第16話:約束


 ジェシカとマルシアを誘って、空いているテーブル席に移動する。


「ジェシカ、今日はS級昇格祝いで奢ってやるよ。マルシアも好きなモノを注文してくれ」


「うん。ありがとう、アリウス……」


「さすがアリウス君、太っ腹だね。マスター、1番高いお酒をボトルで! あと料理も高い順にジャンジャン持って来てよ!」


 何がさすがなのか良く解らないが、マルシアが調子の良い奴だってことは解った。


「マルシア! あんた、ちょっと待ちなさいよ!」


「いや、別に構わないって。だけどマルシア、注文したモノは残すなよ」


「うん。勿論だよ。全然余裕だから」


 3人分の飲み物と料理が次々と運ばれて来る。マルシアが遠慮なく頼んだから結構な量だ。


「もう、マルシアったら……アリウス、ごめんね」


「いや、ジェシカが気にすることじゃないだろう」


 俺もエールを飲みながら料理を食べる。まだ食うのかと言われそうだけど、普通にまだまだ食えるからな。


「それでジェシカ、俺に何の用だよ?」


「え、えっと。その……アリウスとは久しぶりだから、話したいって思っただけよ。ねえ……そう言えば、グレイさんとセレナさんは一緒じゃないのよね。もしかしてアリウスは2人のパーティーから抜けたの?」


「ああ、今俺はソロだ。家の事情でロナウディアの王都に戻ることになったからな。俺の都合に2人を付き合わせる訳に行かないだろう」


「そうか、アリウスは1人なんだ。2人に会えないのは残念だけど、だったら私と……え? 今、ロナウディアに戻るって言った? アリウスは帰っちゃうの?」


 何故かジェシカが慌てている。


「何か誤解してるみたいだけど、俺はもうロナウディアに戻ってるからな。毎日転移魔法テレポートでダンジョンに通っているんだよ」


「毎日転移魔法で? なんでそんな魔力の無駄遣いをしてるのよ」


 転移魔法は距離によって結構なMPが必要だからな。ジェシカの言いたいことは解る。俺のMPなら問題ないけどな。


「昼間はロナウディアで別にやることがあるんだよ。だからダンジョンに行くのは15時過ぎからだし。まあ、親との約束だから仕方ないけどな」


「そうなんだ……アリウスは忙しいみたいね」


 歯切れが悪いな。ジェシカらしくない。


「なあ、ジェシカ。言いたいことがあるならハッキリ言えよ」


 何か前にも同じようなことを言った気がするな。


「え……別に何でもないから……」


「もう、ジェシカは肝心なところでヘタレるよね。まあ、そこが可愛いところなんだけどね」


 マルシアがニマニマしながら口を挟んで来た。いやそれよりも、俺とジェシカが喋っているうちに、大量に頼んだ料理がほとんど無くなっていることを突っ込むべきか。


「ちょっと、マルシア! また余計なことを言おうとしてるでしょ!」


「良いから良いから。ねえ、アリウス君は史上最年少でSSS級冒険者になったんだよね」


「ああ、そうだけど」


 確かに俺がSSS級に昇格したのは12歳だから史上最年少だ。だけど前世の年齢と合わせると当時37歳だから、最年少なんて言われてもピンと来ない。


「あれ? だから何だって反応だね」


「実際そう思ってるからな。なあ、マルシア。今さら俺を持ち上げて何を企んでるんだよ?」


 いきなりこんな話を振るとか。どうせ裏があるんだろう。


「嫌だなあ、あたしは何も企んでないよ。アリウス君にたかろうとか全然思ってないし」


「マルシア。あんたはもう十分集ってるわよね」


「まあまあ、その話は置いておいて。アリウス君にお願いがあるんだよね。あたしたちと一緒にパーティーを組んでくれないかな」


「ちょっと、マルシア! いきなり何を言ってるのよ!」


 ジェシカが慌てて止めようとするが、マルシアは聞くつもりがないらしい。


「あたしたちもS級になって結構強くなったつもりだけど、己惚れるのはマズいからね。SSS級の実力って奴を見せて欲しいんだよ」


 まあ、マルシアの言ってることには一応理に適っている。だけどそんな殊勝なことを考える奴には見えないけどな。


「俺は今ソロでどこまで戦えるか試してるんだよ。だから当分はパーティーを組むつもりはないな」


「そこを何とかお願いできないかな。ジェシカのS級昇格祝いだと思って」


「だから、マルシア。アリウスにも都合があるんだから、勝手なことを言ったら迷惑でしょ!」


 ジェシカが俺に気を遣うとか。俺の扱いはもっと悪いと思ってたけどな。ジェシカも成長したんだな。


「なあ、ジェシカ。おまえも俺とパーティーを組みたいのか?」


「そんなこと……まあ、そうだけど。アリウスに悪いし……」


 こいつは昔から真剣に強くなりたいと思っているんだよな。グレイとセレナが目標だからな。


「だったら、今度の週末限定なら構わないぜ」


「え、嘘……アリウス、本当に良いの?」


 ジェシカの顔がパッと明るくなる。


「ああ。2日くらい付き合ってやるよ。俺もそこまで急いでる訳じゃないからな」


 ソロで最難関トップクラスダンジョンを攻略するのに焦るのは禁物だからな。

 それに5年前はB級だったジェシカがS級になったんだ。ジェシカが頑張ったのは事実だがら、何か報いてやりたいとは思う。

 だけど問題なのはマルシアが企らんでいることの方だな。


「なあ、マルシア。おまえは余計なことをするなよ。俺たちはパーティーを組むだけだからな」 


「え? アリウス君は何を言ってるのかな。あたしは何もするつもりはないよ」


 マルシアはジェシカをけしかけようとしている。まるで恋愛脳の『恋学コイガク』のキャラみたいにな。

 だけど俺とジェシカは、そういう関係じゃないんだよ。だから釘を刺しておく必要があるけど、マルシアに効果があったかは疑問だな。だけどそろそろ時間切れだ。


「俺は門限だから帰るよ。マスター、会計してくれ」


 マルシアが大量に注文した分の支払いがまだだった。結構な金額になったけど問題ない。


「アリウス、門限ってどういうことよ?」


「そのままの意味だよ。家の事情で俺は22時までに帰らないといけないんだ。時差の関係でカーネルだと20時までだな」


 転移魔法で自分の部屋に直行するから門限を破ってもバレる可能性は低い。だけどバレると面倒だからできるだけ門限を守るつもりだ。


「そうなんだ。ねえ、アリウス。その……パーティーを組んでくれてありがとう」


 何なんだよ、この殊勝なジェシカは。マルシアがニマニマしてるし。


「いや……別に構わないって言っているだろう」


 ここまで素直に言われると柄にもなく照れる。


「じゃあ、俺は帰るからな」


「うん。アリウス、おやすみなさい」


 俺は誤魔化すように、冒険者ギルド後を後にした。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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