第28話:マルスの狙い


 今日の昼食会に集まったメンバーは、政治的な意味で言えば結構な顔ぶれだ。


 ロナウディア王国第1王子のエリクと第2王子のジーク。グランブレイド帝国の第3皇子バーン。王家に匹敵する権力を持つ枢機卿の息子マルス。

 王国三大公爵家の1つであるビクトリノ公爵家の令嬢でエリクの婚約者のソフィアに、自分で言うのも何だけど王国宰相の息子であるアリウスだ。


「エリク殿下、素晴らしい料理だね。さすがは王室御用達の料理人というところかな」


「マルス卿、ありがとう。褒めてくれて嬉しいよ」


 王国のトップである国王と、国外にも影響力を持つ教会の実質的なトップ枢機卿の勢力は拮抗していて、政治的に対立関係にある。

 エリクとマルスも当たり障りのない会話をしているけど、腹の探り合いってところか。

 まあ、エリクはいつも通りって感じだけど。マルスの方は魔法実技の授業のときと微妙に雰囲気が違う。


「本当に美味しいですね。こんな豪華な料理を食べるのは初めてですけど」


「ミリアさんもありがとう。料理人に伝えておくよ」


 そんな空気に気づいていないのか、いや気にしてないのか。ミリアはソフィアやジークだけじゃなくて他のみんなとも普通に喋っている。

 物怖じする訳でも変に気負う訳でもなく自然な感じだ。そのせいか和やかな雰囲気で食事会が進む。


 それにしても……俺が予想していたのとは違って、最近の学院は全然乙女ゲーの世界って感じじゃないよな。いや、周りの生徒たちは相変わらず恋愛脳だけど、主人公のミリアと攻略対象たちは全然恋愛に現を抜かしていない。


 ダンジョンにばかり行っている俺と違って、こいつらは放課後も絡んでいる筈だけどな。ミリアが恋愛モードじゃないから、そういうイベントが発生していないのか。

 まあ、ゲームと違ってリアルな世界だからな。状況が変われば人間関係も変わるし。俺としてはこっちの方が楽で良いけどな。


「ミリアも真面なテーブルマナーを知ってるんだな」


「ジーク殿下、もしかして私を平民だって馬鹿にしてます?」


「いや、俺はそういうつもりじゃ……」


「もう。殿下はわざと悪ぶる癖は止めた方が良いですよ。本当は良い人なのに」


「ジークもミリアさんの前だと形無しだね。僕もジークはもっと素直になった方が良いと思うよ」


「兄貴まで……俺は別に良い奴なんかじゃないからな!」


「そんなことないですよ。エリク殿下、ジーク殿下はエリク殿下のことだって実は良い兄だって自慢してますから」


「おい、ミリア! よせ、何を言い出すんだ!」


「それは意外ですね。ミリア、私も是非その話を聞きたいわ」


「へえー……エリク殿下と不仲だって噂のジーク殿下がねえ。俺も興味あるな」


「おい……ちょっと待ってくれ……」


 ミリアのせいでジークが完全に弄られキャラだな。話題の中心がジークになって、マルスは完全に食われている。

 マルスはニコニコしているけど、目が全然笑ってない。おい、ミリア。おまえわざとやってるんじゃないよな。


 コースの最後にデザートと食後の飲み物が出る。生クリームとフルーツたっぷりのタルトにミリアの目が輝く。やっぱり女子はスイーツが好きだよな。


「アリウス卿は、いつも自分だけは関係ないって顔をしていますよね」


 ミリアがまた俺を睨んでいる。


「なあ、ミリア。俺のことは呼び捨てで敬語もなしにしろよ。同じ1年に敬語を使われるのは気持ち悪いからな。まあ、そんなことより……ミリアは何か吹っ切れたみたいだな。前に会ったときよりも生き生きして見えるよ」


 ソフィアの取り巻きたちと一悶着あったときは、相手のことを決めつけているようなぎこちなさを感じた。だけど今は全然違っていて、普通に楽しそうだ。


「別に……アリウスのおかげとか思ってないわよ!」


 ミリアは何故か顔を赤くしながら憮然とする。だけど俺はそんなこと言ってないからな。


「ねえ、みんな。ボクから提案があるんだけど」


 突然のマルスの発言にみんなが注目する。ようやく仕掛けて来るみたいだな。


「ボクたちは魔法実技の授業で同じAグループになったけど、クラスは割とバラバラじゃない? だけどせっかくこのメンバーが同じ1年生として学院に入学したんだから、もっと親睦を深めたいと思うんだよね。今回のお礼に次はボクがみんなを食事に招待するよ。あとはこのメンバーで一緒に遊びに行ったりとかどうかな?」


 何て言うことのない誘いだけど、ここにいる連中はマルスと特に仲が良い訳じゃないし。ミリアを除けば面子が面子だからな。


「マルス卿。誘ってくれるのは嬉しいけど、またの機会にしないか。それに君が誘いたいのはここにいる全員じゃないよね?」


 エリクがやんわりとした口調だけどハッキリと断る。まあ、エリクは相手の意図を見抜けない間抜けじゃないからな。


「エリク殿下、どういう意味かな? ボクはみんなと仲良くしたいだけだよ」


 戸惑うマルスに、エリクは苦笑する。


「だったらハッキリ言わせて貰うよ。君はミリアさん以外の僕たちに政治的な後ろ盾を期待しているんだよね。教会の中で反枢機卿勢力が台頭していることくらい僕も知っているからね」


「なんだ……そこまでバレているなら話が早いね」


 マルスの態度が豹変する。中性的な顔にしたたかな笑みを浮かべる。


「エリク殿下が言うようにボクはみんなの後ろ盾が欲しいんだよ。ボクからの一方的なお願いじゃなくて、みんなが政敵に対抗するときにも協力すると約束するよ」


 エリクとジークの他にも王位継承権がある奴はいるし、国王になった後も政治的な敵がいなくなる訳じゃない。他のみんなにも政治的な敵はいるから、将来マルスが枢機卿になって教会の権力を握るなら、今から協力関係を築くことは悪い話じゃない。


「確かに枢機卿が権力を維持できれば・・・・・・、僕たちにもメリットがある話だけどね。マルス卿みたいに性急過ぎるやり方だと、足を掬われるんじゃないかな。僕は君よりも先にミリアさんを食事に誘ったのに、ミリアさんを無視してこんな話をするなんてどうかと思うよ」


 エリクはめずらしく怒っていた。教会内で台頭して来た別勢力が勝つ可能性があると、わざわざ指摘しているのがその証拠だ。

 まあ、エリクの方が一枚も二枚も上手だからな。どうせマルスに誘われるまでもなく、すでに手は打っているだろう。エリクが取引きする相手はマルスじゃなくて、現枢機卿の方だからな。


 軽くあしらわれたマルスは奥歯を噛みしめてエリクを睨む。


「エリク殿下。私は邪魔みたいですから、席を外しましょうか?」


 ミリアが物怖じする訳でもなく割って入る。


「いや、ミリアさんが気を遣う必要はないよ。ねえ、マルス卿?」


 ミリア、やっぱりおまえはわざとやっているだろう。ここでマルスが否定すれば、自分のことしか考えていない奴だと認めるようなものだからな。


 この後、マルスは完全に空気になって、昼食会はお開きになった。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

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