第27話 折り紙
片付けを終えると、箱の中からたくさんの折り紙が発見された。
その数は90ほど。
「なんだって母ちゃんはこんなものを送ってきたんだか……」
離島に住む母からのプレゼントだった。
確かに俺は器用な方ではある。技術系は得意で、半田ごてでイヤホンを直したり、木材でDIYも行ったりする。
だからか、それともまだ子どもと思われているのか。あるいはその両方か。
ともかく、俺を子ども扱いする母に呆れたような嘆息が漏れる。
「折り紙?」
トイレから戻ってきた美羽がひょこっと顔を覗かせる。
折り紙の一つを手にすると、折り始める。
「俺も折ってみるか……」
折り紙と苦戦すること数分。
「できた」
美羽がそう言い、ハートの折り紙ができているではないか。
さすが美羽。可愛らしい。
「俺はつるを折った。けど……」
ちょっと
「ネットで折り方を調べるか」
パソコンを起動させると、顔認証をし、ログインする。
「いいね。わたしも調べてみる」
そう言ってスマホに目を落とす美羽。
「じゃあ、難易度の高いやつで競うか?」
「言ったなぁ。負けないよ!」
難易度の高い折り紙ってなんだろう。
フェネックス、カブトムシ、青龍などなど。
「へぇ~。こんなものまであるんだな」
感心していると動画を再生しながら折り始める美羽。
隣で折っているのを見ながら、俺もカブトムシを折ってみる。
……がかなり難しい。それに折り紙の大きさが違う。
参考動画ではもっと大きな折り紙を使っているではないか。
まあできるだろう。
気楽な気持ちで取りかかること
「だー。わかんない」
「むむむ。わたしもリタイア」
俺たちにとってプロの折り紙職人はハードルが高かった。
「気ままに作ろうぜ?」
「うん。そっちの方が楽しめるね」
美羽が頷くと、俺はさっそく簡単な折り紙を探す。
カエルや手裏剣、新幹線を作る。
「男の子って新幹線好きだよね」
「待て。その発言には反論させていただく」
疑問符を浮かべる美羽。
「まず女性でも好きな人は多い。それに、俺はあんまり好きじゃない」
「え。自分で折ったのに?」
「ああ。作りやすいから作っただけだ」
ジト目を向けてくる美羽。
「ふーん。まあ、そういうことにしてあげる」
「いや、ホントだから……」
やばい、何を言っても信じなさそうな目をしている。
「どちらかと言えば、手裏剣の方が好きだな」
「わたしもそれ思った!」
そう言って手裏剣を手にする美羽。
忍者のマネをして、俺に手裏剣を投げてくる。
「えい。悪霊退散!」
「いや、美羽。悪霊だと祈祷師とか、巫女とかになるから!」
そういえばそんな小説もあったな。
〝巫女×巫女バスターズ ~ミラクル~〟だったか。
VRMMOだったか。バーチャルリアリティの多人数同時接続系のゲーム世界だったような気がする。
どちらにせよ、面白い作品であった。
「ん。じゃあ、忍者って何と戦うの?」
「そうだな……。悪い大名や藩主、かな?」
俺も知識が曖昧で、疑問符を浮かべる。
「やあ、悪い奴退散!」
そう言って再び手裏剣を投げてくる美羽。
「やったな!」
俺は手裏剣を投げ返すと美羽のちっぱいにぶつかる。
「やーらーれーたー」
独特のしゃべりをしながらバタンと後ろに倒れていく美羽。
ノリいいな!
「ほら、つかまれ」
俺は手を差しのばして、美羽が起き上がるのを待つ。
「えへへへ」
嬉しそうに目を細め、俺の手をとる美羽。
引き上げられると、座り直す。
「まったく、折り紙の手裏剣に負けるなよ」
「ん。でも面白かった」
「そっか」
美羽が満足なら言うことないな。
「ねぇねぇ。折り紙で刀とか作れないかな?」
「お。いいね。調べてみる」
パソコンを操作して『折り紙 刀』で調べてみる。
「おお!
「うん!」
WeTubeは世界最大の動画配信サービスだ。
そこに折り紙による刀の作り方も投稿されている。
俺と美羽はそれを作り始める。
これが意外と難しくて骨の折れる作業だった。
作り終えると、美羽はぶんぶんとふってみる。
「ん。軽くていい。チャンバラにはもってこい」
「いや戦うために作ったのかよ」
「そうだよ。さあ大輝、一緒に戦おう!」
そう言って刀を構える美羽。
「たく、しょうがないなー」
俺も構えると、刀同士がぶつかり合う。
「やあ!」
剣道をやっているものなら、型がなっていないと言われそうな格好で俺たちは切り結んだ。
ぶつかり合う刀。
その刀身がぐねっと曲がる。
「ああ。わたしの
「名前つけていたのかよ。まあ、折り紙だもんな。こんなもんか」
折れた刀を見て、俺は嘆息する。
「むぅ。なら今度は紙ヒコーキで勝負だ」
「……ほう。折り紙委員会、ヒコーキ部門の俺にかなうかな?」
まあ、嘘っぱちなんだけど。
「その栄誉、わたしが引き継ぐ!」
そう宣言し、俺と美羽は最高の紙ヒコーキを作り始める。
先端は鋭く、揚力を生み出す翼は広く、そしてスマートな作りの俺のヒコーキ。
やぼったい印象を受ける四角い形の美羽のヒコーキ。
さて、どちらが飛ぶか。
部屋と通路をつなぐドアを開放し、おおよそ20mほどの道ができる。
「いくぞ。美羽」
「うん。わたしが勝つ!」
意気込みはよし。
俺と美羽は同時に投げる。
と、美羽のヒコーキはぐるんと回転し、美羽のもとに帰ってくる。
「うそー!」
俺のヒコーキというと、真っ直ぐに飛び、廊下にさしかかる辺りで急に失速、墜落する。
「まあ、俺としては頑張ったほうかな。どうだ美羽?」
「さ、さぁて。わたし、フェニックスを作らないと!」
先ほど投げ出していたフェネックスの続きを折り始める美羽。
「おい。負けを認めないのか?」
「なんのこと? わたし、わからない」
片言になっている美羽を
「ま、いいけどさ……」
少し歯切れの悪い答えになってしまったが、まあしょうがない。
俺も諦めて投げ出したカブトムシの制作に移りかかる。
でも動画だけでも四時間あるんだよなー。これ、今日中に終わるのか?
そんなことを思いながら
折り紙ってこんなに難しいっけ?
いやいや、まさかな……。
というか、プロって書かれているけど、折り紙にプロってあるのか?
俺はいろんな疑問を思い浮かべながら折り続ける。
一時間を回ったところで俺は動画を止める。
「いや、これ無理だろ……」
まだまだ続きはある。それに今の段階でカブトムシと断言できるだけの出来にはなっていない。
「ん。頑張って作ろうよ」
美羽の作っているフェネックスはヨレヨレだがだいぶ形になってきている。
「俺もフェネックスにすれば良かった」
「なんで?」
「楽そうだし。俺の好きな伝説上の生き物だし」
そう言いながらちまちまとカブトムシの続きを再開する。
「フェネックス……。あーガ〇ダムに出てきているものね」
「ああ。五感以外の何か。『わたしのたった一つの望み。可能性の獣』」
そう言い終えると、俺は身震いする。
「うん。あれは良かった」
「だよね。感動した」
うんうんと赤べこのように頷く俺。
五感以外の何かがあるとすれば、それは〝心〟だろう。他者と向き合い、響き合う何か。
それが心。
目には見えないが、確かに存在する何か。
こうして美羽と向き合うとドキドキする――その本質。
俺はこんなにも響き合えている。それだけで幸せなんだと再認識する。
何もないのが当たり前。それなのに、建物があり、人がいて、食べ物がある。
こんな幸福はないだろう。
「美羽。俺、幸せ者だ」
「ん。わたしも」
フェネックスが完成する頃には隣り合っていた俺と美羽は幸せを噛みしめていた。
美羽の温もりを感じた。
ほのかに香るミルクのような甘い匂い。
多幸感に溢れていた。
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