第29話:アリウスの日常
マルスの件で、ますます乙女ゲーの世界っぽくなくなって来たな。
まあ、俺としては貴族社会や権力闘争を実体験する良い機会になるし。恋愛なんて面倒なだけだから、こういう展開の方がありがたいけどな。
放課後はいつものように『竜の王宮』を攻略してから、カーネルの街の冒険者ギルドで夕飯を食べる。
ジェシカとマルシアだけじゃなくて、最近はアランまで毎日俺と同じ時間に来るようになったけど。向こうが勝手に来るんだから仕方ないだろう。邪魔だから消えろとか言うのも大人げないしな。
「アリウスさん。メシくらい俺に奢らせてくださいよ」
「いや、アランに
「アリウス君、その言い方は酷いよね」
「でもマルシアがアリウスに集るのは事実じゃない」
『白銀の翼』の他のメンバーは少し離れた席で遠巻きに俺たちを見ている。あいつらもジェシカたちほどじゃないけど、結構話し掛けて来るようになったな。
「ねえ、アリウス。私たち『白銀の翼』も『ギュネイの大迷宮』の攻略を本格的に始めたんだけど、何かアドバイスを貰えないかな」
嬉々として訊いて来るジェシカ。なんか距離が近いんだけど。
「まあ、この前も言ったけど150階層以下は急激に
300レベルそこそこの『白銀の翼』にとって、
もしも俺が『白銀の翼』のメンバーなら、他の高難易度ダンジョンをあと幾つか攻略してから『ギュネイの大迷宮』に挑む。
「確かにそうよね。私たちはアリウスみたいに強くないから」
「いや、強さの問題じゃなくて、敵の力を見極めるのは戦いの基本だからな。見誤ったら足を掬われるぞ」
俺は
まあ、ソロの戦いにも慣れたし。
「ちなみにアリウス君は今何レベルなのかな? あたしは凄く興味があるんだよね」
「ちょっとマルシア、止めなさいよ! 冒険者にレベルを訊くとか、手の内を晒せって言ってるようなものでしょ!」
まあ、レベルなんてあくまでも指標に過ぎないからな。スキルや魔法、ステータスの伸ばし方で同じレベルでも大きな差が出る。
だからと言って俺のレベルを教えるつもりはないけどな。情報を持っている方が有利には違いないし、レベルから勝手な臆測をされたら面倒だからな。
「マルシア、俺のレベルを知りたいなら『鑑定』のレベルを上げろよ」
マルシアもS級冒険者だから『鑑定』スキルくらい使えるだろうけど、レベル差がある相手の能力は鑑定できない。
それでも『鑑定』のレベルを上げることでプラス補正が掛かるから、最低でも何レベル以上ということは解る。
「どうせアリウス君はあたしなんかじゃ絶対鑑定できないレベルなんだよね。それに『能力隠蔽』スキルも持ってそうだからレベルの推測もできないよ」
『能力隠蔽』は『鑑定』に対抗するスキルだ。『鑑定』スキルとは逆に鑑定にマイナス補正が掛かる。
「まあ、俺も一応『能力隠蔽』を持ってるけどな。必要性を感じないから普段は使ってないよ」
自分から情報を晒すつもりはないけど、そこまで隠しだてしようとも思っていない。
「ふーん。今のあたしの『鑑定』レベルで測れないからアリウス君は最低でも500レベルだけど。SSS級だし『ギュネイの大迷宮』最下層の魔物をソロで瞬殺できるくらいだからもっとレベルが高いよね……もしかして700レベル超えとか?」
「だからマルシア、俺はレベルを教えるつもりはないからな。勝手に調べろよ」
マルシアを放置して、大皿で運ばれて来た料理にかぶりつく。やっぱり俺はこういう豪快なメシの方が好きだな。
「ねえ、アリウス……勿論、約束は憶えているけど。やっぱり、もう私たちとパーティーを組んでくれないのよね」
ジェシカがちょっと寂しそうに言う。この前は2日間限定で一緒にパーティーを組んだけど、俺もそこまで暇じゃないからな。
「ジェシカ。悪いけど、しばらくは無理だな。まあ、たまに1時間くらい『ギュネイの大迷宮』にダメ出しに行くのは構わないけどな」
「え……アリウス、それってどういう意味よ?」
「俺は『ギュネイの大迷宮』を攻略済みだからな。
まあ、乗り掛かった舟だし。人に教えるためには理論的に整理する必要があるからな。自分の動きを客観的に見る良い機会になる。
「そんなに頻繁には無理だし。本当に1時間くらいだからな」
「アリウス……本当に良いの? ありがとう!」
満面の笑みを浮かべるジェシカ。隣りでニマニマ笑っているマルシアがウザい。
「時間ができたときに、こっちから『伝言』で連絡するよ。それで構わないよな?」
「うん。それで十分だよ」
まあ、今週中は無理だけどな。俺はこの週末から最初の最難関ダンジョンに挑むつもりだし、日曜日の夜には別の予定がある。
シリウスとアリシア。双子の弟と妹との食事を実家でセッティングされているんだよ。
「俺からもジェシカたちに訊きたいことがあるんだけど。全くの初心者みたいな奴らと一緒にダンジョンに潜った経験はあるか?」
「うん。冒険者になりたての頃ならあるわよ」
「いや、そういうんじゃなくて。自分が強くなってから素人の面倒を見たことがあるかって話だよ」
「さすがにそれは無いわね。攻略するダンジョンのレベルが違うから」
まあ、そうだよな。F級冒険者がいきなり
「私に質問するってことは、アリウスはそういう状況を抱えているってことよね。ねえ、マルシアは経験ある?」
「素人の護衛なら何度か経験してるけど。ダンジョンで素人と一緒なんて願い下げだからね」
「ああ。足手纏いを守りながらの攻略なんて考えたくもないぜ。アリウスさんみたいに教えるために一緒に潜るなら話は別だけどよ。それでもさすがに素人に教えることなんてねえだろう?」
もっともな話だし、俺もダメ元で訊いただけだからな。それにまだ実際に問題が起きている訳じゃない。可能性があるから保険を打っておきたいと思っただけだ。
月末に、学院で初めてのダンジョン攻略の合同授業がある。まあ、学院の授業だから低難易度ダンジョンで、それ自体は大した話じゃない。
だけど父親のダリウスからちょっとキナ臭い話を聞いているんだよな。俺自身でも探りを入れたところ、妙な動きをしている奴らがいた。
情報収集は冒険者の基本だし、SSS級になると国家レベルで色々と絡んで来るからな。面倒事を避けるために俺にも情報を集める伝手くらいはある。
まあ、まだ時間もあるし。どうせエリクも気づいているだろうからな。向こうの動きを見ながら手を打つとするか。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????
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