2章 恋愛魔法学院
第11話:王立魔法学院
乙女ゲー『
王国宰相の息子の
白い壁に囲まれた王都の中心部にある広大な敷地。学院は全寮制だから初めての1人暮らしになる。
だけど俺は8年間ほとんど宿屋暮らしで、自分のことは自分でやっていた。だから1人暮らしと言っても今さらどうということはない。
「ここが俺の部屋か」
狭い部屋はベッドと机と本棚、小さなクローゼットだけで一杯だった。
学院の敷地内にある寮は男子寮と女子寮に分かれ、さらに貴族用と平民用に分かれている。
貴族は使用人や侍女を一緒に連れて入寮するから、貴族用の部屋は使用人の個室まであるホテルのスイートルームみたいな造りだ。
だけど俺には使用人なんて必要ないし、部屋が広いと掃除が面倒だからと平民用の部屋にして貰った。勿論それは言訳で、本当の理由は貴族と一緒の寮生活が面倒臭いからだ。
「ロナウディア王国は初代ブラウス・スタリオン国王陛下によって大陸歴108年、今から826年前に建国されて……」
学院に入学してから1週間が経った。学院の授業は正直な感想を言えば退屈だ。
魔法に剣術、数学の授業はレベルが低過ぎるし、地理と歴史の授業も独学で学んで最新の世界情勢を知ってる俺には今さら感しかない。外国語の授業も俺は実地で学んでいるからな。
無駄な時間を過ごすのが好きじゃないからな。座学のときは内職することにした。
学院に通う唯一のメリットは、図書室の豊富な蔵書を自由に借りられることだな。
知識が無駄になることはないから、俺は授業中ずっと本を読んで過ごしている。
これじゃ学院に通う意味がないと言われても仕方ないけど、そんなことはない。
学院生活を経験すること自体に意味がある。まあ、色々と面倒な経験をするという意味だけどな。
「アリウスは本が好きだよね。だけど授業は真面目に聞かないと駄目だよ」
昼休みになると話し掛けてきたのは、爽やかな笑みを浮かべる豪奢な金髪の完璧イケメン。こいつはロナウディア王国第1王子エリク・スタリオン。
「ああ、善処するよ。もう少し面白い内容なら真面目に聞くんだけどな」
エリクは王族なのに少しも偉そうじゃない気さくで良い奴だ。乙女ゲーの攻略対象と思えないほど……いや、乙女ゲーの攻略対象なんて恋愛脳で、女のことばかり考えてると思っていた。実際にゲームだとエリクもそんな感じだったからな。
だけど俺が呼び捨てでタメ口なのも本人が構わないと言ったからだ。実際にタメ口で話しても嫌な顔1つしない。
まあ、エリクとは一応幼馴染だからな。俺も7歳で冒険者になるまでは社交界に顔を出していたから、子供の頃に何度も会っている。
最初に会った時点で父親のダリウスから俺は将来エリクの宰相になる予定だと聞かされていた。だからこっちはエリクのことを観察していたけど、エリクの方も当時の俺のことを良く憶えているらしい。
妙に親しげなのはそのせいなんだろうけど、エリクが気さくな態度を取るのは誰に対してもで、良い奴なのは子供の頃から変わらない。
ただの良い奴ってだけじゃなくて、頭が回る油断ならない奴だけどな。腹黒って訳じゃないから俺は嫌いじゃない。
問題なのは周りにいる取り巻きの連中だな。
「アリウス、エリク殿下に対してその態度はなんだ。貴様もジルベルト宰相の子息なのだから、自分の立場を弁えたまえ」
取り巻きの1人が文句を言う。いや、ただの取り巻きと言うには大物か。こいつはラグナス・クロフォード。王国三大公爵家の1つであるクロフォード公爵家当主の息子だ。
王国宰相のダリウスは侯爵だから、親の爵位はこいつの方が上だな。
「ラグナス、僕は構わないよ。アリウスには僕の方から堅苦しい言い方は止めてくれと言ったんだからね」
「ですが、エリク殿下……」
「君にも呼び捨てにして構わないと言ってるよね」
「いいえ、殿下。決してそのようなことはできません」
取り巻きにしたら本当にタメ口を利く俺の態度と、宰相の息子なのにエリクの派閥に加わらないことが気に食わないんだろう。
学院では身分に関係なく生徒は平等だという建前だけど、こいつらは貴族の派閥争いを完全に持ち込んでいる。
「ラグナス、君は堅いよね。立ち話はこれくらいにして、親睦を深めるために僕がみんなを昼食に招待するよ」
王族であるエリクには学院内に専用のサロンがあって、王室御用達の料理人が毎日昼食を用意している。
他の生徒を招待するのは恒例行事で、ゲームではエリクと一緒に昼食を食べるのは好感度を上げるイベントの1つだった。
「アリウス、君もどうだい?」
「いや、俺は1人でメシを食べる主義だからな。遠慮しとくよ」
初日だけは付き合ったけど、俺がエリクの好感度を上げてどうするんだって。
それにゲームでは取り巻きの台詞は描写されないけど、リアルだとエリクの機嫌を取るような話ばかりするからウザいんだよ。エリク本人は苦笑してたけどな。
「アリウス、貴様はまたそんなことを!」
「だからラグナス、そういうのは止めてくれないかな。アリウスもまた今度一緒に食事をしようね」
「ああ。気が向いたらな」
これ以上付き合うと昼飯を食べる時間が無くなるからな。話を切り上げて教室を後にする。
俺が向かったのは一般生徒が使う食堂だ。フードコートのようにテーブル席が並んだホールで、学院の生徒なら無料で昼食を食べることができる。
ランチのプレートを取って、適当に空いている席に座る。今日のメニューはチキンのソテーにポテトサラダにコーンポタージュ。意外と庶民的なメニューだけど、ここのメシの味は悪くはない。
俺は誰と話すでもなくメシを食べる。1人でメシを食べる主義なのは本当だけど、友だちがいないのも事実だな。
学院の生徒は8割が貴族の子供で、冒険者の俺と話が合う奴なんていないんだよ。
だけど理由はそれだけじゃない。父親のダリウス譲りの銀髪と、母親のレイア譲りの
前世で死んだ25歳と合わせると俺は40歳だからな。ルックス目当ての10代の女子とか、恋愛のことしか考えてない連中に付き合うつもりはない。
嫉妬をする男子も同じだ。子供っぽ過ぎて相手をする気にならない。
それに俺は宰相の息子だからあからさまに喧嘩を売る奴はいないけど。父親のダリウスは1番下の爵位である騎士爵から宰相になったから、成り上がりの息子と陰口を叩く奴はいるし。8年も冒険者をしていて社交界に疎い俺を馬鹿にしている奴も多い。
まあ、他人を蔑むことで自分の方が上だと満足している奴らなんて、正直どうでも良い。真面に喧嘩を売るなら買ってやるけどな。
ふと、俺と同じように1人でメシを食べている奴に気づく。
食堂の一番奥。何故か空いている広いテーブル席に、1人で座っているのは俺の数少ない知り合いだった。
メガネで三つ編みの地味な女子はノエル・バルト。俺もノエルも毎日のように図書室に通っているから自然と知り合いになった。
ノエルは如何にも本好き少女って感じで、今もメシを食べながら本を読んでいる。
俺が席を探していたときは見掛けなかったら、後から食堂に来たんだろう。
まあ、今さら席を移動して一緒にメシを食べようとは思わない。だから俺は1人でメシを食べる主義なんだよ。
さっさとメシを食べて食堂を出るつもりだった。だけどその前に事件が起こる。
「そこの平民……誰の許可があって
食堂に響くヒステリックな声。視線を向けるとノエルが貴族の女子に囲まれていた。
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アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:????
HP:?????
MP:?????
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