第38話:友だち


 バーンをどうやって黙らせたかは……ちょっと言えないな。

 いや、冗談だって。バーンが勝手に怯えていたけど、俺は何もしていないからな。


 まあ、バーンには悪いけど、そんなことはどうでも良い。

 ダリウスと交渉したおかげで、俺は学院に通いながら自由を手に入れた。


 勿論、好き勝手にやって良いほど自由じゃないけど。月曜か金曜の授業をサボれば3連休になる。72時間あれば最難関ダンジョンの攻略を本格的に進めることができるんだよ。


「それにしてもダンジョン実習の授業では、アリウス君は大活躍したみたいだね」


 今日は久しぶりに図書室でノエルと過ごしている。授業に出る回数は減ったけど、結局座学の授業は詰まらないから本を読んで過ごしている。

 読むものがなくなったので昼休みに図書室に来たら、ノエルも来ていた。


「私は近くにいなかったから実際は見てないけど、悪い人たちをアリウス君がボコボコにしたって凄い噂になってるよ。転移魔法や他にも凄い魔法を使ったんだってね」


「またその噂か。ノエル、まともに信じるなよ。後半の部分は間違っていないけど、俺が戦っているところなんてエリクたちくらいしか見てないからな。

 まあ、噂を流したのはエリクだから嘘って訳じゃないけど。脚色し過ぎなんだよ」


 噂だと初めから俺が1人で戦って、派手に魔法を放って掃除人スイーパーを瞬殺したことになっている。


 『絶対防壁アブソリュートシールド』は複合属性第10界層魔法だから派手と言えば派手だし、掃除人を倒したのも全部俺だから間違いじゃない。だけど派手な脚色をした噂は、エリクの悪意を感じるんだよ。


「だけどアリウス君は色々と噂になって、すっかり学院のヒーローだよね。なんか、遠くに行っちゃったみたい。これまでみたいに図書室にもあまり来なくなっちゃったから……私としては寂しいかな」


 最後の部分が小声で良く聞き取れなかっけど、雰囲気からノエルが言いたいことは解った。


 確かに最近学院ではエリクたちと一緒にいることが多いし。授業に出る回数も減ったから、図書室に通うことも減って、ノエルに会うのは久しぶりだ。


 学院に通い始めた頃は、ノエルくらいしか知り合いはいなかったからな。俺の学院生活も結構変わったってことか。


「なあ、ノエル。俺とノエルって友だちだよな?」


 友だちって言葉を使うのは気恥ずかしいけど、何故かノエルに対しては素直に口にできた。

 ノエルならこんなことを言っても笑わないと思っているからだろうな。


 だけどノエルの反応は別の意味で予想外だった。


「ふ、ふえええ! ア、アリウス君、いきなり何を言い出すの?」


 ノエルの顔が真っ赤だ。ノエルも面と向かって友だちと言われるのは恥ずかしいのか。


「あ、悪かったな。やっぱり友だちなんて言われるのは恥ずかしいよな」


「そ、そんなことないよ! アリウス君が私のことを友だちだって思ってくれることが、物凄く嬉しいから!」


 ノエルにしてはめずらしく大声で叫ぶ。だけどここは図書室なんだよな。周りの生徒たちに思いきり睨まれて、ノエルはさらに真っ赤になって蹲る。


「ノエル、少し落ち着こうな」


「もう、アリウス君が悪いんだよ! あんなに嬉しいことを言われたら……私じゃなくたって叫んじゃうから……」


 また後半の部分が良く聞き取れないけど、ノエルが俺のことを友だちだと思ってくれていることは間違いないみたいだな。


「なあ、ノエル。水曜日の昼休みは必ず図書室に来ることにするからさ。ここで待ち合わせしないか?」


「え……アリウス君、良いの?」


「良いも何も、俺はノエルに会いたいからな。こんな風に気楽に話ができるのは、ノエルくらいだからな」


 特に何の話をする訳じゃなくて。互いが読んだ本の話だとか、たまに授業の解らないところを教えてやるとか。

 気の合うクラスメイトとするような会話だけど、本当のクラスメイトとはこんな会話はしないからな。


「や、約束だからね。アリウス君が来なくても、私は毎週絶対図書室で待ってるから」


「ああ、約束は守るよ。だけど急な用事ができる可能性がない訳じゃないからな。ノエルも『伝言メッセージ』は使えるよな。互いに登録しておくか」


 ノエルは魔法に関しては結構優秀で、魔法実技の授業ではBグループだ。第1階層魔法の『伝言』くらい普通に使えることは以前に聞いている。


「え……アリウス君と『伝言』の登録? ……ねえ、アリウス君は他の人とも登録しているの?」


「まあ、家族とか知り合いの何人かはな。そう言えば学院の生徒だとノエルが初めてだな」


 エリクとは『伝言』でやり取りするような関係じゃない。『伝言』に登録すると何となく無理難題を押し付けられる気がするんだよ。


 それに貴族が『伝言』で連絡を取る習慣はないからな。証拠が残るからという意味もあって、伝統的な蜜蝋で封をした書簡でのやり取りが一般的なんだよ。


 なんてこと考えていると……


「わ、私がアリウス君の初めて……」


 ノエルが小声で何か呟きながら、沸騰しそうなくらい真っ赤になっていた。


「おい、ノエル。大丈夫か? 熱でもあるんじゃないのか?」


「だ、だ、大丈夫だから……」


 いや、全然大丈夫には見えないけどな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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