第37話:アリウスの弱点


 とりあえず一緒にダンスを踊った女子たちの顔と名前は全部憶えた。

 次に会ったときに憶えてないと、面倒なことになるからな。


「ホント、面倒臭いよな」


 舞踏会の会場を抜け出して、誰もいない王宮のバルコニーで冷たい風に当たる。


「アリウスはモテるんですね……」


 突然の声に振り向くと、何故かソフィアが不機嫌な顔で俺を睨んでいた。まあ、ソフィアが近づいて来ることは気づいていたけどな。


「エリクほどじゃないだろう。それにどうせあいつらは俺じゃなくて、宰相の息子に用があるんじゃないのか」


 将来の王国宰相は優良物件だからな。俺はエリクやジークと違って婚約者もいないし。

 まあ、単純にアリウスの見た目が目当ての女子もいるだろうけど。どっちにしても俺には関係ない。


 俺がウンザリした顔をすると、ソフィアはクスクスと笑う。


「そんな筈がないでしょう。アリウスは随分と自己評価が低いみたいですね。貴方という人間を知ったから、皆が近づきたいんですよ」


 ミルクベージュの長い髪に、碧眼の綺麗系美少女――赤いドレスを纏った月明かりに浮かび上がる姿に、俺は思わず見惚れてしまう。


「なあ、ソフィア……」


 言い掛けて途中で止める。ソフィアは俺を見つめて次の言葉をじっと待っていた。


「そろそろエリクのところに戻るか」


 俺にとって・・・・・都合が良いこと・・・・・・・に、ソフィアはエリクの婚約者だ。たとえ政略結婚の相手だとしても、この事実は変わらない。

 だから俺たちが面倒な関係になることは、万が一にもあり得ないんだよ。


「……そうですね。ホストのエリク殿下をサポートするのも婚約者である私の役目ですから」


 ソフィアも俺の意図に気づいたみたいだな。

 少しだけ悲しそうに見えるのは……俺の気のせいだろうな。


※ ※ ※ ※


「アリウスがダンスを踊るなんて意外だな……いや、そうでもないか。アリウスは何でもできるからな」


 舞踏会の会場に戻ると、バーンにこんなことを言われた。そう言えば、こいつもパーティーに参加してたんだよな。


「いや、何でもできる訳じゃないって。俺にも苦手なことはあるからな」


「例えば女の相手とかか? 俺もそう思っていたんだが、さっきの様子だとそっちも得意そうじゃないか」


 バーンが顎をしゃくった先には、俺がダンスの相手をした女子たちがニッコリ笑いながら手を振っている。


 そういうバーンも声を掛けて来る女子たちに当然という感じで相手をしている。


 暑苦しい奴だから忘れそうになるけど、バーンも『恋学コイガク』の攻略対象の1人のワイルドな感じのイケメンで、大国グランブレイド帝国の第3皇子だからな。モテない筈がないし、女子の扱いにも慣れている。


「俺にも1つだけアリウスに勝てることがあるって思ってたんだがな」


「いや、俺はやっぱり女子は苦手だよ」


 恋愛脳の女子と絡むのは面倒臭いからな。


「アリウスが苦手なんて言ったら、壁際にいる奴らに刺されるぜ。まあ、返り討ちに合うのは確定だけどな」


 エリク主催のこの舞踏会には、学院に通う生徒の多くが招待されている。そのせいか男子たちの嫉妬の視線を浴びるのも学院にいるときと変わらない。


 むしろ社交界に疎い俺がダンスが下手で馬脚を現すとか期待していたのか、派手なダンスを披露した後は、いつもより嫉妬が増した気がする。

 いや、ダンスを踊った女子たちを俺が独占していると思っているのか。どっちにしても下らない嫉妬なんてどうでも良いけどな。


 エリクは平民の生徒も招待したらしいけど、空気を読んで辞退したみたいだな。まあ、学院に2割しかいない平民の生徒が貴族だらけのパーティーに参加しても、肩身が狭いだけで面白くないだろう。


 ミリアは肩身が狭いとか関係ない感じだけど、そもそもパーティーが好きじゃないと言って参加しなかった。


 腹が減ったからビュッフェ形式の料理を皿に盛って食べる。さすがは王室御用達の料理人が作っているから飯は美味い。魔導具で保温しているらしく温かいし、新しい料理も次々と運ばれてくる。


「アリウス様、こちらの料理も如何ですか」


 だけど俺が食べ始めると女子たちが皿を持って集まって来たから、バーンと一緒に料理を次々と平らげながら彼女たちの相手をすることになった。

 俺はかなり食べる方だけど、バーンも結構な大食漢だな。豪快に食べる俺たちに女子たちが見惚れて、呆れた顔をする男子もいるけど、きちんとマナーは守っているから問題ない。


「それにしても……本当にお似合いですわね」


「そうですね……思わず嫉妬してしまいますわ」


 女子たちの視線の先には、エリクの隣に俺と一緒に戻って来たソフィアが、ジークの隣にはサーシャが寄り添っている。

 確かに如何にも貴族の令嬢という感じの綺麗系美少女ソフィアと、豪奢な金髪の完璧イケメンのエリクは良く似合っている。


 たとえ政略結婚の相手だとしても貴族ならめずらしいことじゃないし、本人たちも納得ずくだからな。


 そんなことを考えていると、バーンが爆弾を放り込んで来た。


「そうか? 俺はアリウスとソフィアの方が似合うと思うけどな。なあ、アリウスもそう思わないか?」


 バーンの発言に周りの女子たちが騒めく。黄色い声で。


「え……それって……もしかして略奪愛ですの!? キャァァァ!」


「まさか……アリウス様とソフィア様が……そんな……」


「でもでも……確か学院の食堂でアリウス様がソフィア様にキスしたって噂が……」


 バーン、おまえわざと……って訳じゃないか。バーンは脳筋だけど悪い奴じゃないからな。


「おい、バーン。誤解されるようなことを言うなよ。俺とソフィアはただの知り合いだからな」


「いや、ただの知り合いはさすがに酷いだろう。なあ、親友。俺は素直な感想を言っただけだぜ」


「まあ、ソフィアのことは友だちだと思ってるけど……友だちって言い方は、ちょっと恥ずかしいだろう」


 バーンがニヤリと笑う。


「へー……意外だな」


「何が意外なんだよ?」


「いや、意外なところがアリウスの弱点なんだって思ってな。友だちって言うのが恥ずかしいって……アリウスにも可愛らしいところがあるんだな」


 おい、可愛らしいって……何言ってるんだよ。だけど周りの女子たちもニマニマしているし。


(((アリウス様って……可愛い!)))


 いや、小声で言っても聞こえてるからな。


「よし、解った。バーン……おまえとはキッチリ話をつけようじゃないか」


「お、おい、アリウス……俺たちは親友だよな?」


 バーンの顔が引きつる。このときの俺は最難関トップクラスダンジョンの魔物エモノを見るような目をしていたと思う。


「ああ、バーン。俺たちは宿敵親友だったな」


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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