第25話:想い ※ミリア視点※


『こいつはこういう奴だって決めつけるなよ。相手がなんでそういう行動をしたのか考えないと、相手を理解することなんてできないからな』


 あのとき、私が抱いた気持ちは何なのか……思い出すと今でも胸がモヤモヤする。

 だけどそれは置いておいて、アリウスが言ったことは正しいと思う。


 私はみんなを『恋学コイガク』のキャラだと決めつけて、相手が何を考えているかなんて想像もしていなかった。

 だけど私の前世の記憶が妄想でも、ここが『恋学』の世界で私が転生者だとしても、そんなことみんなには関係ない。みんなはこの世界でリアルに生きているんだから。


 だから私もみんなを『恋学』のキャラじゃなくて、これからは1人1人の人間として見ようと思う。私自身もミリアを演じるような真似は止めよう。

 だけどアリウスに感謝なんてしない。だって会ったばかりで私のことなんて何も知らない癖に、見透かしたようなことを言われて悔しいから。


 ソフィアたちとの事件があった翌朝。ソフィアは約束通りに私の教室まで謝りに来てくれた。

 私を押さえつけた貴族の生徒たちを連れて教室に入って来ると、私の席の前に来るなり人目を憚ることなく深々と頭を下げた。


「ミリアさん、昨日のことは本当に申し訳ありませんでした。私たちが貴方にしたことは人として恥ずべきことです。どんな償いでもさせて頂きますので、何でも言ってください」


 ソフィアが連れてきた貴族たちもバツが悪そうに頭を下げる。昨日の事件は学院中で噂になっていて、知らない生徒はいなかった。

 それでも彼女たちが学院から罰せられないのは、彼女たちが貴族で私が平民だからだ。


 だけどソフィアはそれで済ますつもりはないみたいだ。本気でどんな罰も受けるという覚悟を感じる。

 公爵令嬢のソフィアが平民の私に頭を下げるなんて前代未聞だ。興味本位で見ている周りの生徒たち。無理矢理謝らされているだけの貴族たち。

 まるでソフィアだけが悪者みたいに晒し者にされているようで私は嫌だった。


「ちょっと待って、ソフィアさん。貴方が謝りに来てくれたことは嬉しいけど、さすがに教室じゃなんだから。放課後、2人だけで話をしない?」


 簡単に許すと言ってもソフィアの気が済むとは思わないから。私は2人で話をすることにした。


 放課後。誰もいなくなった教室で話をするつもりだったけど。噂を聞きつけた生徒たちがいつまでも残っていたから、私はソフィアを寮の部屋へ招くことにした。


 平民用の小さな私の部屋は、大貴族のソフィアにとっては犬小屋みたいに見えると思う。だけどソフィアはそんな態度なんて一切見せなかった。


「ミリアさん。貴方が許してくれるなら、どんな償いでも……いいえ、決して許されないことをしたことは解っています。それでも……償わせて下さい」


 ソフィアの言葉に嘘はないと思う。誠心誠意私に償おうとしている。直接手を下した訳でも命令した訳でもないのに、自分の責任だと本気で思っている。

 やっぱり……ソフィアって良い人だよね、


「ねえ、ソフィアさん。貴方はこうして何度も謝ってくれるし、他の貴族の生徒たちのことも叱ってくれたんでしょう。私はそれで十分だわ」


「そんなことで……済まされる筈がありません」


「だったらソフィアさん、私の友だちになってくれないかな?」


「え……どうして……」


 ソフィアは戸惑っていた。私がこんなことを言うなんて全然想像していなかったみたいね。


「私はソフィアさんと友だちになりたいの。友だちなら償うとか、そんな堅苦しいことをする必要なんてないでしょ。平民の私とソフィアさんじゃ釣り合いが取れないかも知れないけど」


「そんなことありません! ですが……貴方を傷つけた私が友だちだなんて……」


「喧嘩から始まる友情だってあるじゃない。ソフィアさんと話してみて解ったの。私はソフィアさんの真っ直ぐなところ、大好きだよ」


 これが私の素直な気持ちだ。助けてくれたことに感謝の気持ちもあるけど、私は真っ直ぐなソフィアが好きだ。だから友だちになりたい。


「私の方こそ……ありがとう、ミリアさん。こんな私で良ければ、お友だちになりましょう」


「ねえ、ソフィアさん……ううん、これからはソフィアって呼ぶわね。こんな私とか言わないでよ。私の大好きなソフィアのことを否定しないでよね」


「そんな大好きとか……何度も言わないでくれるかしら。その……恥ずかしいじゃない」


 ソフィアの顔が真っ赤になる。


「うふふ……ソフィア、可愛い! ねえ、ソフィア。私のこともミリアって呼んでくれないかな」


「はい……ミリア、これからよろしくお願いします」


「うん。よろしい!」


 こうして私とソフィアは友だちになった。相手のことを『恋学』のキャラじゃなくて1人の人として見る。考えてみれば当たり前のことなのに私は忘れていた。


 周りの人のことを良く見るようになると、自然と行動できるようになった。

 次の日の放課後。廊下で重そうなプリントの束を運んでいる同じクラスの女子を見掛けた。


「エマ、手伝うよ。2人で運んだ方が早いからね」


「ありがとう、ミリア」


 これも『恋学』のイベントだ。先生からエマたちは職員室までプリントを運ぶように頼まれるけど、一緒にいた貴族の生徒はエマに全部押し付けて帰ってしまう。

 見かねたミリアが手を貸して、それを見ていたジークの好感度が上がるイベントだけど。そんなこと私には関係ない。私はエマを手伝いたいと思っただけだ。


「ほら、貸せよ。俺が持ってやる」


「ジ、ジーク殿下……」


 イベント通りにジークが現れる。エマの目がハートマークだ。

 イベントならここでミリアが断って、ジークが強引にプリントを奪う。そんな強引なところが格好良いとキュンキュンするシーンだけど。


「ありがとうございます、ジーク殿下。貴方も結構良いところがあるんですね」


 私は素直にジークにプリントを渡す。人の好意には素直に甘えるのが私だから。エマが持っている分のプリントの半分を私が持って、3人で職員室に向かう。


「結構は余計だ。ミリア、おまえは本当に生意気な女だな」


「自覚はありますよ。でもジーク殿下も大概ですよね。ツンデレとか言われませんか?」


「何だそのツンデレって?」


「格好つけてるのに、実は優しい人って意味ですよ」


「な……何を言ってるんだ! おまえ、本当に生意気な奴だな」


 ジークの顔が赤い。ちょっと楽しいかも。イベントとかキャラとか考えなければ、学院生活は楽しい。それに気づかせてくれたのはアリウスだけど……


 でもやっぱり、アリウスには絶対お礼なんて言いたくない。人を見透かすような氷青色アイスブルーの瞳と余裕の笑み……あいつ・・・の顔を思い出すと、なんかモヤモヤするから。


※ ※ ※ ※


ミリア・ロンド 15歳

レベル:22

HP:92

MP:128

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