第6話:ダンジョン攻略の日々


 冒険者になってもグレイとセレナとは物凄いレベル差があるからな。必然的に2人には俺のレベルに合わせて貰うことになる。2人には申し訳ないけど、とにかく俺が強くなるしかないな。

 

 俺たちが最初に挑んだダンジョンは中難易度ミドルクラスの『カルラの墓所』だ。低難易度ロークラスダンジョンは冒険者になる前に、実戦経験を積むために攻略している。

 中難易度ダンジョンでも今の俺のレベルなら余裕らしいけど、初めてだから慎重に攻略を進める。


 ちなみに難易度が上がったからと言っても、1階層から低難易度ダンジョンのラスボスクラスが出現する訳じゃない。

 低難易度ダンジョンの場合は、1階層は5レベル以下の魔物モンスターで、最下層で50レベル程度が出現する。それが中難易度ダンジョンの場合だと、1階層が10レベル前後で最下層で100レベル超。魔物の強さがスライドして、階層数も増える感じだな。


「俺とセレナは敵が多いときだけ数の調整くらいしてやるが、基本は1人で何とかしろよ」


「うん。それくらいできないとね」


 『カルラの墓所』は全50階層でかなり広いけど、1階層毎に地図を埋めるようにして攻略した。

 40階層くらいまでは魔物の強さ的には余裕だった。


 45階層を超えてもまだ俺の方がレベルは上だけど、ほとんどソロで戦っているようなものだから、数が多いときつくなって来る。


「アリウス、少しは手伝ってあげるわよ」


「いや、まだ大丈夫だよ。ノーダメージって訳には行かないけど、HPもMPも余裕があるからね」


 意地を張ってるんじゃなくて冷静な分析だ。俺は回復魔法も使えるからな。


「そう。だったら行けるところまで行きなさいよ」


 危なくなれは2人が助けてくれる。そんな甘いことは一切考えていない。

 中難易度ダンジョン程度で音を上げたら、いつまで経っても本当の意味でパーティーメンバーなれないからな。


 最下層になると怪物のレベルは100を超えてくる。『カルラの墓所』は墓所というだけあって、上級アンデッドのオンパレードだ。バンパイアやリッチ、アンデッドドラゴンが全て上位種で複数出現する。


 まずは数を減らすために第10階層範囲攻撃魔法『殲滅聖光アニヒレイトレイ』を放ってから、剣の上位スキルで切り込むのが必勝パターンだ。


 勿論、魔物によって魔法は使い分ける。アンデッドだから『殲滅聖光』を使っているだけだ。

 剣もスキル頼りだと動きが雑になるから、タイミングと動きを自分で調整する。


「とりあえず、次がラスボスだな」


 結局ここまで全部1人で戦った。グレイとセレナは暇だろうけど、これが正解だと思う。


「ラスボス戦は……」


「勿論、俺1人で何とかするよ。いや……必ず倒して見せるから」


「そうか。じゃあ、任せるぜ」


「でもアリウス。無理なら無理だって判断しなさいよ。無謀な戦いなんて褒められたものじゃないからね」


「うん。解っているよ」


 『カルラの墓所』のラスボスはノーライフキング。取り巻きはソウルイーターの上位種だ。

 アッサリ倒されないための仕様なのかラスボスは魔法耐性が高い。だけど全く効かない訳じゃないから、俺はHPを削るために先制攻撃で『殲滅聖光』を連発する。


 アンデッドに効果的な光属性魔法に怪物たちの動きが鈍る。まだMPに余裕があるから、さらに『殲滅聖光』を発動すると――

 ノーライフキングがエフェクトと共に消滅して、巨大な魔石とドロップアイテムだけが残った。


「あれ……」


 これじゃ完全にゴリ押しじゃないか。接近戦の経験も積みたかったのに。


「まあ、ある意味正解だな。アリウスのMPなら、これが一番確実かもな」


「そうね。形に拘る必要なんてないわ。要は勝てば良いんだから」


 グレイとセレナの評価も悪くない。これが俺にとって初めての中難易度ダンジョン攻略だった。


※ ※ ※ ※


 それから半年で10箇所の中難易度ダンジョンを攻略して、俺たちは高難易度ハイクラスダンジョンの攻略を始めた。勿論、『カルラの墓所』の反省を生かしてラスボス戦は魔法でゴリ押ししないように気をつけた。


 中難易度ダンジョンはほとんど全部ソロで攻略したようなものだし、この半年でそれなりに強くなったと思ったけど。高難易度ダンジョンは甘くなかった。


 魔物が10体以上出現するのは当たり前で、しかも複数のグループが同時に襲い掛かって来る。とにかく数が多い上に、最弱の魔物でもレベルは50以上だ。


「アリウス、全方位に気を配れよ」


「私とグレイの位置を把握して、私たちが次に何をするかを考えながら行動しなさい」


 高難易度ダンジョンからグレイとセレナも参戦するようになった。

 だけど一緒に戦うのは途中までで、魔物の数が減ると残りは俺の分だと戦いを止めてしまう。まあ、一緒に戦ってくれるのは俺の連携スキルを上げるための訓練だな。


 それでも中層までは何とかなったけど、下層部に入ると魔物に力負けするようになった。


「こいつ……堅いな」


 血のように赤い鱗を持つ翼のある上級悪魔ブラッディデーモンの相手をしながら思わず呟く。これまでの魔物はラスボス以外全部一撃で倒せたのに、両手の剣を叩き込んでもブラッディ―デーモンはまだ生きている。


 ブラッディデーモンは鱗が堅くてHPが高い上に、物理攻撃に石化の特殊効果がある。さらには第7界層魔法まで使う厄介な敵だ。


 しかもブラッディデーモンの相手だけをしていれば良い訳じゃない。ドラゴンの上位種であるフレアドラゴンと、黒い炎を纏う巨大な馬ナイトメアが同時に出現したからだ。


「一撃で倒せえねってことは、アリウスの魔力の使い方がまだ甘いんだよ」


「そうね。アリウス、もっと魔力を集中しなさい。貴方の実力なら確実に仕留められる筈よ」


 グレイとセレナは全然余裕だ。魔物を次々と仕留めて行く。

 だけど今回も数が減ると戦闘を止めてしまった。


「ほら、早く倒さねえと囲まれるぞ」


「私たちが助けるなんて、甘いことは考えていないでしょうね」


 ああ、解っているさ。グレイとセレナは厳しいからな。

 俺は剣に集中するイメージで魔力を研ぎ澄ます。だけど集中し過ぎて周りの魔物を意識から外したらアウトだ。無防備に攻撃を喰らう訳にはいかない。


 当たる瞬間に魔力を集約するイメージで剣を叩き込むと、ブラッディデーモンの身体が真っ二つになった。

 俺は続けざまに魔物たちを仕留めて行く。


「まあ、そんな感じだな。アリウスは呑み込みが早えみてえだな」


「もう、グレイは……こういうときは素直に褒めてあげなさいよ。アリウス、今の感じを忘れないように今日は徹底的に戦いなさいね」


 さらに深い階層に行くとまた力負けしたけど、それでも戦い続けるうちに魔力操作の精度が向上して、俺のステータスも上がるから普通に倒せるようになった。


 その繰り返しで3ヶ月後、俺たちは最初の高難易度ダンジョンを攻略した。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 8歳

レベル:225

HP:2,325

MP:3,472

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