第9話:旅立ち


「ねえ、アリウス……勝負しなさいよ! あんたの実力が本物か、私が確かめてあげるわ。あんたが私を倒したら、グレイさんとセレナさんのパーティーメンバーだって認めてあげるわよ!」


 いや、ジェシカ。おまえに認めて貰う必要なんてないだろう。


「おー! 決闘か!」


「どっちも頑張れよ!」


「ジェシカはB級だからな。俺はジェシカに銀貨1枚賭けるぜ!」


「俺はアリウスに銀貨2枚だ! グレイさんとセレナさんのパーティーメンバーなら、実力は間違いないだろう!」


 周りの冒険者たちまで勝手に盛り上がっている。完全に野次馬モードで楽しむつもりだな。こんな馬鹿なことに付き合うつもりはないと放置してやるか?


 だけどジェシカは本気だ。真剣な目で俺を見つめている。

 ジェシカが本気でグレイとセレナに憧れていることは態度を見れば解る。きっと憧れの2人を目標に頑張ってB級冒険者になったんだろうな。


 だけど2人はジェシカじゃなくて年下の俺をパーティーメンバーに選んだ。誰を選ぼうが2人の勝手だけど、何故自分じゃなくて俺なのか。その答えを知るために、ジェシカは俺と勝負したいんだろうな。


「アリウス、勝負してやれば良いじゃねえか」


「そうね。たまにはこういうのも良いんじゃない」


 グレイとセレナも止める気がないみたいだな。

 まあ、俺が初めから実力を示していれば、ジェシカが勘違いすることはなかった訳だし。力を見せつけるような真似は趣味じゃないけど仕方ないか。


「解ったよ、ジェシカ。おまえがそれで納得するなら勝負するよ」


 俺が勝負を受けたことで、さらに盛り上がる冒険者たち。いや、おまえたちを喜ばせるためにやる訳じゃないからな。


 一応模擬戦という形にして、冒険者ギルドの地下にある修練場に向かう。

 周りで勝手に盛り上がっている冒険者たちを無視して、俺とジェシカは対峙する。


 ジェシカは片手でも両手でも使えるバスタードソード使いで、俺はロングソードの二刀流だ。

 二刀流にしたのは、ほとんどソロで戦っていたから手数を増やすためだ。今では左の剣も右と大差なく使える。


 手を抜くのはジェシカに失礼だからな。勝負は一瞬だった。

 ジェシカが動く前に距離を詰めて、一撃で剣を折る。

 反応すらできずに武器を失ったジェシカは唖然とするが、素直に負けを認めた。


 全然盛り上がらない展開に詰まらないと文句を言われると思ったけど。周りの冒険者たちの反応は予想と違った。


「お、おい……今の見えたか?」


「いや……全然見えなかった……」


「マジで凄えな! さすがはグレイとセレナが選んだ奴だぜ!」


 どよめきと称賛の声。いや、だからおまえたちを喜ばせるためにやったんじゃないし。そういうのは要らないからな。


 勝負の後。ジェシカはまるで人が変わったように俺に対する態度を改めた。

 いや、ちょっと言い過ぎか。自分の方が年上だという態度は相変わらずだからな。


「約束だし、アリウスの実力は認めてあげるわよ。だけどグレイさんとセレナさんに比べたらまだ弱いのよね? だったら2人の足を引っ張らないように、もっと頑張りなさいよ。

 あ、勘違いしないでね。アリウスが頑張ってることは解ってるけど、もっとってことよ。あと暇だったら……また私が模擬戦の相手をしてあげても良いわよ」


 ナニ、この上から目線って感じだけど悪意は感じない。頻繁に話し掛けてくるようになって、ちょっと鬱陶しんだけど。

 いや、模擬戦くらい付き合うし。子供っぽさに目を瞑ればジェシカは頑張ってるから嫌いじゃない。だけど冒険者ギルドに行く度に、こいつの相手をするのはな……


 それにグレイとセレナが生暖かい目で見るのも地味に嫌だ。いや、だから俺は精神年齢35歳だから、15歳の女子に興味なんてないんだけど。

 どちらかと言えばセレナの方がストライクゾーンだけど……セレナが10歳の子供を相手にする筈がないからな。


「ねえ、アリウス。私も絶対に強くなって、いつかグレイさんとセレナさんに認めて貰うわ」


「ああ、頑張れよな。俺も本当の意味で2人の隣に立てるようになるよ」


 見た目だけは年齢が近いジェシカとの付き合いは、数ヶ月で終わりを告げた。

 俺たちは『ギュネイの大迷宮』の攻略を終えて、カーネルの街を離れることになったからだ。


「アリウス……私と『伝言メッセージ』の登録をしなさいよ」


 『伝言』は登録した者同士で距離に関係なく文字を送り合える魔法だ。


「別に構わないけど。おまえに連絡することなんてないだろう」


「い、良いから……さっさと登録しなさいよ!」


 結局強引に登録させられたけど、今でも理由は謎だ。


※ ※ ※ ※


 体長25mの巨大な赤竜の首を切り飛ばすと、巨竜はエフェクトととも消滅して巨大な魔石とドロップアイテムが出現する。


「とりあえず、これで終わりか。結構呆気なかったね」


「それだけアリウスが強くなったってことだ。今日のところは誇っても良いぜ」


「そうね。明日からまた真面目に鍛錬するなら構わないわよ」


 ここは『竜の王宮』と呼ばれる最も攻略難易度が高いと言われる高難易度ハイクラスダンジョン。あれから1年掛けて、俺たちはさらに難易度が高い高難易度ハイクラスダンジョンを全て攻略した。


 ここまで来て、俺もようやくグレイとセレナと本当の意味で肩を並べて戦えるようになった気がする。まだ2人の方が強いけどな。


 そして俺たちは遂に最難関トップクラスダンジョンに挑むことになった。


 世界に7つしかない最難関ダンジョンは、他のダンジョンと根本的に違う。

 第1階層から『竜の王宮』のラスボスを凌ぐ凶悪な魔物が出現するってのもある。

 だけどそれも最難関ダンジョンの脅威を表す言葉のほんの序の口に過ぎない。


「あのさ……いったい何体いるんだよ?」


「さあな。数える暇があるなら、とにかく倒すしかねえな」


「もう少し引き付けたら範囲攻撃魔法を放つわよ。あとは上手く隙間を利用して戦いなさい」


 広大な空間の彼方から迫って来るのは、フルプレートを纏う巨大な天使という姿の魔物モンスターの群れ。

 俺の『索敵』に反応する魔物の数は1,000体を超えている。それら1体1体が放つ魔力の強さは、確かに『竜の王宮』のラスボスを超えている。


 最難関ダンジョンの階層は壁のない巨大な空間だ。隠れる場所などなく、階層中の魔物が一気に襲い掛かって来る。そして階層中の魔物を倒すまで戦いは終わらない。


 高い天井付近に出現した魔力を圧縮した白い隕石群が、巨人の天使たちに降り注ぐ。俺とセレナが同時に放った第10階層魔法が戦闘開始の合図だった。


 一瞬の気の緩みで命を落とすし、撤退するタイミングを間違えたら全滅する。そんな緊張感の中で俺たちは戦い続けた。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 11歳

レベル:658

HP: 6,788

MP:10,247

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