第21話:決意 ※ソフィア視点※
※ソフィア視点※
『ええ。それも貴族の義務の1つですが、私は慈悲の心を持つことも大切だと思います』
平民を擁護するような発言をしたことで、派閥のみんなと距離ができた。
それ自体は仕方がない。私は間違ったことを言った訳ではないから。だけどその結果、あの事件が起きてしまった。
突然私のクラスにやって来た彼は、いつもの見透かすような
「おまえの取り巻きたちが平民の生徒を連行して中庭に行ったんだけど、何か知っているか?」
「え……何ですって!」
距離はできたけど、さすがに派閥のみんなが私を無視して勝手なことをする筈はないと思っていた。
だけど彼が言ったことが本当なら、知らなかったでは済まされない。私はビクトリノ公爵の娘としての責任を放棄したことになる。
必死に走って中庭に向かうと、派閥のみんなが生徒を取り囲んでいた。現実を突き付けられて、私は眩暈がしそうだった。
「貴方たちは、何をしているのですか!」
「「「ソフィア様……」」」
みんながバツの悪い顔をする。だけどイザベラとローラは違った。
「ソフィア様、私たちは平民を教育してるんですわ」
「そうですわ。ソフィア様もそれは解ると仰っていましたわ」
「そうですが……」
私は言葉に詰まる。確かに彼女たちの発言を容認したからだ。
「そういうことですので……続きをしますわ。そこの平民、貴方に自分の立場を解らせてあげますわ。さあ、貴族である私にぶつかったことを身を以て謝罪しなさい」
みんなが平民の生徒を押さえつける。
「止めてください! ぶつかったのは私も悪いけど、こんな一方的なのってないわ!」
彼女は抵抗したけど、みんなが地面に組み伏せる。土で汚れる彼女の顔をイザベラは嘲笑うと、頭を踏みつけようとした。
このまま私は傍観するつもりなの……このとき彼の言葉が頭に浮かんだ。
『なあ、おまえだって本当はそう思ってるんだろ。やりたくないことに無理して付き合う必要なんてないからな』
貴方なんかに言われなくたって……そんなことは解っているわよ!
「イザベラ、止めなさい!」
私が派閥のみんなに命令するのは初めてのことだ。
「ソフィア様……まさか、ソフィア様は平民の味方をしますの? そんな筈はありませんわね」
「そうですわ。それにお優しいソフィア様が私たちに命令するなんて、あり得ませんわ」
イザベラとローラが反発するけど、引き下がるつもりはない。
「イザベラ、私は止めろと言っているんです。貴方は自分が何をしようとしたのか解っているんですか? 誰の味方をするとか、そういう話ではありません。貴方たちがしたことは貴族として……いいえ、人として恥ずべき行為です!」
こんなことを言ったら、派閥のみんなが離れて行くかも知れない。だけど私は間違っていない。
「貴方たちが他の生徒を傷つけるなら、私は絶対に許しません!」
「ソフィア様……それは私たち派閥の貴族を切り捨てるということですか?」
「そんなこと、あり得ませんよね……貴族にとって派閥以上に大切なモノなどありませんから」
「貴方たちが人として恥ずべきことをするなら、派閥のことなど関係ありません。むしろそのような行為を見過ごせば、ビクトリノ家の名を汚すことになります。これ以上続けるなら、貴方たちの家を派閥から除名します」
私にそんな権限がないことは解っている。だけど2人がしたことを許すことはできないから、敢えて除名という言葉を使った。
「貴方たちも、彼女から早く手を放しなさい」
「「「は、はい、ソフィア様!」」」
みんなが慌てて生徒を解放する。私は彼女に近づいて抱き起した。
「貴方には派閥の者たちが大変失礼なことをしました。本当に申し訳ありません。ビクトリノ家の名に懸けて、この償いは必ずさせて頂きます」
頭を下げるのは当然のことだ。私が躊躇したことで彼女を傷つけてしまったのだから。
「ソフィアさん、そこまでしなくても……貴方がやったことじゃないのに」
だけど白い髪と紫紺の瞳の彼女は何故か戸惑っていた。同性の私から見ても彼女は凄く可愛い。私のような可愛げのない女と違って。
「いいえ、派閥の者がしたことは私の責任ですので、そのような訳にはいきません。申し遅れましたが、私はソフィア・ビクトリノと申します。貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「は、はい。私はミリア・ロンドです」
貴方が畏まる必要なんてないのにと、申し訳なく思う。だけど、だからこそ私が派閥のみんなを戒めないと。
「では、ミリアさん。今回の償いは必ずさせて頂きますが、今日のところは申し訳ありません。私は彼女たちと話をする必要がありますので失礼させて頂きます」
「なかなか凄い状況になっているね」
このタイミングでエリク殿下が姿を現した。これだけの騒ぎを起こしたのだから当然かも知れない。私は一切隠すつもりなどなかった。
「エリク殿下にお詫びしなければなりません。派閥の者たちが人としてこのような恥ずべき行為をしたことは、殿下の顔にも泥を塗ったことになります。私をどのように処罰して頂いても構いません」
エリク殿下との婚約破棄――ビクトリノ家としては大きな痛手だけど、責められるのは当然だ。それだけのことを派閥のみんながして、私はそれを傍観したのだから。
「なあ、エリク。俺が口を挟むことじゃないけど一言だけ良いか」
覚悟を決めた私の前に、彼が突然姿を現した。
「今回の件はソフィアの知らないところで、こいつらが勝手にやったことだ。こいつらがそこの女子を中庭に連れて行くところを俺が見掛けて、ソフィアに教えたら慌てて止めに来たんだよ。事の次第は俺も全部見てた。ソフィアは何も悪くないからな」
どうして……私を擁護するようなことを言うの? イザベラたちのことも彼が教えてくれた。だけど……彼がそんなことをしてくれる理由が解らない。
「バーン殿下については意外だけど、2人ともソフィアを擁護してくれてるんだね。ありがとう。だけど僕だってソフィアのことを疑ってはいないよ。あとは彼女を傷つけた君たちのことも、全てソフィアに任せるつもりだから。僕が王子の立場で処分するとか、そんなことは一切しないつもりだよ」
エリク殿下の言葉に派閥のみんながほっとしている。だけど何を考えてるの。貴方たちが許される訳がないでしょう。
「だったら良いんだけど。じゃあ、バーン。俺たちは退散するか。だけどその前に。おまえ、ミリアって言ったよな。ちょっと待っていろよ」
彼が被害者の生徒と話している。また無詠唱で魔法を発動しているけど、そんなことは問題じゃない。
「アリウス様、ちょっと待ってください!」
立ち去ろうとする彼を、思わず呼び止めてしまった。だって……
「だから、様付けは止めろって言っただろう。それで、何だよ?」
「私を擁護してくれて、ありがとうございます。ですが……貴方が私に良くしてくれる理由が解りません。それに……こんなことを言っては何ですが、私には派閥の者たちが行なったことの責任を取る義務があります。私だけ罰せられないのは道理に適いません」
私が傍観したから彼女は傷ついてしまった。私の責任は重い。
「まず、おまえが礼を言う必要なんてない。俺が勝手にやったことだし、事実を述べただけだからな。それに派閥の奴らがやったことの責任を取るのは組織としては当然なんだろうけど、俺はそういうの興味ないし」
彼は何でもないことのように笑う。エリク殿下のような爽やかな笑みじゃないけど……余裕たっぷりの
「ア……貴方だって貴族なんですから、派閥に興味がないでは済まされないでしょう?」
アリウスと言い掛けて、できなかったことを誤魔化す。いきなり呼び捨てなんて私には無理だった。
「いや、別に構わないだろう。俺の親も派閥なんて作ってないし。そもそも俺が爵位を継ぐ可能性は低いからな」
彼の意外な発言に戸惑う。
「え……貴方はジルベルト侯爵家の嫡男ですよね?」
「まあ、そうだけどな。俺には弟と妹がいるし、親には好きにして構わないと言われてるからな」
自ら家督を継ぐ権利を放棄するなんて、貴族としてあり得ない。だけど冗談ではないみたいね。彼が何を考えているのか、私には理解できなかった。
「爵位を継ぐ可能性が低いって? アリウス、それは僕も初耳だな。君が宰相になって貰わないと僕が困るんだよ。僕が国王になったときに面倒事を全部1人でやるのは大変だからね」
「エリクなら余裕だろう。万が一手が足りなくても、他の奴を宰相にすれば良いだけの話だしな」
「君の弟と妹には悪いけど。僕はアリウス以外の宰相なんて考えてないよ」
エリク殿下は国王陛下に言われたからじゃなくて、本気で彼のことを信頼していることが解る。理由は解らないけど、私が嫉妬するくらいに。
「話が反れたな。ソフィア、聞きたいことがそれだけなら俺は行くけど」
「ええ……引き留めて申し訳ありませんでした」
だけど、どうして彼はそんな風に余裕で笑っていられるの? 本当に貴族の地位なんてどうでも良いから? それとも本当は何も解っていないから……
いいえ、私にも彼が何も知らない愚か者じゃないことは解る。つまり彼は全部解った上で、爵位なんて興味がないと放棄しようとしている。
そんな彼に比べて……私は覚悟が足らなかった。それが悔しくて、私は思わず彼を睨んでしまう。
※ ※ ※ ※
ソフィア・ビクトリノ 15歳
レベル:14
HP:51
MP:75
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