第3話:本気の鍛錬
「なあ、アリウス。おまえは5歳にしては破格に強い。大抵の大人には勝てるだろうな。だが俺に言わせれば魔力量が多いことに
家庭教師初日。俺はグレイにダメ出しされた。
「俺はダリウスやレイアみたいに甘くねえからな。徹底的に鍛えてやるよ」
グレイの授業は模擬戦から始まり、俺のダメなところを容赦なく指摘する。
滅茶滅茶厳しいけど、指摘するだけじゃなくて実際に手本を見せてくれるから解りやすかった。
だけど要求するレベルが高いから、そう簡単に実践できるものじゃない。俺は何度もダメ出しされながら、できるまで何度でも繰り返し練習した。
「魔法は魔力を如何に正確に効率良く使うかによって、威力も精度も大きく変わるわ。魔法を憶えるのはあくまでもスタートラインで、威力と精度を上げないと実戦じゃ使い物にならないわよ」
セレナの要求レベルも高い。同じ魔法を発動しても俺とセレナじゃ全く別物に見える。
第1界層魔法からセレナが求めるレベルになるまで、魔力操作を徹底的に叩き込まれた。
この世界の魔法やスキルはゲームみたいに簡単に習得できない。リアルで学ぶことで使えるようになり、練習や実戦で使うことで上達するとレベルが上がる。
ステータスもレベルアップで勝手に上がる訳じゃない。鍛錬したり能力を使うことで初めて上がる。
例えばフィジカル系のステータスは戦闘や筋トレを繰り返すことで上がり、INTは魔法を使ったり勉強することで上がる。
あとは俺自身のレベルの話だけど。グレイ曰く人のレベルは総合的な強さを現わす指標だそうだ。
だけど俺のステータスの数値は、レベル平均の2倍以上あるらしい。
これじゃレベルが全然強さの指標になってない気がするけど。俺が異常なだけで、普通は得意不得意によってステータスにバラつきはあるが一定の枠内に収まるそうだ。
まあ、俺みたいに赤ん坊の頃から鍛える奴なんて他にいないだろうからな。ステータスがバグってても仕方ないか。
鍛錬と模擬戦の次は実戦だ。最初はオークの
「アリウス、俺とセレナは一切手出ししねえからな。おまえ1人で殲滅しろよ」
俺だって
「言い忘れたが攻撃魔法は禁止だからな。全部剣だけで倒して来いよ」
結構大きい塒だから、オークの数は100体を超えているだろう。それを範囲魔法無しで殲滅するのか……面倒だけどやるしかないな。
『
塒にいたのは普通のオークだけじゃなくて、オークメイジにプリースト、護衛役のオーガーまでいた。
だけどオークの魔法くらい『
前世でシミュレーションゲームやMMORPGを散々やったから、敵に囲まれるようなヘマはしない。周りの敵の位置を把握しながら1体ずつ確実に仕留めて行く。
数の暴力と遠距離攻撃に対して、俺はどうにか剣だけで殲滅した。
「まあ、アリウスならこれくらいは当然よね」
次に実戦を行なった場所は、深い森の中だ。セレナが『
「今度は剣は禁止よ。殴り殺すのも駄目だから、魔法だけで戦いなさい」
だったら最初から言ってくれよと思う。もうブラックウルフが目の前に迫ってるんだけど。
セレナ曰く、接近戦に弱い魔術士なんて失格らしい。相手の攻撃は防御魔法で防げば良いし、ゼロ距離で攻撃魔法を放てば問題ないって話だ。
俺は『
範囲攻撃魔法だと自分も巻き込まれるから、単体攻撃魔法で数を削るしかない。
セレナに魔力操作を叩き込まれたことで、俺の魔法は威力も速度も精度も格段に上がった。時速300kmを超える『焔弾』を連射してブラックウルフを次々と仕留めて行く。
だけど幾ら倒しても、どんどん集まって来るんだよな……って、おい。セレナがまた『魔物の呼び声』を発動してるんだけど。
「ねえ、セレナさん。何度も魔物を呼ばれるとキリがないんだけど」
「あら、そんなことないわよ。森中の魔物を全滅させたら終わりじゃない」
あのなあ……まあ、やるしかないか。
ブラックウルフだけじゃ力不足だと思ったのか、キラーベアにマッドタイガーとか、結構洒落にならない大型の魔物までどんどん集まって来る。
それでも今の俺なら『焔弾』で倒せる。ヘッドショットで頭を吹き飛ばすか、心臓を狙って胸に風穴を開けるだけの話だ。
結局300体以上の魔物を殲滅することになった。普通ならMP切れになるところだけど、俺のMPにはまだ余裕がある。
MPが多いというのもあるけど、確実に命中させるから魔法の無駄撃ちがなく、魔力効率が上がったことで同じ魔法を使ってもMPの消費量が減ったからだ。
とまあ……こんな感じで、俺は毎日のように魔物の群れと戦うハメになった。
回数を重ねる度により強い魔物と戦わされたけど、決して倒せない相手じゃなかった。
俺が成長しているのは確かだけど、グレイとセレナが俺の力を見極めてギリギリ勝てる相手を選んでいるからだろうな。
「そろそろ頃合いだな」
グレイとセレナが家庭教師になって1ヶ月ほど経った頃。俺は荒野に連れて行かれた。
少し離れた場所に洞窟があって、良く見ると見張り役のガラの悪い男2人が入口に潜んでいる。
「あの洞窟にいるのは最近噂になってる盗賊団だ。つい最近も隊商を襲って皆殺しにした。討伐依頼が出ているから殺しても問題ないぜ」
グレイとセレナが真剣な顔で俺を見る。
「アリウス。冒険者になるなら、人を殺せないと生き残れないぜ。5歳には酷な話だが、おまえは只のガキじゃねえからな。この1ヶ月、おまえを見ていて良い頃合いだと判断したんだよ」
「ダリウスとレイナの許可は貰っているけど、無理しなくても良いのよ。アリウスには貴族として生きる道もあるんだから、強制するつもりはないわ」
前世の俺は勿論人を殺したことなんてないし、ここはゲームの世界だけど俺にとってはリアルだ。
今の俺は5歳だけど、前世で死んだのは25歳だから精神年齢的には30歳。人を殺すことの意味は理解している。
悪人だから殺して良いだなんて、単純思考するほど馬鹿じゃない。そして俺の性格だと人を殺したら後悔するのは解っているけど……
「グレイさん、セレナさん。俺、やります」
この世界に転生した時点で覚悟は決めていた。俺は『
盗賊たちには悪いけど、俺の踏み台になって貰う。
洞窟の中に
『
初めて人を殺した感触。だけど今は何も考えないことにする。
洞窟の中には100人近い盗賊がいた。俺は単体攻撃魔法と剣で盗賊たちを確実に仕留めていく。
金属鎧を着た用心棒のような奴が何人かいたけど大半はせいぜい革鎧で、武器もクロスボウを使う奴が多少いたけど、あとは鉈やショートソードばかりだった。
もっと強い魔物たちを倒して来たから戦力的な問題はない。
他に誰も動く者がいなくなって、盗賊を全滅させたことに気づく。懸念していた攫われた人はいなかったから、結果論で言えば範囲攻撃魔法を使った方が楽だった。
だけどそんなことよりも、今も残っている命を奪った感触……人を殺してしまったという後悔は、自分で決めたことだから受け止めるしかない。
戦いが終わっても、グレイとセレナは何も言わなかった。自分で考えて答えを出せってことだな。
暫くは眠れない夜が続きそうだけど……俺は必ず乗り越えてみせる。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 5歳
レベル:42
HP:434
MP:585
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