第10話:冒険者生活の終わり


 魔力を凝縮した白い刃が巨大な額に突き刺さる。


 全長100mを超える翼のある巨人は、無尽蔵と言えるほどの魔力を帯びていた。

 だけど24時間を超える死闘の末に、崩れ落ちて消滅する。


「ようやく倒したな。これでアリウスも俺たちに並んだ訳だ」


 俺たちは1年掛けて、遂に最初の最難関ダンジョンを攻略した。グレイとセレナはダリウスたちと1度攻略しているから2回目だけど。


だけどそれはまだ始まりに過ぎなかった。

 最難関ダンジョンを攻略できる順番は決まっている。難易度の低いダンジョンを攻略しないと、次のダンジョンに入れないからだ。


「ここからは俺たちも初めての経験だ。前に挑んだときはダリウスとレイアが抜けたから、2番目の最難関ダンジョンの攻略は諦めたからな」


 2番目に攻略難易度が低い最難関ダンジョンは、1階層から最初の最難関ダンジョンの最下層よりも強い魔物が出現する。

 つまり俺たちは常に挑戦者の立場ってことだ。強くなり続けることを求められる。


「全く……最高だね。まさに戦いの中で生きてるって実感できるよ」


「アリウスも言うようになったな。おまえも俺たちと同じ立派な戦闘狂だぜ」


「あら、グレイ。失礼ね。私は貴方たちとは違うわよ」


「セレナ、そう思っているのはおまえだけだからな」


 笑いながら魔物を殺し続ける俺の姿を他の奴が見れば異様に思うだろう。

 だけどそんなことは関係ない。命を削るような戦いの中で、自分が強くなっていくことを実感できるのが最高に楽しいんだ。


 それからさらに4年間、俺たちは最難関ダンジョンの攻略を続けた。

 5つ目の最難関ダンジョンのラスボスは……まあ、魔物の領域を遥かに超える存在だったな。


 まだ攻略していない最難関ダンジョンは2つ残っているし。実は存在を知られていないだけで、さらに凶悪なダンジョンがあることを俺たちは知っている。

 5つの最難関ダンジョンの中にその証拠があった。つまり7つ目の最難関ダンジョンまでしか辿り着いた奴がいないってだけの話だ。


 だけどそろそろ時間切れだ。俺は15歳になって、両親との約束で『恋学コイガク』の舞台であるロナウディア王国王立魔法学院に入学するからだ。


「とりあえず、俺はパーティーを抜けるよ。グレイとセレナを待たせる訳には行かないからね」


 2人との別れはアッサリしたものだった。まあ、別に今生の別れという訳じゃないからな。


 俺は別に乙女ゲーの世界を体験したい訳じゃない。ロナウディアの貴族は学院を卒業することが家督を継ぐ必須条件だからだ。


 ちなみに一番下の爵位である騎士爵の息子だったダリウスは、飛び級の12歳で学院を卒業してから冒険者になり、王国の危機を救った功績と才能を認められて宰相になった。爵位も今では王族と血縁関係がない貴族としては一番上の侯爵だ。


 ダリウスの後を継ぎたいかと訊かれたら、正直に言えば俺は地位なんて興味がない。冒険者の方が性に合っていると思うんだよ。

 最終的にどうするかは自分で決めて良いと言われている。だけど同時に自分から将来の道を狭めるなとも言われているから、学院に通うのは仕方ない。


 まあ、乙女ゲーの世界を無視すれば、学院生活も経験の1つだからな。3年くらいは我慢して通うことにするか。


「アリウスは学院に通っている間、冒険者を休業するのか?」


「いや、ちょっと考えがあってね。時間的な制約があるから、何処まで試せるか解らないけど」


 俺の言葉にグレイとセレナが笑う。2人には俺が考えていることくらい見抜かれているんだろうな。


 俺がパーティーを抜けた後、グレイとセレナは最難関ダンジョンの攻略を中断して、2人で世界中のダンジョンを攻略して回るらしい。

 まあ、2人だと6つ目の最難関ダンジョンを直ぐに攻略するのは厳しいからな。


 グレイなら1人でも最難関ダンジョンに挑みそうだけど、自称戦闘狂じゃないセレナと暫くはゆっくりするつもりだそうだ。


「まあ、3年後に期待してくれよ。俺も3年間遊んでいるつもりはないからね」


 万が一俺が王国宰相の地位を継ぐことになっても、ダリウスが直ぐに引退する訳じゃないからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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