第23話:解らせてやるよ


 転移魔法テレポートで『ギュネイの大迷宮』に直行する。

 『白銀の翼』もS級冒険者パーティーだから転移魔法は使えるけど、使えるのは万能型を目指しているジェシカと、魔法系アタッカーのマイクだけだ。


 マイクがダンジョンに入る前にMPを消費したくないと言うので、俺の転移魔法で全員運ぶつもりだった。だけどアランが俺の手なんか借りるなと言い出したので、結局ジェシカとマイクが転移魔法を使うことになった。正しいのはマイクの方だけど、俺としてはどうでも良い話に付き合わされたな。


 『ギュネイの大迷宮』は150階層から魔物モンスターのレベルが跳ね上がる。

 150階層で300レベル前後。180階層で400レベル前後。最下層の200階層になると500レベル前後だ。それに対してジェシカたちのレベルは200レベル代後半から300レベルそこそこだからな。


 それにレベルだけの話じゃない。『ギュネイの大迷宮』の最下層に出現する魔物はネームドデーモンロードと呼ばれる固有名詞を持つ最上級の悪魔たちだ。

 奴らは凶悪な特殊能力を持っているからレベル以上の強敵なんだよ。しかもダンジョンの魔物だから、同じ固有名の魔物が大量に出現する。


「とりあえず俺の結界から絶対に出るなよ。出たら命の保証はしないからな」


 ダンジョン内の転移ポイントで200階層に移動すると、俺は複合属性第10界層魔法『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開する。

 

「うん。それは良いけど……ねえ、アリウス。ツッコミどころ満載なんだけど。なんで鎧すら着ていない上に、その禍々しい剣……どう見ても呪われた武具カースドアイテムよね?」


 今の俺はシャツ1枚にズボンという格好で、2本の剣は確かに呪われている。


「まあ、装備のことはどうでも良いだろう。俺は訓練のためにこのスタイルで戦ってるんだよ」


 俺の当面の目標はソロで最難関トップクラスダンジョンを攻略することだ。だから最難関ダンジョンの魔物とか戦うことを想定して、高難易度ダンジョンでは攻撃力と防御力をセーブして攻略している。

 セーブすると言っても手を抜くと変な癖がつくからな。呪われた武具で攻撃力を、防具を装備しないことで防御力を調整している。


 まあ、今の状態は『竜の王宮』で戦うことを想定しているからな。『ギュネイの大迷宮』だとまだオーバーキルだけど。


「ふざけるなよ……『ギュネイの大迷宮』の最下層で力をセーブするなんてあり得ないだろう! ハッタリに決まっている!」


 アランが騒いでいるけど無視だ。『絶対防壁』ごとジェシカたちを移動させて玄室に飛び込む。

 最初に出現した魔物はベルゼバブ12体。だから何で固有名詞を持つ怪物が複数体出現するんだよと、心の中で一応突っ込んでおく。


 ベルゼバブが攻撃を始める前に、まず4体を仕留める。俺のスピードだとジェシカたちには見えないだろうけど、わざわざ速度を落としてやるつもりはない。

 残りの8体もベルゼバブが放つ魔力の波動をギリギリで躱しながら瞬殺した。


「う、嘘だろ……」


 俺の実力を見せてやるとアランは大人しくなる。まあ、セーブしてるから実力じゃないけどな。


「なあ、アランにジェイク。まだ俺の力を疑うなら一緒に戦ってみるか?」


 俺は売られた喧嘩は買う主義だし、喧嘩を売った奴に容赦するつもりはない。まあ、相手が女子なら別だけどな。


「……ああ。おまえが瞬殺できるレベルなら、俺だって余裕だぜ!」


「おい、アラン……なあ、アリウスさん。俺はあんたの実力が解ったからさ。勘弁してくれよ」


「ジェイク、てめえ……怖気づくんじゃねえぞ!」


 アランとジェイクが仲間割れしている。俺は無視して2人の襟首を掴むと『絶対防壁』の外に放り出した。


「じゃあ、俺は手を出さないからな。2人で頑張って来いよ」


「お、おい! ま、待ってくれよ!」


「ジェイク、てめえも覚悟を決めろよ!」


「ちょっと、アリウス! このままじゃ……」


 2人を助けるために飛び出そうとするジェシカの腕を掴む。


「アリウス! 2人が悪いのは解っているわ。だから助けてとは言わないけど……あんな奴らでも私のパーティーメンバーなのよ!」


 今でも子供っぽいところがあるけど、ジェシカは良くも悪くも真っ直ぐな奴だよな。だから俺は嫌いじゃない。


「ああ、解ってるって。あいつらを死なせたりしないからさ。次の玄室の扉を開ける度胸があるか試して、扉を開けないなら俺がボコボコにする。扉を開けたら地獄を見せてやるだけだよ」


「それって……本当に殺さないんでしょうね?」


 次の玄室の扉は2人の目の前にある。扉を開ければ、奴らを瞬殺できる400レベル級の魔物が出現する。

 開ければ確実な死。開けなければ臆病者だと自ら認めることになる。


「アリウス君ってさ、実は性格悪いよね。アランとジェイクには良い薬だけど」


 マルシアがニヤニヤ笑っている。


「性格が悪いのはおまえも同じだろう。俺は自覚してるから問題ないよ」


「あたしだって自覚してるよ。ねえ、アリウス君。アランとジェイクが扉を開けるか賭けない? あたしは開ける方に金貨1枚かな」


「それじゃ賭けにならないな。まさか扉を開ける度胸もないとかあり得ないだろう」


 俺たちの声はアランに聞こえているからな。煽られたら開けるに決まっている。


「……ふ、ふざけるなよ! 当たり前じゃねえか!」


「お、おい……アラン、止めろって!」


「うるせえな、ジェイク! このまま引き下がれるかよ!」


 はい、馬鹿決定だな。


 扉を開くと黒い翼を持つ天使のような姿の悪魔――堕天使ルシフェル10体が出現する。だから10体出現するとか全然固有名詞じゃないだろう。


 ルシフェルたちは一瞬でアランとジェイクとの距離を詰めると、巨大な黒い大剣を無慈悲に叩き込む。

 だけど殺さないとジェシカに約束したからな。俺は2つ目の『絶対防壁』をギリギリのタイミングで出現させる。


「なあ、余計なことをしたよな。結界を解除しようか?」


 目の前に迫る大剣が放つ圧倒的な力に、アランは恐怖に目を見開いて何も言えない。ジェイクは失禁してるし。だけど俺は性格が悪いからな。これくらいで許すつもりはない。


「今から10秒で決めろよ。おまえたちだけでルシフェルと戦うか俺に謝るか。俺はどっちでも構わないけどな。10、9、8、7、6、5――」


「ま、待ってくれ! アリウス、俺が悪かった!」


 何だよ、この程度で音を上げるのか。俺は10体のルシフェルを瞬殺した。


「アリウス……あんただけは敵に回したくないわ」


 ジェシカがジト目で見ているけど問題ない。


「まあ、俺はこういう奴だからな」


「そうね。でも……そういうあんたも嫌いじゃないわ」


 ジェシカが何故か赤い顔をしている。なあ、ジェシカ……今の展開のどこに、おまえが頬を染める要素があるんだよ?


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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