第5話:7歳の冒険者
応接室に移動して冒険者登録をする。何故応接室なのかと思ったけど、理由は直ぐに解った。
俺はアリウス・ジルベルトではなく、只のアリウスとして冒険者に登録した。王国宰相の息子だってバレると色々と面倒だと思ったからだ。だけど……
「なあ、グレイ。この子のアリウスという名は、まさか……」
「ギグナス、冒険者の素性を詮索するのはどうかと思うわよ」
セレナに釘を刺されてギグナスが黙る。どうやらギグナスは俺が王国宰相の息子だって気づいたみたいだな。
まあ、王国宰相の子供の名前くらい知っていても不思議じゃないし。ダリウスとレイナは元冒険者で、グレイとセレナの昔の仲間だからな。4人の関係を知っている冒険者ギルド関係者なら、アリウスという名前から俺が誰か想像がつくか。
「ああ、そうだな。俺が悪かった。だがロナウディアで冒険者をしていたら、直ぐにバレるだろう?」
「いや、俺たちはロナウディアを出るから問題ない。この国のダンジョンじゃ物足りないからな」
だったら他の国で冒険者登録した方が良かったんじゃないのか。
他の国ならロナウディアの宰相の息子の名前を知っている奴なんて稀だろう。まあ、俺の都合だからグレイたちに文句は言えないけど。
「あのね、アリウス。特例を認めさせるには、ロナウディアの冒険者ギルドの方が都合が良いのよ」
まるで俺の考えを見透かしたように、セレナが耳打ちする……いや、いきなり耳打ちとかするとか。セレナは黒髪と黒い瞳の美人だからな。さすがに不味いだろう。
2人は俺が転生者だって気づいているみたいだけど、セレナは俺を完全に子供扱いだ。まあ、見た目が子供だから仕方ないけどな。
「ダリウスが12歳で特例を認めさせて冒険者になった前例があるし、この国の冒険者ギルドは昔から年齢に対して柔軟なのよ。それにグランドマスターのギグナスは私たちに頭が上がらないから」
つまりゴリ押しを通すためにロナウディアで冒険者登録したってことか。だけどセレナの説明にも俺はイマイチ納得できなかった。
別に冒険者にならなくてもグレイとセレナと一緒ならダンジョンに入ることができる。特例を認めさせる必要なんてないだろう。
俺がそんなことを考えていると……
「なあ、アリウス。これでおまえも冒険者だな。これからは家庭教師と生徒じゃなく、同じ冒険者としてパーティーが組めるぜ」
「え……」
「何を驚いてるのよ、アリウス。当然でしょ」
セレナが悪戯っぽく笑う。これも後から聞いた話だけど、冒険者になるまで俺と一緒に戦わなかったのはグレイのこだわりらしい。
グレイとセレナは俺の力を認めてくれて、一緒にパーティーを組むために俺を冒険者にしたってことだ。
いや、今でも俺がグレイとセレナとパーティーを組めるレベルじゃないことは解っている。だけど2人に認められたことが素直に嬉しかった。
「ところで、アリウス。俺たちとパーティーを組むなら、ダリウスとレイアに承諾を貰う必要があるぜ。俺たちは家庭教師を引き受けたが、それ以上の約束をした訳じゃない。今なら止めることもできるが、どうするよ?」
「グレイさん、そんなの決まってますよ。俺を貴方たちのパーティーに入れて下さい」
2人の誘いを断る理由なんてない。
「なあ、アリウス。パーティーを組むなら、名前は呼び捨てで敬語もなしだぜ」
「そうよ、アリウス。私のこともセレナって呼びなさい」
「は……ああ、解ったよ。セレナ」
「うん、よろしい。アリウス、これからもよろしくね」
その日の夜。俺はダリウスとレイナに冒険者になったことと、グレイとセレナとパーティーを組むことを伝えた。
2人は一切反対しなかった。グレイとセレナのことを信頼しているんだろうし、結局のところ親馬鹿ってことか。
いや、俺は本気で両親のことを馬鹿にしてる訳じゃない。転生したこの世界で俺のことを無条件に信じてくれる2人の溺愛ぶりが、むず痒いんだよ。俺が転生者だって2人も気づいている筈なのに。
25歳で死んだ前世のことを、この4人になら話しても構わないと思う。だけど何も訊かないってことは、前世のことなんて関係なしに俺を受け入れてくれるってことだな。
俺も前世に縛られるつもりはないから、今は敢えて口にするつもりはない。口にすると未練が出そうだからな。
俺がこの世界で成長して、前世のことを客観的に考えられるようになったら、酒を飲みながらでもみんなに話したいと思う。
「だけどアリウス、これだけは約束してくれ。冒険者になるのは構わないが、おまえには王国宰相の地位を継ぐ選択肢があることを忘れるなよ」
ダリウスが真剣な顔で告げる。ロナウディア王国宰相の地位は世襲じゃない。だけど現国王はダリウスのことを相当信頼していて、次の宰相も息子の俺にしたいらしい。
「最終的にどうするかはアリウスに任せるが、将来の選択肢を自分から狭める必要はない。だから冒険者をしている間も勉強を続けて、15歳になったら王立魔法学院に入学して欲しいんだ」
ロナウディアの貴族が家督を継ぐには王立魔法学院を卒業することが必須条件だ。そして魔法学院は『
つまり『恋学』の攻略対象である
「勿論、勉強は続けるよ。そこまで我がままを言うつもりはないからね」
俺は乙女ゲーの世界に興味はないけど、学院に通うだけなら構わない。それにまだ8年も先の話だだから、そこまで真剣に考えていない。
ちなみにダリウスは飛び級で12歳で学院を卒業してから冒険者になったらしいけど、俺にそのつもりはないからな。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 7歳
レベル:128
HP:1,038
MP:1,756
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます