリスのフルプレートが陥没する。

 まあ、馬鹿が来ることは知っていたけどな。


『面倒な奴ら・・がおまえを探しているから、そっちに行ったら適当に相手をしろよ』


『アリウスなら問題ないと思うけど。何をするか解らないから油断しないでね』


 グレイとセレナから伝言メッセージが来たのは2日前のことだ。2人からクリスの正体は聞いてるけど、本当に面倒臭い奴だな。


「この程度で……俺を殺せると思うんじゃねえぞ。てめえは絶対に殺してやるぜ!」


 クリスは吐血しながら獰猛に笑う。まあ、殺さないように殴ったからな。

 対人戦もグレイに散々叩き込まれたからな。人間の急所を知り尽くしているから、殺さないで痛めつける方法も解っているんだよ。


 だからさ……俺は怒ってるんだって。ジェシカとアランを殺そうとしたクリスを、許すつもりはないからな。


 顎を殴りつけると顎の骨と歯が砕けて、クリスは白目を剥いて意識を失う。

 おい、そんなに簡単に意識を失うなよ。まだこれからだからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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