第8話:出会い
何故か俺のことを睨んでいるアッシュグレーの髪の少女。
だけど俺の方は興味がないから、素通りして冒険者ギルドのカウンターに向かう。
大量の魔石はカウンターに置き切れないから、いつものように奥に通して貰って倉庫で広げる。
査定に時間が掛かることも解ってるから、金は後で取りに来ると言ってグレイたちのテーブルに戻った。
「あ、あの……SSS級冒険者のグレイさんとセレナさんですよね?」
すると、ちょうどさっきの女子が2人に話し掛けるところだった。
「私はB級冒険者のジェシカ・ローウェルです。グレイさんとセレナさんに、その……あ、憧れているんです! ど、どうか、握手してください!」
「いや、握手くらい構わねえけどよ。同じ冒険者なんだ。堅苦しいのは無しにしようぜ」
「そうね。憧れてるって言われるのは嬉しいけど。せっかくだからお喋りでもしない?」
「は、はい! 是非お願いします!」
冒険者の等級は1番下がFで1番上がSSSの9段階。いつも一緒にいるから特に意識していないけど、グレイとセレナは世界に10人しかいないSSS級冒険者なんだよな。
まあ、俺が言うのも何だけど。ジェシカもこの年でB級なら、かなり優秀な冒険者だな。
「アリウス、戻って来たな。もうメシが来てるぜ」
テーブル上には料理の皿と3人分の酒の入ったグラスが置いてある。
この世界に飲酒の年齢制限はないから、10歳の俺も普通に酒が飲める。
「ジェシカも好きなものを注文しろよ。今日は奢ってやるからな」
「グレイさん、ありがとうございます!」
グレイとセレナが隣り合って座っているから、俺は必然的にジェシカの隣に座ることになる。
「アリウス、この子はジェシカだ。一緒にメシを食うことになった。ジェシカ、こいつは俺たちのパーティーメンバーのアリウスだ」
「グレイ、それじゃ全然説明になってないわよ。ジェシカとは今知り合ったんだけど、一緒に食事をしようって私たちの方から誘ったのよ」
「そうなんだ。俺はアリウスだ。よろしく」
「私はジェシカよ、よろしく」
ジェシカは挨拶するときも、何故かまた俺を睨んでいた。
「うん? どうしたの、ジェシカ?」
「な、何でもありません! それよりも、お2人のお話を聞かせてください!」
2人と話をしている間、ジェシカは完全に俺を無視していた。だけど俺には全然心当たりがないし、腹が減っているから料理に集中する。
ジェシカの態度にはグレイとセレナも気づいていて、ときどき苦笑している。
だけど止めさせるつもりはないみたいだ。自分のことは自分で解決しろってことだな。
周りを見回すと、心配そうな顔でこっちを見ている若い冒険者たちがいた。もしかしてジェシカの仲間か?
まあ、ジェシカは明らかに俺に喧嘩を売っているからな。仲間なら心配なんだろうけど。だったら最初に止めろよ。
大皿の料理を3つ平らげたところで、とりあえず満足した。そろそろジェシカの相手をしてやるか。
「なあ、ジェシカ。俺に言いたいことがあるなら言えよ。おまえのその態度はさすがにどうかと思うよ」
別に本気で怒ってる訳じゃない。精神年齢35歳の俺から見れば、相手は子供だからな。だけど売られた喧嘩は買う主義なんだよ。
これまでも俺が子供だからって馬鹿する奴は結構いた。舐めた態度を取る奴を黙らせるには、力づくが一番手っ取り早いからな。
「そんなことないわよ。あんたの気のせいじゃない?」
ジェシカは惚けるが、また俺を睨んでいる。
「そうか? 俺のことが気に食わないって態度が見え見えなんだよ。おまえにとってグレイとセレナは憧れなんだよな。俺が2人と一緒にいるのがムカつくのか?」
初めて会ったのにいきなり睨まれるとか、他に理由は思いつかないし。ジェシカの顔を見れば、俺の予想が当たったことは明らかだった。
「……アリウス、あんたは私よりも年下よね」
「俺は10歳だけど。だから何だよ?」
「え、嘘……本当に10歳? だったら、まだ冒険者じゃないの……」
今度の反応は予想外だった。
「わ、私、そんなに年が変わらないと思って……」
自分よりも年下でまだ経験も浅そうな冒険者が、憧れの人間と親しく喋っていた。
だったら自分もと思って対抗心を燃やしたけど、予想以上に相手がまだ子供で、自分のしたことが急に恥ずかしくなったらしい。
「一応言っておくけど。俺は5歳からダンジョンに潜ってるし、7歳で冒険者になったからな。ジェシカより経験があると思うけど」
「え……冗談よね?」
「ジェシカ、アリウスが言っているのは本当のことよ。それにアリウスは私たちのパーティーのメンバーだから」
セレナの言葉に周りの冒険者たちまで騒めく。俺はいつも2人と一緒に行動しているけど、まさかグレイたちのパーティーメンバーとは思っていなかったらしい。
まあ、SSS級冒険者の2人と
冒険者ギルドには俺が高難易度ダンジョンを攻略したことは報告したけど、それは他の街ギルドだし、俺には他人に自慢話をする趣味はないからな。
それに今の俺の見た目は一応冒険者になれる年齢だからか、カーネルの冒険者ギルドで他の冒険者に絡まれることはなかった。だから力で解らせてやる必要もなかったから、この街で俺の実力を知っているのはグレイとセレナだけってことだ。
「10歳で私より経験が上で……グレイさんとセレナさんのパーティーメンバーって……」
ジェシカは情報が整理しきれないのかパニクっている。なんかイジメ過ぎたみたいで、ちょっと可哀そうになってきたな。
「なあ、ジェシカ。そういう訳だからさ。解ってくれれば別に俺は……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私は納得した訳じゃないわ!」
突然復活したジェシカの声がギルド中に響く。他の冒険者たちが再び注目する。
「ねえ、アリウス……私と勝負しなさいよ! あんたの実力が本物か、私が確かめてあげるわ。あんたが私を倒したら、グレイさんとセレナさんのパーティーメンバーだって認めてあげるわよ!」
いや、なんでそんな話になるんだよ。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 10歳
レベル:438
HP:4,492
MP:6,701
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