第27話:魔法実技の授業


「それでは、これから生徒同士で対戦して貰う。武器の使用は禁止だが、魔法は攻撃魔法を含めて自由に使って構わない。特殊結界がダメージを吸収するから、相手が怪我をする心配はない。100ポイント先取した方が勝者だ」


 魔法実技の授業は、床に描かれた魔法陣による特殊結界の中で行われる。

 特殊結界にはダメージの無効化と数値化の効果があって、相手に与える筈だったダメージがポイントとして空中に表示される。


 ゲームのときは随分と便利でご都合主義な結界だと思ったけど、特殊結界も万能じゃない。魔力でダメージを相殺するから、相殺できるダメージに限界があるんだよ。

 何故こんなことを知っているかと言うと、特殊結界も魔法だから普通に俺も使えるからだ。


 対戦が進んで『恋学』のメインキャラたちが次々と勝者になっていく。まあ、他の生徒よりもスペックが高いから当然の結果だけどな。

 ちなみにエリクは風属性。ジークは水属性。バーンは火属性。ソフィアは闇属性魔法が得意だ。ソフィアが闇属性なのは悪役令嬢のイメージのせいだな。


「『輝きの矢シャイニングアロー』!」


 ミリアは『恋学』の主人公らしく光属性魔法が得意だ。第2界層魔法で出現させた5本の光の矢が全部命中して、瞬く間に100ポイント先取する。魔法の才能があるのはゲームと同じだな。


「へー……君がミリア・ロンドか。光の矢を5本も出せるなんて、噂通りに優秀みたいだね」


 枢機卿の息子マルス・パトリエがミリアに話し掛ける。ミリアの魔法の才能に感心して、声を掛けるのはゲームと同じ展開だな。


「貴方がマルス卿ですね。褒めて頂いてありがとうございます」


 ゲームのミリアはツンデレキャラで、同じ光属性魔法の使い手であるマルスに対抗心を燃やす。

 マルスとミリアが互いに実力を認め合って好感度が上がるイベントだけど、今のミリアからそんな雰囲気は感じない。マルスに興味がないのか受け流して、俺のことを睨んでいるんだけど。


「じゃあ、ボクも頑張らないとね。アリウス君、お手柔らかに頼むよ」


「ああ。マルス、久しぶりだな」


 マルスの対戦相手は俺だ。学院に入学してからは初めて喋るけど、とりあえず印象は子供の頃と余り変わっていないな。ゲームみたいに腹黒な性格だったら、俺が嫌いなタイプだな。


「うん。アリウス君が全然社交界に顔を出さないから、子供の頃に会って以来だよね。君が剣術の授業でバーン殿下を圧倒したって話は聞いているけど、魔法の方はどうなのかな。ボクだって成長したから負けるつもりはないよ……『聖なる槍ホーリーランス』!」


 第3界層魔法の白い光の槍が、俺に向かって真っ直ぐ飛んで来る。

 だけど命中する直前で消滅した。俺が無詠唱で解除ディスペルしたからだ。


「まさか……ボクの魔法を解除したの?」


「ああ。解っているじゃないか。今度はこっちから行くぞ」


 俺は第1界層魔法『氷弾アイスバレット』を発動させる。

 小石サイズに凝縮した氷がドリルのように回転しながら、音速を超える速度で空気の壁を突き破る。


「え-!」


 俺の魔法は実戦用に相手を確実に殺すことに特化している。この距離で『氷弾』を避けるのは無理だし、威力が高過ぎて特殊結界じゃ防ぎ切れない。

 だからマルスに当たる直前に自分で解除した。


 俺の頭上に表示される100ポイントの文字。衝撃波だけでダメージが入ったってことだ。


「し……死ぬかと思ったよ。だけど最後に解除したのはどうしてかな? まさか特殊結界でも防げない威力って訳じゃないよね?」


 俺の意図に気づいたか。観察力はあるみたいだな。


「アリウス、何て言うか。君らしい勝ち方だね」


「ああ。さすがはアリウスって感じだな。なあ、アリウス。今度は俺と対戦しようぜ」


 爽やかな笑みを浮かべるエリクと暑苦しいバーン。エリクの取り巻きたちはラグナスを含めてAグループじゃないから、いつものように面倒なことを言う奴はいない。


「私としては呆れたと言う他はないわね。ア……貴方はどれだけ規格外なのよ」


 それはソフィアも同じで、取り巻きたちが一緒じゃないから気楽に話し掛けて来る。

 婚約者のエリクには一応気を遣っているけど、エリク自身があまり気にしてないから必要な範囲でって感じだな。


「そう言えば、アリウスは王国に戻ってきてからジークと話をしたことはあるかな?」


「いや、絡む機会がなかったからな」


「だったら、ちょうど良い……ジーク、ちょっとこっちに来てくれないか。ミリアさんも一緒で構わないから」


 エリクに手招きされて、2人で話をしていたジークとミリアがやって来る。


「何だよ、兄貴?」


「ジークもジルベルト宰相の子息のアリウスのことは憶えているだろう? 2人は同じ学院に通っているのに話もしてないみたいだから、このメンバーで一緒に昼食でもどうかと思ってね」


「こいつが……アリウス・ジルベルトか……」


 ジークは訝しげに俺を見上げる。まあ、8年前も年齢の割にデカかったけど、今の俺は190cmを超えているからな。


「なあ、エリク。ジーク殿下には敬語を使った方が良いんだよな?」


 エリクが何か言う前にジークが応える。


「よせよ、アリウス。兄貴にタメ口なのに俺に敬語とか。名前も呼び捨てで構わないって」


「じゃあ、遠慮なく。ジーク、久しぶりだな」


「……ああ、アリウス。これからもよろしく頼む」


 ジークは悪ぶっているけど、普通に良い奴みたいだな。


 バーンのことはジークに紹介しないってことは、2人は面識があるってことだな。

 まあ、俺みたいに社交界をサボってなければ面識くらいあるだろう。


 ゲームのときも、エリクがいつものようにみんなを食事に誘って、ミリアと他の攻略対象たちの距離が近づくというイベントだった。

 ゲームではすでに悪役令嬢になっているソフィアは誘わないけどな。


「これはこれは、みなさんお揃いみたいだね」


 このタイミングで、マルスが笑顔でやって来た。


「みんなで食事をするって話が聞こえたんだけど。ボクもご一緒して構わないかな?」


 ゲームのマルスはエリクとライバルポジションで、エリクがミリアを食事に誘ったところにマルスが割って入る。

 だけど今回は一緒に参加したいって話だし、ゲームと違ってマルスとミリアはあまり絡んでないからな。マルスの目的はミリアじゃなくて他にあるのか。


 まあ、俺なりに調べてマルスの事情・・・・・・を知っているからな。

 俺は『恋学』の世界に興味がないけど、貴族社会の勢力争いに疎い訳じゃない。立場的に実害があるから、むしろ積極的に情報収集をしている。


「ああ。マルス卿も招待させて貰うよ。最近の君の話にも興味があるからね」


 この口ぶりだと、エリクもマルスの情報を掴んでいるみたいだな。まあ、エリクなら当然か。

 まあ、取り巻き抜きでエリクやソフィアと話ができる良い機会でもあるし。俺も今回は素直に参加するか。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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