第7話:2年後


 俺が最初の高難易度ダンジョンを攻略した功績でS級冒険者に認定されると。


「てめえは……グレイさんとセレナさんと一緒にいるだけのお荷物なのに、ガキがS級冒険者とか生意気なんだよ!」


 子供だからという理由だけで絡んで来る冒険者が一気に増えた。


「それで? 用がないなら俺は帰るけど」


 だから今日も俺はA級冒険者6人をボコボコにして路地裏に放置することになった。

 信じられないような顔をする冒険者たちに、いつの間にかやって来たセレナが魅惑的な笑みを浮かべる。


「アリウスの実力が解らないなら、仕方ないわよね。だけど忠告してあげるわ。死にたくないならアリウスに絡まないことね」


「えっと、セレナさん。俺はそこまで凶暴じゃないけど」


「いや、絡んで来る奴らは殺しても構わねえって。なあ、てめえら……そう思うだろう?」


 殺意を向けるグレイにA級冒険者たちは我先にと逃げ出す。まあ、そういう話はどうでも良いんだけど。


俺たちはさらに2年ほど掛けて、世界各地の高難易度ハイクラスダンジョンを攻略した。

 高難易度と一括りに言うけど、ダンジョンごとに攻略難易度の差がかなりあるんだよな。


 ダンジョンのレベルは低難易度、中難易度、高難易度、最難関トップクラスの4段階だ。だけど攻略難易度が一定レベル以上のダンジョンは全部高難易度のカテゴリーになる。


 最難関ダンジョンだけは特別で、この世界に7箇所しかない。最難関ダンジョンを攻略することが当面の俺の目標だな。まあ、まだ先の話だけど。


要塞フォートレスゴーレムは硬過ぎるし、フェンリルとフェニックスは攻撃力があり得ないくらい高いね」


 要塞ゴーレムは1mを余裕で超える分厚い装甲の魔物で、フェンリルは氷属性最強クラスの魔物。フェニックスは炎属性最強クラスの魔物だ。

 しかもそんな魔物たちが最大6グループ同時に出現する。


 今、俺たちが攻略しているのは『ギュネイの大迷宮』の下層部。『ギュネイの大迷宮』は全200階層で攻略難易度は高難易度ダンジョンの中でも上位だ。


「まあ、これくらいアリウスなら倒せるだろう」


「そうね。アリウスが倒せないのは可笑しいわよ」


 グレイとセレナは当然のように言うけど、ちなみに俺が最初に攻略した高難易度ダンジョンの攻略推奨レベルが250で、『ギュネイの大迷宮』は攻略推奨レベル500だ。

 それだけレベルが違うから俺は苦戦している訳だが……


「解ってるよ。倒せないと前に進めないからね」


 魔力を集中して格上の魔物に挑む。研ぎ澄ました魔力が魔物の首を刎ねる。

 魔物が強ければ、自分がさらに強くなれは良い。

 それが当たり前と思うようになったのは、グレイとセレナと一緒に戦っているからだ。


 2人だって初めから強かった訳じゃない。俺と同じように魔物と戦い続けることで強くなったんだ。


「マジで腹減ったな。グレイ、セレナ。早く夕飯を食べに行こうよ」


 俺たちは『ギュネイの大迷宮』を攻略している間、クリスタ公国のカーネルという街に滞在している。理由は単純で『ギュネイの大迷宮』に1番近いからだ。


 俺も転移魔法テレポートが使えるから距離なんて関係ないけど。カーネルの街は他の冒険者も『ギュネイの大迷宮』に挑んでいるから、情報が自然と集まって来るんだよ。

 グレイとセレナは『ギュネイの大迷宮』も過去に攻略済みだから情報なんて必要ないけど、俺にとっては情報収集も良い経験だからな。


 『ギュネイの大迷宮』のもう1つの特徴は、下層部は高難易度ダンジョンの中でも上位の攻略難易度なのに、低層部は中難易度ダンジョンと大差ないってところだな。

 だから『ギュネイの大迷宮』に挑む冒険者の中にはD級もいる。挑むのは簡単だけど、攻略できるのはほんの一握りの冒険者だけだけってことだ。


「よう、グレイの旦那。一緒に飲もうぜ」


「セレナさんも良かったら、是非奢らせてくださいよ」


 冒険者ギルドに行くと、他の冒険者たちが我先にと話し掛けて来る。グレイとセレナは有名人だから2人を知らない冒険者なんていないし。気さくな性格だから皆に慕われている。


「酒には付き合うからよ。腹が減ってるんだ、先に腹ごしらえをさせろや。なあ、マスター。酒と食い物を適当に頼むぜ」


「私は白ワインとチーズの盛り合わせ、後は適当で良いわ。アリウスはどうするの?」


「俺は肉が食べたいな。マスター、肉なら何でも良いから、早くできる物を持って来てよ」


 今俺は10歳だけど、身長が160cmを超えたから中学生くらいには見える。

 見た目は特例なしで冒険者になれる年齢だから、冒険者ギルドにいても違和感はないだろう。まあ、俺と同じ年代で高難易度ダンジョンに挑む奴はいないけどな。


 ちなみに俺たちがマスターと呼んでいるのは、この冒険者ギルドの飲食部門の責任者だ。俺たちだけじゃなくて、皆がマスターって呼んでいる。


「料理が来る前に俺が魔石を換金して来るよ」


「アリウス、いつも悪いわね」


「いや、これくらい当然だからさ」


 2人には俺のレベルに合わせて貰ってるんだから、雑用くらいしないとな。今日も大量の魔物を仕留めたから、収納庫ストレージには沢山の魔石が入っている。

 ギルド職員のいるカウンターに向かおうとすると、俺たちのテーブルの方に近づいて来る女子と目が合った。


 アッシュグレーの髪をショートボブにした14、5歳の少女。客観的に言えば『恋学コイガク』の主人公のライバルとして登場しそうなほどの美少女だ。

 だけど俺は前世で死んだ25歳に今の年齢を足すと35歳だ。ローティーンの女子に興味なんてない。


 だけど相手の方は違うらしい。何故かいきなり睨まれたんだけど。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 10歳

レベル:438

HP:4,492

MP:6,701

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