第15話:再会


 ゲイルたちのテーブルに戻ると料理と酒が運ばれていた。山盛りの肉にかぶりついて、冷たいエールで流し込む。

 学院のメシも悪くないけど、俺はこういう豪快なのが好きなんだよ。食事のマナーとか正直どうでも良い。


「マスター、お代わりをくれ。あとエールもな」


「アリウスは昔から良く食うと思ったけどよ、今もまさに食べ盛りって感じだな。おまえは確か15歳だったよな。オッサンの俺はもうそこまで食えねえな」


「ゲイル、何言ってるんだよ。おまえだってまだ28だろう。冒険者は身体が資本だからな。ガンガン食えって」


「いや、俺は酒で栄養を取ってるから良いんだって。それよりもアリウス。今日、ジェシカがギルドに来たぜ。ようやく遠征から戻って来たみたいだな」


「ああ、ジェシカか。あいつもまだこの街をベースにしているのか」


 ジェシカは5年前に、カーネルの街で唯一俺に喧嘩を売った冒険者だ。

 いや、向こうが絡んで来たから実力で黙らせたのは事実だけど、そこまで言うと可哀そうか。まあ、腐れ縁て奴だな。


 5年前は15歳だったから今はジェシカも20歳か。さすがに少しは大人になっただろうけど、精神年齢40歳の俺から見ればまだ子供だろうな。


「何だよ、アリウス。反応が薄いな」


「いや、こんなもんだろう。昔だってあいつが勝手に絡んで来ただけだからな」


「ああ、そんなこと言うのかよ。ジェシカは昔から美少女だったし、今じゃかなりの別嬪だぜ。イケメンのアリウスは女に不自由してないってことか?」


「何だよ、ゲイル。俺とジェシカはそんなんじゃないからな」


 ジェシカは5年前に一悶着あった後も、俺が冒険者ギルドに来る度に絡んで来た。

 だけど喧嘩を売るような感じじゃなかったから、面倒というだけで普通に知り合いとして付き合った。

 そう言えば何故か『伝言メッセージ』を無理矢理登録させられたな。


 ジェシカから何度か『伝言』が来たけど『グレイさんとセレナさんは元気?』とか『今どこのダンジョンにいるの?』とか毎回大した内容じゃなかったからな。

 俺の方は『ああ』とかダンジョンの名前だけ書いて適当に返信した。


「なあ、アリウス。もしかして本気で……いや、おまえは昔から嘘は言わねえか。ジェシカが可哀そうになってきたぜ」


「だから、何でそういう話になるんだよ」


「おまえがこの街にいるって話したら、ジェシカが会いたがっていたからよ」


「ああ、ジェシカはグレイとセレナが一緒だって思ってるんだよ。なあ、ゲイル。俺1人だって教えてやれよな」


「いや、そうじゃなくてよ。おまえが1人だってことは勿論伝えたって。それでもジェシカはおまえに会えるって喜んでたんだよ」


「そんな筈ないだろ。だったら何で俺を待たずに帰るんだよ。グレイとセレナがいないって解ったから、ガッカリして帰ったんじゃないのか」


「アリウス、おまえは女心が解ってねえな。遠征から帰って来たままの薄汚れた姿をおまえに見せたくないんだよ。おめかしする時間くらい必要だろう」


 女心が解らないって自覚はあるけど、A級冒険者で結構稼いでるのに28歳独身のゲイルにだけは言われたくないな。そんなことを思っていると、ギルドの扉がバンッと音を立てて開いた。

 入って来たのは、アッシュグレーの髪をショートボブにした女子だ。


 蒼いハーフプレートを纏う彼女は『恋学コイガク』の主人公のライバルとして登場しそうな……いや、さすがに美少女という年齢じゃないか。それでも客観的な意見として言えば、美人なのは間違いない。


「よう、ジェシカ。久しぶりだな」


 ジェシカは5年前もよりも身長が伸びて色々と成長していた……見た目的にはな。

 だけどゲイルはジェシカが着替えて来るようなことを言ってたけど、冒険者の装備のままじゃないか。やっぱりゲイルの勘違いだろう……まあ、手入れをしたのか剣も鎧もピカピカだけど。


「アリウス……よね?」


 ジェシカが戸惑うのも無理はない。5年前は10歳だった俺の方が成長しているからな。

 今の俺は身長190cmを超えて筋肉も増えている。『恋学』の攻略対象だからか、いくら鍛えても細マッチョな体形にしかならないけどな。


「ああ。残念ながらグレイとセレナは一緒じゃないけどな」」


「それはゲイルから聞いたけど……もう! あんたは何でカーネルに戻ってるって教えてくれないのよ。『伝言』で教えてくれたら、もっと早く戻って来たのに!」


「いや、わざわざ伝えるようなことじゃないだろう。そもそも俺から『伝言』を送ったことなんてないよな」


「まあ……そうだけど……」


「おい、アリウス。そんな冷たいことを言うなよ。ジェシカはおまえに追いつこうと頑張って高難易度ハイクラスダンジョンを攻略したんだぜ」


「ゲ、ゲイルは、何を言ってんのよ! アリウスのことは関係ないから!」


「へえー……ジェシカも『ギュネイの大迷宮』を攻略したのか?」


「ううん、『ギュネイの大迷宮』はまだ攻略してないわ。私たちが攻略したのは『ビステルタの門』っていう別の高難易度ダンジョンよ」


 まあ『ギュネイの大迷宮』は高難易度ダンジョンの中でも攻略難易度上位だからな。


「それでも高難易度ダンジョンを攻略したってことは、ジェシカもS級冒険者ってことか」


 冒険者の等級は功績によって決まる。高難易度ダンジョンを攻略したならS級に昇格するには十分な功績だ。


「ええ、そうよ。でも……あんたに追いつきたいとか、そんな理由で頑張った訳じゃないからね……結局、今でも追いつけてないけど」


 俺は3年前にグレイとセレナと一緒に最初の最難関トップクラスダンジョンを攻略した時点でSSS級に昇格している。

 ちなみに世界に10人しかいないSSS級になるには功績を上げた上に、現役のSSS級の誰かに模擬戦で勝って序列を奪う必要がある。

 勿論、俺も模擬戦に勝ったからSSS級になったんだけど。あのときは半分不戦勝みたいなものだからな。


「まあ、そういうのはどうでも良いけどな」


「え……何よ、どうでも良いって!」


 ジェシカが頬を膨らませる。何だよ、5年経ってもそういうところは成長してないな。


「いや、理由なんてどうでも良いだろ。おまえは実力でS級になったんだからな。自分が頑張ったことを誇って良いと思うぞ」


「アリウス……うん、そうだよね!」


 ジェシカは嬉しそうに笑う……何故か顔が赤いけど。まあ、こいつは機嫌が悪いときは面倒臭いからな。機嫌が良いに越したことはない。


「ところでジェシカ、さっきの感じだと俺に何か用があるのか? まあ、立ち話も何だから座れよ……って、席がないな」


 テーブル席は俺とゲイルのパーティーメンバーで埋まっている。


「おまえも1人って訳じゃないみたいだしな。別のテーブルに移るか」


 ジェシカの後ろには彼女の後からギルドに入って来た冒険者がニマニマしながら立っている。

 黒いレザーアーマーの猫耳獣人女子で、年齢はジェシカと同じくらいだ。


「マ、マルシア! いつからそこにいたのよ?」


 背後にいることに気づいていなかったのか、ジェシカが慌てる。


「ねえ、ジェシカ。そこの彼が例の・・アリウス君だよね?」


「そ、そうだけど……マルシア、絶対に余計なことは言わないでよ!」


「うんうん。解ってるって……アリウス君、初めまして。あたしはマルシア・エスぺル。ジェシカと一緒にパーティーを組んでるS級冒険者だよ。ジェシカから君の噂は予々かねがね……だからジェシカ、安心してよ。余計なことは言わないから」


「嘘だよ! マルシアは絶対に余計なことを言おうとしてるよ!」


 ジェシカがここまで慌てるなんて、マルシアに俺の悪口でも言ったのかよ。


「とりあえず、俺の自己紹介は必要ないみたいだな。ゲイル、また今度一緒に飲もうぜ」


「ああ、アリウス。おまえはジェシカの相手をしてやれよ。俺は若い奴の恋路を邪魔をするほどデリカシーのない男じゃないからな」


「ゲ、ゲイル、何言ってんのよ! 私とアリウスはそんなんじゃないから!」


 おい、ゲイル。今の発言は全然デリカシーないよな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る