第30話:最難関ダンジョン
土曜日から予定通りに
北の彼方にある辺境の地。険しい山岳地帯に囲まれた場所に、巨人族が造ったような巨大な建築物がある。
直径10mを超える石の柱が立ち並ぶ広間。床に描かれた巨大な多重魔法陣。魔法陣に足を踏み入れると、俺は最初の最難関ダンジョン『太古の神々の砦』に転移した。
一切壁のない広大な空間。天井からの魔法の光に照らし出されているのに果てが見えないのは、それだけ広いからだ。
今の俺は本気モードだ。重さを感じさせない漆黒の2本の剣と鎧に、補助魔法を自動発動する数々のマジックアイテム。俺自身もありったけの補助魔法を発動する。
『索敵』スキルに反応。彼方から迫って来るのは、フルプレートを纏う巨大な天使という姿の
『
それが1,000体以上襲い掛かって来る。おい、いったい何の冗談だよって、グレイたちと初めて挑んだときは思ったけどさ。今は……
「一瞬でも気が抜けない戦いって、やっぱり最高だよな!」
空間を埋め尽くすような数の魔物。『
このダンジョンもグレイたちと一緒にクリア済みだけど、前回は3人で今回はソロだからな。単純に敵の数が3倍というだけじゃなくて、カバーをしてくれる奴がいないから全方位から同時に攻撃される。
逃げ場も隠れる場所もないから、こいつらを全滅させるまで戦いは終わらない。
さらには全滅させたところで、次の階層にはさらに強い魔物たちが待ち構えている。
最難関ダンジョンにショートカットできる転移ポイントなんてなし、階層間は転移阻害のせいで
最下層以外に地上に戻る転移ポイントもないから、帰り道にも魔物の軍勢がリポップする。完全にマゾモードだな。
だけど全力でギリギリの戦いを続けるのは楽しいんだよ。自分が強くなっていくのが実感できる。
そう簡単にクリアなんてできないけど、ソロで『太古の神々の砦』を攻略したときに俺はどこまで強くなっているのか。まあ、途中で死ななければの話だけどな。
週末の2日間、俺は延々と『太古の神々の砦』に挑み続けた。
※ ※ ※ ※
日曜日の夕方。俺は久しぶりに実家に行った。学院の寮に入る前に1度顔を出したけど、そのときは軽く話をした程度だからな。
「アリウス兄様、いらっしゃい。お待ちしていましたわ」
銀髪で
「アリシア、お帰りなさいだろう。ここはアリウス兄様の家でもあるんだから」
同じ色の髪と瞳の少年が大人ぶって窘める。
「まあ! そうですよね。アリウス兄様、ごめんなさい。言い直しますね。お帰りなさい!」
「ああ。アリシア、シリウス、ただいま」
今年9歳になる双子の弟と妹だ。2人が生まれてからほとんど会っていないから、兄弟だなんて実感は全然ないけど。今日は家族5人で夕食だと両親に呼ばれて来た。
「アリウス、久しぶりだな。おまえも王都にいるんだから、もう少し頻繁に帰って来れば良いのに」
父親のダリウスが気さくな笑みを浮かべる。10年前と見た目がほとんど変わってないよな。
「あなた、小うるさいことを言うとアリウスに嫌われるわよ。アリウスも年頃なんだから、色々と忙しいのよ」
母親のレイアがニマニマ笑っている。グレイやセレナもそうだけど、この人たちは10年経っても全然老けない。普通に20代で通るな。
「いや、母さん。俺はそういうの興味ないからな」
「興味がないのはそれで問題だけど、本当かしら。アリウスが学院で色々とやらかしていることは聞いているわよ。宰相夫人の情報網を舐めないでよね」
レイアがウインクする。おい、何か勘違いしているだろう。
「そんなことより、母さん。俺は腹が減ってるんだ。早くメシにしてくれよ」
「アリウス、誤魔化したわね。良いわ、食事をしながらじっくり話を聞かせて貰うから」
いや、別に期待しているような話なんてないけどな。
今夜の食事はレイアが作ったらしい。宰相夫人は社交界の付き合いで多忙だから毎日食事を作ることはできないけど、今日は家族5人での初めての食事ということで頑張ったみたいだな。
「うん。子供の頃に食べた懐かしい味だな。母さん、旨いよ」
「アリウス、嬉しいことを言ってくれるじゃない。お代わりなら沢山あるから、ジャンジャン食べなさい」
勿論、遠慮なんてしないで料理を次々と平らげる。余りの食べっぷりにアリシアとシリウスが目を丸くしていた。
「グレイとセレナから聞いていたが、本当に良く食べるんだな。アリウス、この前会ったときよりまた逞しくなってないか?」
「どうかな? 自覚はないけど」
今の俺の身長は190cmを超えているから、ダリウスよりも高い。結局毎日ダンジョンに通っているし、鍛錬も欠かさないから鍛えてるけど。いくら鍛えても細マッチョ体型のままなのは『
「ねえ、アリウス兄様。僕もいっぱいご飯を食べて鍛えたら、アリウス兄様みたいになれるかな?」
「まあ、シリウスの努力次第だな。だけど俺みたいにゴツくなっても、戦いに有利だってだけだからな」
「そこが重要なんだよ。僕もアリウス兄様みたいに強くなりたいんだ」
シリウスは俺みたいに赤ん坊の頃から魔力を操作して鍛えた訳じゃないからな。だけどダリウスとレイナの子供だから基本スペックは高い。
「アリウス兄様、私も兄様みたいに強くなりたいの」
アリシアも対抗心を燃やしている。微笑ましいな。
「2人も剣術と魔法の練習はしているんだろう。まあ、俺の真似をすることは勧めないけどな」
両親はシリウスとアリシアのために家庭教師を雇っているらしい。さすがにグレイやセレナレベルじゃないけど、引退した元A級冒険者だそうだ。
「アリウス兄様、どうしてそんなことを言うの? 私の憧れはアリウス兄様なのよ。学院に入る前にSSS級冒険者になるなんて、そんなこと他の誰にもできないわ!」
シリウスとアリシアには両親も本当のことを話しているみたいだな。まあ、2人がうっかり他人に喋っても、子供の言うことだから本気にされないだろうな。
「いや、俺みたいに戦いばかりやっているのもな。俺は好きでやってるから良いけど、他のことを楽しむ暇なんてないからな」
俺は自分が脳筋だとは思わないけど。今、ソロで『太古の神々の砦』を攻略していることが面白くて堪らないのは事実だ。こんな生活、普通の奴は楽しいと思わないだろうな。
「そんなこと……アリウス兄様だって学院に通ってるじゃない。きちんと勉強だってしているんでしょ?」
「まあ、そうだけど。放課後に遊んだり、部活とかは一切してないからな」
さすがに座学は全部内職してるとか、言わない方が良いよな。両親にはバレてそうだけど。
食事の後も暫くシリウスとアリシアの相手をして、午後9時になると2人が眠る時間になった。まだ眠くないと駄々をこねる2人をレイアが窘める。
「ねえ、アリウス兄様。また帰って来てくれるわよね?」
「そうだよ、アリウス兄様。僕もアリウス兄様ともっと話がしたいんだ」
「ああ、また今度来るよ」
「「絶対だからね。約束だよ!」」
本当に微笑ましいな。さてと俺は帰るとするか。
「なんだ、アリウス。泊って行かないのか?」
「ああ。明日の朝も鍛錬をするからね」
朝の鍛錬は子供の頃から1日も欠かしたことがない。実家に泊ってもできるけど、できれば生活のリズムは壊したくないからな。
「それと例の件だけど。父さん、何か新しい情報は入った?」
「いや。あれから特に新しい動きはないな」
学院に関わる不穏な情報。宰相のダリウスは諜報部を使って調べていて、その情報を俺にも教えてくれている。俺も自分の伝手を使って裏を取ったから、怪しい動きをしている奴らがいるのは間違いない。
「アリウス。もし何かあったときは、エリク殿下や他の生徒たちのことを頼むぞ」
「ああ、解ってるって。エリクなら自分で解決しそうだけどな」
最後にそう言うと、俺は実家を後にした。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????
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