第32話:ダンジョン実習
そして金曜日になって、ダンジョン実習の授業が始まった。
1年生全6クラスの合同授業で、魔法実技のようにグループ分けすることもなく、全生徒200人余りが一斉にダンジョンに入る。
引率の教師は30人くらいいる。クラスの数に対して教師の人数が多いのは、他の学年の教師も応援で参加するからだ。
生徒に魔法や剣術を教える立場だから教師のレベルはそれなりに高い。最低でも50レベル台で100レベル超えもいる。1階層の護衛役としては十分過ぎるだろう――普通の状況ならな。
「なあ、エリク。教師の中に一度も見たことがない奴がいるんだが」
「他の学年担当の先生もいるからね。見覚えがなくても仕方ないよ」
嘘つけ。俺は学院の教師の顔と名前を全部覚えている。情報収集は基本だからな。そんな俺が一度も見たことがない奴が8人いるんだよ。そいつら全員が100レベル超えだ。まあ、エリクが用意した近衛騎士か宮廷魔術士ってところか。
あとは『
レベルはこいつらの方がさらに高いし、ダリウスが用意した諜報部の連中だな。
相手もすでに姿を隠して潜伏しているけど、こっちの方も数と戦力は把握済みだ。1階層については王国側が用意した戦力の方が圧倒的に上だから、とりあえず俺の出番はなさそうだな。
午前中の授業はクラス単位で移動して、
1階層に出現する魔物はスライムにコボルトにゴブリン、オーク。全部5レベル以下だ。
前後を教師たちが固めているから、5レベル以下の魔物なんて何の危険もない。ダンジョンの魔物を倒すとエフェクトとともに消滅して、魔石と稀にドロップアイテムだけが残る。
初めてダンジョンに来た生徒たちが驚いて歓声を上げるけど、それも最初だけだった。ただ見ているだけの退屈な授業に、腕に自信のある生徒たちが不満の声を漏らす。
「みんな、慌てるな。午後からは自分で魔物を倒して貰うからな。魔物を倒した経験がない者は、我々の動きをきちんと観察しておくように」
昼メシを挟んで午後の授業は、グループ単位に別れて行動することになった。8人前後のグループに、それぞれ引率の教師がつく。
引率の教師はあくまでもサポート役で、生徒自身が魔物と戦うことになるから、ここからが本当の意味でのダンジョン実習だな。
「なあ、エリク。この面子ってどういうことだよ?」
俺たちのグループはエリク、ジーク、バーン、マルス、俺に、ソフィアにミリア。そしてジークの婚約者のサーシャ・ブランカード。『恋学』のメインキャラ勢揃い……っていうより、
「さあ? 学院が決めたことだから、そんなこと僕に言われてもね」
いや、そんな筈があるか。誘いを掛けてるのが見え見えだろう。
父親のダリウスが掴んだ情報では、反国王派の貴族に不穏な動きがある。学院関係者との度重なる接触と、彼らが王都に集めた高レベル
掃除屋とは冒険者崩れの犯罪者のことだ。色々な理由で犯罪に手を染めたことで冒険者を首になった。そんな奴らが大手を振って王都に来れるのは、偽造した身分証を渡している奴がいるからだ。
だけどダリウスが指揮する王都の諜報部隊は甘くないからな。高レベル掃除屋の存在は手配書と魔導具で確認済みだ。
これだけ状況が揃えば、奴らが何か仕掛けて来る可能性はかなり高い。そして狙われる可能性が最も高いのはここに集まっているメンバーってことだ。
そこまで解っていながら、わざわざ誘いを掛けて掃除屋を泳がせている理由は、犯行現場を押さえることで決定的な証拠を掴んで、背後にいる反国王派を潰すためだ。
王国の将来のトップメンバーと帝国の皇子を餌にすることになるけど、エリクは承知の上でやっている。まあ、ダリウスも絡んでいるからな。みんなが命の危険に晒されることはないだろう。別に油断している訳じゃなく、戦力を冷静に分析しているんだよ。
「エリク殿下とアリウスは何を話してるのよ? なんか怪しいわね」
ミリアが睨む。こいつも何かあると気づいているみたいだな。
「いや、ミリア。何でもないよ。仮に何かあったとしても、アリウスがどうにかしてくれるからね」
エリクは隠す気も無いってことか。
「俺が手を出さなくても、今回は腕が立つ教師が多いみたいだしな」
とりあえず、エリクが用意した護衛たちのお手並み拝見と行くか。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????
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