第26話:変化


「アリウス様……これを受け取って下さい!」


 学院に登校すると、いきなり声を掛けられた。亜麻色の髪の女子が頬を染めて封筒に入った手紙を差し出す。果し状か? いや、冗談だって。何だよこのベタな展開は。


「なあ、おまえとどこかで会ったっけ?」


「はい。私はバーン殿下と同じクラスで、剣術の授業でアリウス様がバーン殿下の剣を砕くのを見てカッコイイなって……キャ! 言っちゃった!」


 おい。それって会ったとは言わないだろう。


「悪いけど俺はおまえのこと全然知らないし。そもそも恋愛とか興味ないんだよ。じゃあな」


 無下に断る。いや、下手に期待させる方が悪いだろう。

 学院で女子に告白されるのはこれで5回目だ。まあ、今回はアリウスの顔だけが目当てって訳じゃないからまだマシか。


 今週も俺は平常モードだ。だけど以前よりも多くの視線を感じる。特に増えたのは興味本位の視線だな。

 まあ、先週は剣術の授業でバーンの剣を砕くとか、ソフィアたちとミリアとの絡みとか。結構派手なことをやったからな。俺のことが噂になっているんだろう。


「アリウス君ってやっぱりモテるんだね。今朝告白されているところを見たよ。結構可愛い子だったよね」


 図書室に行くとノエルにジト目で見られた。


「そうか? ちょっと目立ったくらいで近づいて来る奴なんて興味ないな」


 俺は目立ちたくないとか、そんなことは考えてない。SSS級冒険者のアリウスが俺だとバレると面倒だけど、学院に通いながら冒険者を続けることで、2人は別人だと認識されているから問題ない。


「そっか。アリウス君は見た目で判断しないんだね。ちょっと安心したかも……」


 後半の部分が良く聞こえなかったけど。ノエルが何故か嬉しそうだ。


 それからソフィアの取り巻きたちのことだけど、明らかに態度が変わった。

 食堂の奥にあるテーブル席は、学院側の忖度なのか、相変わらずソフィアたちのために空けられている。

 だけど空いているからと誰かが座っても、取り巻きたちが文句を言うことはない。ソフィアが率先してその生徒に相席をしようと話し掛けるからだ。


 ソフィアに隠れて取り巻きたちが平民の生徒を吊るし上げることもない。そんなことをしたら派閥から除名するとソフィアが公言しているからだ。


 さらには毎日朝と放課後、ソフィアたちは学院の掃除をしている。自分たちが犯した罪のせめてもの償いだとソフィアが申し出たそうだ。大貴族であるビクトリノ公爵家の令嬢が率先して掃除をしているとこれも噂になっており、取り巻きたちも渋々ながら付き合っている。


「ア……貴方のお陰で、自分が本当に何をすべきか気づくことができたわ。みんなを纏めるのは大変だけど、これがビクトリノ家の人間としての務めだから」


 掃除をするソフィアを見掛けたときに言われた。相変わらず俺を呼び捨てにするのは抵抗があるんだな。


「俺は何もしてないだろう。ソフィアが自分で変えたんだよ」


「そんなこと……良いわ。そういうことにしておきます」


 そして今週も半ばが過ぎて木曜日。今日は魔法実技の授業がある。魔法技術や魔法学とは別で、実践形式で魔法を使う授業だ。座学じゃないから内職で本を読むことができないけどな。


 1週目の魔法実技の授業では個々の生徒が使える魔法を披露して、2週目は教師と模擬戦を行った。

 その結果を元に今週からクラス単位じゃなくて、学年全クラスの生徒をレベル毎にグループに分けて授業を行う。


 学院の生徒の大半は入学する前から魔法が使える。魔法が使えることが学院を卒業する最低条件の1つだからな。貴族は家庭教師を雇うなどして金を掛けて子供に魔法を習得させるんだよ。

 平民の生徒は魔法の才能がある奴が学院に入学するから、魔法が使えるのは当然だ。


 だけど魔法が使えるってだけで、レベルには結構差があるからな。レベル毎に分けないと真面な授業にならない。ゲームのときはクラスが違う攻略対象と主人公のミリアが絡むためのイベントだったけどな。


 まあ、『恋学コイガク』の攻略対象はみんなスペックが高いからな。一番上のAグループにメインキャラがほとんど勢揃いしている。

 攻略対象としては第1王子のエリクに双子の弟の第2王子ジークと俺。帝国第3皇子のバーンに、枢機卿の息子マルス・パトリエってところだ。


 俺は7歳で冒険者になるまでは社交界に顔を出していたから、ジークとマルスとも一応面識はある。

 ジークの顔はエリクとそっくりだけど、ゲームだと粗野な感じで陰のあるキャラだった。リアルでも子供の頃からその兆候があって、優秀な兄と比較されて反発していた。


 マルスは明るい髪の色で中性的な顔立ち。所謂いわゆる男の娘って感じで、子供の頃は本当に女子みたいだった。おっとりしているように見えて、ゲームだと実は腹黒キャラだったけど、子供の頃にそんな印象はない。


 ソフィアとミリアもゲームと同じようにAグループだ。ゲームだと悪役令嬢のソフィアがミリアに何かと仕掛けて、ミリアが堂々と立ち向かうことで攻略対象たちの好感度が上がる。

 だけど今のソフィアは悪役令嬢じゃないし。なんか楽しそうにミリアと話してるんだけど。いつの間にか仲良くなったみたいだな。


 ソフィアは俺のことを睨まなくなったけど、今度はミリアが睨むようになった。心当たりならあるけどな。ソフィアたちとのいさかいの後に、俺が余計なことを言ったからだろう。まあ、相手のことを決めつけている感じが気になったからな。


 だけど今はだいぶ印象が変わったよな。ジークとも普通に友だちっぽく話しているし。なんて言うか……普通に学生してるって感じだな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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