第31話:最近は


 時間的な問題から最難関トップクラスダンジョン『太古の神々の砦』の攻略はなかなか進まない。少しずつ攻略速度は速くなっているけど、放課後だけじゃ全然時間が足りなかった。

 週末はそれなりに階層を攻略しているけど、2日で全階層を突破するには、まだしばらく時間が掛かりそうだ。


 学院生活の方は相変わらずだ。マルスの件があった後も大きな変化はない。

 魔法実技の合同授業で一緒になった奴らとは喋る機会が増えたけどな。


「今日こそはアリウスに一撃喰らわせてみせるぜ。『火焔球ファイヤーボール』!」


 バーンが暑苦しく叫んで第3階層魔法を発動する。脳筋のように見えてバーンは魔法も結構優秀なんだよな。だけど魔法を発動させるのに、いちいち叫ぶ必要はないだろう。

 俺は『火焔球』を避けると『身体強化フィジカルビルド』を発動して手刀で100ポイントを入れる。『身体強化』も魔法だから問題ない。


「クソ……また俺の負けか!」


「ア、アリウスは容赦がないですね。あ……別に悪い意味で言っているのではありませんから。手を抜いて相手を弄ぶような真似をしないのは、アリウスの良いところだと思いますよ」


 ソフィアもようやく俺を呼び捨てにするようになった。まだちょっとぎこちないけどな。


「褒めてくれるのは嬉しいけど、俺は別に相手のことを考えてやってる訳じゃないからな。下手に手を抜くと変な癖がつくんだよ」


「ええ、そういうことにしておきましょうか」


 ソフィアがクスリと笑う。なんか勝手に誤解してるみたいだな。


「俺だってアリウスに勝てないことは解っているが……理屈じゃなくて勝ちたいんだよ!」


「バーン殿下の気持ち、私も解りますよ。なんかアリウスって、いつもしたり顔で何でもできるって感じで、ときどき無性に殴りたくなりますよね」


 ミリアが何故か俺を睨んでいる。こいつは俺に対する遠慮がなくなったというか、扱いが悪くなったよな。まあ、こういう態度の方が気楽で良いけどな。


「おい、ミリア。俺はそういうんじゃないからな。親友のアリウスに負けたくないだけだぜ」


「はいはい。私もどういう訳か腐れ縁になったアリウスには負けたくないですよ」


 ミリアはバーンともすっかり打ち解けたな。物怖じしないミリアの性格がバーンも気に入ったみたいだな。


「だから、ミリアと俺は全然考えてることが違うだろう! アリウス、親友のおまえは誤解してないよな?」


「俺はバーンがどう思っているとか興味ないけどな」


「アリウス! それはさすがに親友に対して冷たすぎるだろう!」


「まあ、アリウスはそういう人ですからね」


 ミリア、おまえも少しはフォローしろって。


「相変わらず騒がしいな……ミリア、さっきの台詞はどういうことだ? アリウスを殴りたいとか、女が言う台詞じゃないだろう」


 話に割り込んで来たジークが眉を顰めるが、ミリアは何食わぬ顔で言う。


「ジーク殿下、それは女性を差別する発言ですよ。私が女だからって馬鹿にしています?」


「いや、そういう訳じゃ……」


「殿下が私のことを思って言ってくれたことは解っていますよ。ですが私はこういう性格ですから諦めてください」


 ミリアが相手だとジークは全然悪ぶれないよな。キャラが崩れてちょっと可愛そうな気もするけど、本当は良い奴なんだから素のままで良いんじゃないか。


「それで……エリク殿下。改めて君たちを食事に招待したいんだけど、どうかな?」


 マルスは本性がバレたのにまだ諦めずにエリクたちを食事に誘って来る。まあ、後ろ盾が欲しいんだから簡単には諦めないよな。


「マルス卿は相変わらず性急だね。だけど申し訳ないけど、僕もこう見えて忙しくてね。当分は君の誘いを受けることはできないと思うよ」


 だけどエリクの方が一枚も二枚も上手だから全然相手にしていない。

 これは父親のダリウスから聞いた情報だけど、実のところエリクはマルスの父親である枢機卿と交渉して緩やかな共闘関係を築いたらしい。

 この話をマルス本人が聞かされていないのは、次の枢機卿になりたいなら人間関係くらい自分で構築しろってことだろうな。


「部外者の私が言うのも何ですが。マルス卿は自分の都合を優先する人みたいですから。エリク殿下が合わせる必要はありませんよね」


 ミリアはマルスに睨まれても平然としている。


「ミリアは凄くハッキリ言うわね」


「うん。口が悪いって自覚はあるわよ。そんな私のことがソフィアは嫌いになった?」


「ううん、そんなことないわ。裏表のないミリアが私は好きよ」


「そう言ってくれるソフィアが私も大好きだよ」


 本当に2人は仲が良いよな。身分の違いなんて全然気にしてない。

 ジークはそんな2人を微笑ましそうに見てるけど、また悪ぶってるキャラが台無しだな。


「そう言えば、今週の金曜日はいよいよダンジョン実習の授業だな。今度こそ俺の実力を親友アリウスに認めさせるからな。腕が鳴るぜ!」


 バーンは相変わらず脳筋で暑苦しいな。まあ、こいつも悪い奴じゃないから良いんだけど。


 学院には生徒専用の低難易度ロークラスダンジョンがある。いや、王国の兵士の訓練でも使っているから完全に専用って訳じゃない。一般の冒険者には解放されていないってだけの話だ。


「バーン殿下は腕の見せ所だと思うけど、初めてのダンジョンだから慎重に行動した方が良いと思うよ」


 ダンジョンの話が出ると、エリクの表情が微かに変わる。注意して見ていないと気づかない程度だけど。まあ、エリクも例の情報を掴んでいるからな。


「いや、俺は帝国で何度もダンジョンに潜っているからな。ダンジョンなんて慣れたものだぜ」


「それでも初めて入るダンジョンだからね。バーン殿下の実力は知っているけど、他の生徒もいるからね。特に女性のことは守ってあげないと」


「それもそうだな。よし、俺がフォローしてやるぜ」


 エリクは上手く誘導したな。これでバーンが勝手に動くことはないだろう。


「アリウスもダンジョンではみんなをフォローしてくれるよね」


「ああ。俺にできることはやるつもりだよ」


 俺にも釘を刺して来たな。そんな俺とエリクのやり取りを、ミリアはじっと見つめていた。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る