第15話 宝探しゲーム
「うーん!」
美羽が伸びをしていると身体を動かす。
「少し動かない?」
「そうか。どうせなら動かすゲームでもするか」
俺は立ち上がり、
昨日コンビニで買っておいた
「二つの付箋に同じ番号を書いて。そしてお菓子に貼るんだ」
「? どういうゲーム?」
「宝探しゲームだ。同じ番号で景品がもらえる」
このお菓子たちは昨日、美羽がお家デートすると聞き用意したものだ。
「ん。じゃあ、片方はこの部屋に隠すんだね?」
「そうだ。飲み込みが早くて助かるよ」
付箋に1と書く。それを二枚用意し、片方をお菓子に、片方を隠す。
と言った感じで宝を隠すゲームだ。
俺の借りている部屋は狭い。ベッドのある居住スペース、隣の
お宝を隠す人はまずベッドのあるスペースで隠す。もう一人は廊下で待つ。
「先にどっちをやりたい? 隠す方? それとも探す方?」
「うーん。じゃあ、隠す方!」
嬉しそうにする美羽。
「あー。ちなみに予備の布団の間とかはなしな」
「ん。どこまでにする? 蓋や戸がないところに限定する?」
「そうだな。そうしよう」
戸や蓋の中に隠されたら、絶対に見つけられない自信がある。
だから見える範囲内でのお宝探しにした。
俺は廊下に出ると、美羽が5番まで隠すを待った。
待つこと数分。
「いいよ」
美羽の声でリビングに入る。
「どーこだ?」
意地の悪い笑みを浮かべる美羽。
こんな顔もするんだな、と思い、周囲に目を配らせる
ベッドに机、座布団、テレビ、パソコン、パソコン用の机と椅子。
それに本棚など。押し入れはエヌジーだから。
ベッドの下を見やる。
「お!」
「ありゃ、さっそく見つけちゃったかー」
残念そうに呟く美羽。
ベッドの下に黄色い付箋を見つける。
手でとってみると、そこには2の文字が浮かんでいる。
「ふふ。でもベッドの下にエッチい本はないんだね」
「あ、当たり前だろ!? 俺はまだ高校生なんだぞ?」
「高校生だから、こそだよ。みんな持っているって」
頭が痛くなるようにこめかみに指を当てる。
「誰に聞いたんだ?」
「え。
あー。あの子か。なるほどな。
得心いったようにうんうんと頷くと、美羽は不思議そうに首を傾げる。
「で、だ。二枚目はどこだ?」
俺は首を巡らせ、辺りを見渡す。
座布団の裏をめくり出す俺。
「そこにはないよー」
美羽がクスクスと笑いながら、アドバイスを告げる。
「じゃあ。ここかな?」
俺はテレビの裏を見る。そこに付箋があるではないか!
「おお。見つけた!」
最初ほどの驚きはないものの、嬉しいことに変わりない。
「二つ目、ゲット~」
「ふふ。けっこう面白いものね。宝探しゲーム」
「だろ? やってみて良かった」
俺は続けて三つ目を見つけて、四つ目をパソコンの裏で見つける。
最後の一つ。
「ふむ。最後の一つか。なかなか見つからないな……」
ちょっと焦りが見えてきた。
色々と探しているが見つからないのだ。
「ひ、ヒントをくれ。美羽」
「いいわよ。ここより上にあるわ」
そう言って肩くらいまで手を上げる美羽。
上?
見上げるとそこには蛍光灯があった。その隙間から黄色い何かが見える。
「!? あそこか!」
俺は背伸びをし、蛍光灯の間にあった付箋をとる。
「おお。これで全部か……!」
「おめでとう。大輝」
「ありがと。楽しかったよ」
パチパチと拍手をする美羽。
嬉しくて、ついくしくしと頭を掻く俺。
お菓子は……と。
5番目まで。
美味しい棒が三つに蒲焼きが一つ、そして大きなチョコレート。
「おお。けっこうな景品になったな」
「……いいなー」
羨ましそうに呟く美羽。
「ほら。次は美羽の番なんだから」
「もう、せっかちなんだから」
美羽は少しほっぺを膨らませ、廊下に出る。
俺は貼り付ける場所を考える。
どこに隠せば盛り上がるのか。どこなら見つけやすいのか。
少なくとも二つは見つけやすいところに置くか。
例えばスピーカの裏とか。
あとは本棚の上側。
最後はやはりあそこだな。
俺は扉を開けて後ろ向きになっていた美羽の背中を軽く叩く。
「ちょっ。なに?」
「さあ、美羽の番だよ。楽しもう」
優しく声をかけて上げると、美羽はすごすごとリビングに入っていく。
「さて。どこにあるのかな?」
美羽は髪をくるくるといじりながら、周りを見渡す。
「あ。あった」
椅子の裏にある付箋を見つけると嬉しそうに駆け寄る美羽。
付箋を手にすると、次にテレビの裏を探す。
「うーん。見つからないなー」
スピーカーの裏を見やると、付箋を見つける美羽。
「あった! あったよ! 大輝!」
嬉しそうに飛び跳ねる美羽。
可愛い。
ハイタッチを求める美羽。
応じるようにハイタッチをする。
なんだかこんなに喜んでもらえるとは思わなかった。
「他はどこにあるのかな~♪」
テンション高めで探すのを再開する美羽。
「次はどこかな~♪」
この宝探しゲーム。やってみて正解だった。
俺はひしっと涙を堪えながら、美羽の様子を見守る。
「やったー! 見つけた!」
喜色満面と言った様子の美羽。
そんなこんなで最後の一つになる。
美羽は探し回るが、なかなか見つからない。美羽のテンションも落ちてきたとき、俺はアドバイスを出すことにした。
「ヒントは動くものだよ」
「動くもの?」
美羽はネコのチャオを見やる。調べる。そのあとはロボット掃除機を探る。
「もう一つのヒントは近いようで遠い存在かな?」
じーっと見つめてくる美羽。
俺の身体をくすぐり出す。
「え。ちょ、ちょっと! くすぐったいって」
笑いながらやめてもらいたくお願いする。
「お、俺じゃないって!」
「むぅ。だとしたら、あ!」
俺をくすぐる手を止めずに、美羽はこれまでの行動を振り返る。
「じゃあ、わたしかぁ」
そう言って背中に手を伸ばす美羽。
始めたときに背中を叩いたのはこれを貼り付けるためだったのだ。
「もう。やっと見つけたよ、7番くん」
美羽は嬉しそうに付箋をそろえる。
「これで全部だね!」
「ああ。でも近いようで遠い存在で、俺か?」
疑問に思ったのだ。
俺はこんなにも近しい存在なのに。
「可笑しいかな?」
「そんなことはないけど、そんなに距離感を持っているのか?」
ふるふると軽く首を横に振る美羽。
「だって、触っていても一緒にはなれないもの。どうしても食い違いも起きるし」
「それは……そうだけど……」
確かに俺は美羽じゃない。美羽は俺じゃない。
でも遠い存在なんて思わない。
すれ違いも、きっとわかり合える。
そんな素敵な関係なのに、ちょっと切なさを感じた。
「俺は、美羽のことをもっと知りたい」
「うん。わたしも」
そっか。知りたいと思っているうちはまだ遠いのか。
もっと美羽を知って仲良くなりたい。わかり合いたい。
「わかり合って、一緒に寄り添いたい」
「うん」
短く返す美羽は嬉しそうにはにかむ。
「あ。景品!」
シリアスな空気をぶち壊し、美羽は机に並べた景品を見やる。
「とっていってもいい?」
「もちろん!」
そんなマイペースな彼女にクスッと笑いが浮かんでくる。
「なんの心配をしているんだよ。ばか」
やんわりと言うと、美羽はふくれっ面になる。
「もう。だって欲しいじゃない。景品」
「それもそうか。あとで食べよう」
俺はそう言って美羽の頭を撫でる。
嬉しそうに目を細め、ネコのように求めてくる。
撫でられる方の気分はどうなのだろう?
人によっては子ども扱いされていると思い、嫌がると聞いた。だが美羽は違うらしい。これからは頭を撫でることもしよう。
彼女の新たな発見に内心喜ぶ俺だった。
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