第22話:約束は果たすけど ※冒頭ミリア視点※


※ミリア視点※


 え……なんでソフィアが私に頭を下げるの?


 ソフィアたちに囲まれながら果敢に立ち向かうミリア。エリクが助けに入って互いの好感度がアップ。ソフィアが嫉妬して、悪役令嬢の道を歩み始める……そういうイベントの筈なのに。


 ゲームとは逆にソフィアが私を助けてくれた。それにイベントに絡まない筈のアリウスやバーンまでいるのはどういうことよ? 私の記憶とは余りにも違い過ぎる。

 

 ゲームとはまるで別人みたいにしたたかな笑みを浮かべるアリウス。2人の会話からソフィアを変えたのはアリウスみたいね。

 光属性魔法の『治癒ヒール』だって、ゲームのアリウスは使わなかった。


 やっぱり前世の記憶自体が私の妄想なの? それとも、ここはリアルな世界だからゲームとは違うってこと?

 何が正解なのか解らない。私が混乱していると……中庭を後にするときにアリウスが言った。


「ミリア。おまえさ、思い込みが激しいって言われるだろう。だけど相手も人間なんだから、おまえが考えもしなかった行動をしても仕方ないよな」


 私を見透かすような氷青色アイスブルーの瞳と余裕の笑み。この表情って……やっぱりどこかで見たことがある気がする。でも誰なのか思い出せない……


「こいつはこういう奴だって決めつけるなよ。相手がなんでそういう行動をしたのか考えないと、相手を理解することなんてできないからな」


 確かにその通りかも知れない。だけどこの台詞……昔、同じことを言われた気がする。

 そんなことはあり得ない筈なのに、思い出せない誰か・・・・・・・・の微かな記憶とアリウスの姿が重なる。


「ご、ご忠告感謝します! それと先ほどはありがとうございました! これで私は失礼します!」


「おい。おまえなあ……」


 何だろう、この気持ち……私は捲し立てると、逃げるようにその場を立ち去った。


※ ※ ※ ※


 王立魔法学院に入学して2週目は暑苦しいバーンと知り合いになったり、ミリアとソフィアのイベントとか結構盛沢山だったな。

 放課後はジェシカとマルシアと毎日一緒にメシを食ったり、ゲイルたちがウザ絡みして来たり。まあ、『竜の王宮』の攻略は順調に進んでいるから問題ないけどな。


 今日も『竜の王宮』の最下層で魔物モンスターを延々とリポップさせてから、ラスボスに挑む。ダンジョンの仕様はゲームと変わらない。

 ラスボス戦だけを繰り返さないのは、『竜の王宮』のラスボスが単体で出現するからだ。


 俺の当面の目標は、ソロで最難関トップクラスダンジョンを攻略することだ。

 最難関ダンジョンで魔物が単体で出現することはないから、単体戦ばかりやっていても訓練にならない。

 魔物を延々とリポップさせるのも、最難関ダンジョンでは継続戦闘能力を求められるからだ。


 まあ、そんな感じで週末を迎えた。今週末はジェシカとの約束で、2日間限定でパーティーを組むことになっている。

 土曜日の朝にカーネルの冒険者ギルドに向かうと、先に来ていたジェシカとマルシアが他の冒険者たちと喋っている。だけど何か様子が変だな。


「ごめん、アリウス。うちのパーティーメンバーが、どうしても一緒に来るって言ってきかないのよ。私たち『白銀の翼』6人全員一緒でも構わないかな?」


 2人と一緒にいる冒険者は男子が3人に女子が1人。中には俺が知っている奴もいる。


「人数が増えるのは構わないけど、全員の面倒を見るつもりはないからな」


 俺は人に教えるのが得意な方じゃない。守るだけなら簡単だけどな。


「うん、それで構わないわ。アリウス、ありがとう。じゃあ、うちのメンバーを紹介するわね」


 S級冒険者パーティー『白銀の翼』のメンバーは物理系アタッカーのジェシカと斥候のマルシアに、もう1人の物理系アタッカーのアラン、タンクのジェイク、魔法系アタッカーのマイクに、ヒーラーのサラという構成だった。


 この世界では魔法やスキルを個別に習得するから、職業クラスという概念はない。だけど冒険者は普通パーティーを組むから、それぞれ役割を分担をしている。


 それにしてもジェシカのパーティーは、5年前からメンバーが随分入れ替わったな。俺が知ってる奴はマイクとサラくらいか。マルシアも5年前はいなかったからな。


 まあ、人によって成長速度が違うし、目指すところも違う。冒険者パーティーのメンバーが入れ替わるのは珍しいことじゃないけど。

 ジェシカも何か思うところがあったんだろうな。まあ、俺には関係ないけどな。


「へえー……あんたがSSS級のアリウスか。あの有名なグレイさんとセレナさんのおこぼれでSSS級になったって有名だよな」


 アランがいきなり噛みついて来る。まだこんなことを言う奴がいるんだな。


「ちょっと、アラン! アリウスに失礼なことを言わないでよ。こっちから頼んでパーティーを組んで貰うんだから!」


「そうだよ、アラン。アリウス君とジェシカとの関係が気になるからって、その言い方はないよね」


「お、おい、マルシア! 何言ってんだよ! そんなんじゃなくて、俺はこいつの化けの皮を剥がしたいんだって!」


 え……こいつら本気で言ってるのか? ダンジョンに『恋学』の世界を持ち込むとか、一気にテンションが下がるんだけど。俺にこの2日間を無駄遣いさせるつもりか。


「俺もアリウスの実力は疑問だな。その年でSSS級はあり得ないだろう」


「だからジェイクまで、アリウスに失礼なことを言わないでよ!」

 タンクのジェイクまで参戦して、アラン・ジェイク対ジェシカ・マルシアの口論が始まる。

 いや、俺は他人の評価なんて興味ないから。俺のいないところで勝手にやってくれよ。


「あの……アリウスさん、ごめんなさいね」


 ヒーラーのサラが申し訳なさそうに言う。だけどこいつには5年前にジェシカの暴走を止めなかった前科があるからな。


「ああ、ウンザリしてるのは事実だけど。俺の方が年下なんだし、呼び捨てで構わないからな」


 『白銀の翼』のメンバーは1番年下がジェシカで、全員20代だ。


「さすがにそれは無理ですよ。僕たちはアリウスさんの実力を知っていますから」


 魔法系アタッカーのマイクが苦笑いする。こいつも5年前からいる前科持ちだ。

 まだ暫く口論が続きそうなので、俺は暇だからこいつらを『鑑定』する。まあレベルとステータスは確かにS級クラスみたいだな。


「アリウス、待たせてごめんなさい」


 ようやく話がついたのか。結局、アランとジェイクも一緒に来ることになった。


「これ以上文句は言わせないから。アリウス、我慢して貰える?」


 いや、アランとジェイクの態度を見る限り、このまま大人しくしてるとは思えないけどな。


「それで、どこのダンジョンに行くんだよ。俺はジェシカたちに合わせるけど」


「せっかくアリウスとパーティーを組むんだから『ギュネイの大迷宮』に決まってるじゃない。アリウスはソロで攻略中なんでしょ?」


 いや、俺が攻略してるのは『竜の王宮』だけどな。ここでさらに攻略難易度が高い『竜の王宮』の名前を出すと、また面倒なことになりそうだから否定しない。


「おまえたちが攻略した高難易度ハイクラスダンジョンは『ビステルタの門』だよな。だったらとりあえず150階層辺りに行くか」


 俺は『ビステルタの門』も攻略済みで、攻略難易度なら把握している。

 『ギュネイの大迷宮』は高難易度ダンジョンの中でも攻略難易度は上位で、『ビステルタの門』を攻略した程度だと下層部は厳しいだろう。


「おいおい、SSS級のアリウスがいるなら最下層で問題ないだろう。本当にSSS級の実力があるならな」


「だから、アラン! これ以上アリウスに喧嘩を売るなら……」


「ジェシカ、好きに言わせておけよ」


「アリウス、でも……」


「その代わり、俺は売られた喧嘩は買う主義だからな。アラン、覚悟しておけよ」


「へえー……面白えじゃねえか!」


 アランはいつでも剣を抜けるように身構える。


「おまえなあ……ギルドの中で剣を抜くとか、馬鹿じゃないのか。相手になるのは構わないけど、これからダンジョンに行くんだからな。そこで決着をつければ良いだろう」


 さすがにこの状況でアランの味方をする奴はいない。メンバー全員から非難の視線を向けられて、アランは引き下がる。


「チッ……仕方ねえな」


「あと最下層に行くって話だけど。死んでも構わないって誓約書を書くなら連れて行ってやるよ。ああ、書くのはアランとジェイクだけで良いからな。他の4人は俺が責任を持って守るよ」


「上等だ! おい、マイク、ペンと羊皮紙を出せ! ジェイク、おまえも書けよ!」


「アラン……解ったぜ」


 この世界には普通に紙があるし、活版印刷も発展している。だけど契約書や魔法のスクロールは、伝統的な羊皮紙とペンを使うんだよな。


「ねえ、アラン。止めなさいよ。アリウスに謝れば済む話でしょう」


「うるせえな、ジェシカ。男がここで引き下がれるかよ!」


 いや、ジェシカが言うと火に油を注ぐだけだろう。

 結局、俺たちは『ギュネイの大迷宮』の最下層である200階層に向かうことになった。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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