第4話:冒険者ギルド


 グレイとセレナと出会ってから2年が過ぎて、俺は7歳になった。

 2人は現役の冒険者だから、この2年間ずっと俺の家庭教師ばかりしていた訳じゃない。

 俺を戦いに連れて行くとき以外は、1人が俺教えている間にもう1人はソロでダンジョンを攻略していた。2人とも『転移魔法テレポート』も使えるから、日帰りでダンジョンに行けるんだよな。


 俺の方はグレイとセレナの厳しい鍛錬と魔物との戦いに明け暮れる日々だった。2人と一緒にダンジョンに行くこともあったけど、彼らはあくまでも家庭教師として同行するだけで一切手を出さなかった。


 この2年間で俺もそれなりに強くなったと思う。魔法は第10界層まで使えるようになったし、魔力操作も一応グレイとセレナが認めてくれるレベルになった。

 剣術も上位スキルまで実戦レベルで習得済みだ。だけど2人に比べたら全然だ。自分が強くなったことで2人との実力の差を余計に感じる。


 そんなある日。俺は理由も聞かされずに冒険者ギルドに連れて行かれた。


「よう、ギグナス。準備はできているか?」


 如何にも高そうな服を着た年配の男にグレイが声を掛ける。


「グレイ、勿論だ。だが相手は……まさか、その子供なのか?」


「まあ、そういうことだ」


 唖然としている男にグレイはニヤリと笑う。

 俺が話について行けないうちに、冒険者ギルドの地下にある鍛錬場に案内される。

 そこで俺たちを待ち構えていたのは、武装した10人の冒険者だった。


「なあ、アリウス。おまえはこれから、こいつらと模擬戦をするんだ」


「え……どうしてですか?」


「理由は後で説明する。おまえの実力ならこいつら10人相手でも余裕だよな」


 煽るようなグレイの言葉に、冒険者たちが殺気立つ。あのなあ、余計なことは言わないでくれよ。


「グレイさん。いくらあんたでも、さすがに聞き捨てならねえな」


 癖のある長髪の冒険者が睨む。年齢は20代半ばくらいで長身の大剣使い。首から下げているのはB級冒険者のプレートだ。


「そうだぜ。あんたの知り合いだからって俺たちは手加減なんてしないからな」


 他の冒険者が続く。年齢は同じくらいの赤毛で厳つい顔の男。片手剣と盾というオーソドックスなスタイルだ。


 全員が冒険者プレートを付けている訳じゃないけど、プレートを付けている奴は皆B級だ。

 俺は『鑑定』で彼らのステータスを見る。全員50レベル台から70レベル台だから、B級冒険者相当の力はあるってことだな。


「おい、ダグラス、マルコ。そういう話は勝ってから言えよ。アリウス、全員纏めて相手にして構わねえからな」


 グレイが意図的に煽っていることは解っている。セレナも止める気はないようだから、やるしかないってことだな。


「じゃあ、始めますか」


 今の俺の身長は140cmを超えているから7歳には見えない。装備もダンジョンのドロップ品だから、そこまで弱そうには見えないだろう。

 ちなみにマジックアイテムの鎧は装備すると適正サイズになるから、子供の俺が身につけても不格好にならない。


 それでも相手は全員バリバリの冒険者だ。子供の相手をするのは馬鹿らしいという気持ちは解るし、無理矢理やらされてるみたいだから同情もしていた。


「チッ……てめえみたいなガキのお守りをさせられる身にもなれよな」


「そうですね。でも僕も無理矢理連れて来られたんですよ。面倒なことは早く終わらせましょう」


 ベルトから2本の剣を抜く。身長が伸びたから子供用じゃなくて普通のサイズ。これもダンジョンのドロップ品でマジックアイテムだ。


 俺が剣を2本使うのは、いつも1人で戦っているから手数を増やすためだ。鍛錬によって利き腕じゃない方もそれなりに使えるようになった。


「二刀流だと……チッ、格好つけやがって。おい、さっさと掛かって来いよ。ボコボコにしてやるぜ」


 長髪の冒険者が獲物の大剣を鞘に入れたまま挑発する。完全に俺を舐めているな。


「じゃあ、遠慮なく行きますよ。あとで文句を言わないでくださいね」


「何言ってやが……」


 言い終わる前に距離を詰めて、剣の平で腹を殴りつける。

 冒険者は吹き飛ばされて、背中から壁に激突して意識を失う。子供だと舐めていた俺の力に冒険者たちは驚愕する。


「おい、冗談だろ。ガキがこんな力を……」


「『身体強化フィジカルビルド』だな。魔法剣士ってところか」


「いや、まだ魔法は使ってないですよ」


 感想を言っている暇なんてないだろう。続けざまに剣を叩き込むと、赤い髪の冒険者は呻き声を上げて蹲る。


「相手が子供だからって舐めたら駄目ですよ。そういう人は真っ先に死にますから」


 俺は舐められるのは嫌いなんだよ。こいつらも無理矢理付き合わされているからと同情して我慢しようと思ったけど、武器を持った相手に油断する馬鹿に容赦する気はない。


「てめえ、ふざけやがって!」


 残りの冒険者はさすがに武器を抜いて掛かって来たけど、いつも模擬戦をしてるグレイとセレナに比べたら動きが遅過ぎる。


「相手の力量を見極めないと駄目ですよ。それに連携が全然取れていませんね。いつもパーティーを組んでるメンバーじゃないからかな?」


 冒険者の攻撃を躱しながら、1人ずつ確実に仕留めて行く。スキルを使えばもっと簡単に倒せるけど、威力が強過ぎて殺してしまうからな。


 結局10人倒すまでに10分も掛からなかった。呻き声を上げているのが2人で、残りの8人は意識を失っている。


「それでグレイさん。こんなことに何の意味があるんですか?」


「冒険者には年齢制限があってな。14歳にならないと冒険者になれないんだよ。だから特例を認めさせるために、おまえの実力を見せつける必要があったんだ」


 なるほどね、そう言うことか。だけど、だったら先に説明してくれよと思う。


「こんな子供に……全員B級冒険者だぞ……」


「じゃあ、ギグナス。約束は守れよ」


 呆然とするギグナスの肩を、グレイはニヤリと笑って叩く。


「ああ、解っているが……」


 これは後で聞いた話だけど、ギグナスはロナウディア王国冒険者ギルドのグランドマスター。つまり王国冒険者ギルドのトップだった。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 7歳

レベル:128

HP:1,038

MP:1,756

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