第14話 ネット検索(動画)

 スマホを動かすと、新着メッセにお薦めの動画が流れてくる。

 WeTubeウィチューブ

 人気にんき動画配信サービスで今の世の中で最も有名だろう。

 その中でネコの動画が再生される。

「お。ワッチャのネコが見えるぞ」

「本当?」

 美羽は気になり、俺のスマホをのぞき込む。

 隣に抱きつくようにして見る美羽。

 ミルクのような甘い香りと、柔らかく、ほっそりとした身体が触れあう。

 筋肉質の俺とは良い意味で違う。

 これが女の子かーという意見を持ちながら、俺はスマホを見やすい位置に持っていく。

 ネコが猫じゃらしと遊ぶのを見たあと、俺は訊ねる。

「他に見たい動画、ある?」

「えー。じゃあ、アニメ見ようよ」

 アニメか。

 そこまで詳しくないけど、どんなのがあるのだろう?

 気になり、検索にかける。

「あ。そっちじゃなくてEアニメストアとか」

「そっちね。じゃあ、どれがいい?」

「お薦めはグエ☆キ〇ンとか? あとはスパイストーリーとか?」

 薦められるがままに動画を検索する。

 と、出てきたのは1話24分、全13話のアニメだった。

「どれがいい?」

「じゃあ、世界掌握系ハッカーで」

「分かった」

 再生ボタンを押すと、動画が流れ始める。

 ほぼ全ての機械がインターネットにつながり、様々なサービスが受けられるようになった世界で、一人のハッカーが世界を揺るがす。

 情報を売ることで生活していたハッカーは、世界に翻弄されていく――。

 マイナーで、詰めの甘さがあるが、それでも面白い。B級映画と言ったところか。

 さすが美羽だ。こんなものまでチャックしているとは。

 難しい用語が多く、途中で頭がこんがらがってきたが、楽しめた。

 見終わると、美羽が興奮した様子でこの作品の魅力を語り出す。

 頭脳戦と、どんでん返しが面白く、特に人権を放棄するなどという蛮行が面白いと。

 一話だけを見たから分からないこともあるが、原作者の思いが伝わってくる。

 話をしているうちに「なるほどな」と納得させられる場面があると気づき、頷く。

「もっとノンストレスなものはないか?」

「それなら〝グエ☆キャ〇〟。面白いよ」

 美羽の言葉につられ、検索をする。

 どうやら何人かのキャラがキャンプをする――というお話。

 ただただ、尊い姿が見えるだけのゆるい感覚。

 それが面白くて、俺は見入る。

「面白いな、これ」

「でしょ? たまにはアニメも見なよ」

「そうする。でも美羽はあまりドラマは見ないよな?」

 俺は不思議そうに呟く。

「ええ。だって生々しいんだもの」

「そんなもんかね?」

「そんなもんだ」

 動画を見終わる頃にはネコのチャオが起きてきて、俺の足下に頭をこすりつけてくる。

「やっぱり、わたしの方にはこないのね」

 寂しそうに言う美羽。

 チャオは美羽には懐いていないようだ。

 俺はチャオを抱きかかえたまま、動画を検索する。

「そうだ。なまものがかりの曲でも流そうか?」

「うん。いいね」

 なまものがかりのミュージックビデオを流す。

 柔らかく、音圧のある声音。聞いている者を癒やす力と魅入らせる力がある。

 だからプロになれたのだろう。

 口ずさむ美羽は、本当は歌手になりたかったのかもしれない。

 不思議と人を癒やす力がある。俺にはそう思える。

「歌、好きだものな。美羽」

「うん。好き」

 美羽の好きな歌はあまり知らないが、心を持っていく力がある。

「でも大輝もうまいよ?」

 何度か行っているカラオケで聞いているから言えたこと。

「そ、そうかな? 俺はそんなにうまくないと思っていたのだが」

「うまいよ。でもちょっと真面目すぎ。少しくらい自分のペースで歌えばいいのに。って思うよ」

「そうなのか……」

 今度から気をつけてみよう。

 いつの間にかネコの動画に映っているスマホ。

 俺は美羽と一緒にネコを見つめる。

「大輝のお薦めはある?」

「ああ。俺は男の子向けなんだが……ガン〇ムだな。このシリーズは外せない」

「そう、なら見てみよう、ね?」

 さらりと髪を流して見せる笑み。

「お、おう」

 ドギマギとした思いをしながら頷く俺。

 心臓がドキドキしている。

 やっぱり美羽は色っぽさもある。

 長い髪が俺の神経を刺激する。

 綺麗な漆黒の髪。なんだかえっちい気がする。

 サファイヤのような目はくりくりとして可愛い。

「けっこうグロいシーンもあるがいいか?」

 俺はガ〇ダムを薦めるときは必ずそうことわりをいれている。

 でもそれでも見てくれる人がいるのは嬉しい。

 少し、俺の内側を見てもらえているような気がする。

 ガンダ〇を再生すると、美羽はじっーと見つめる。

 戦争ものであり、人生観が変わる――そんな印象を持っているが、美羽にはどう映るのか。

 不安がありつつも美羽は興味深そうに見つめているではないか。

 横合いに見える美羽の表情が喜怒哀楽を表し、意外と表情豊かだなと思う。

 高校ではクールで表情もあまり変えないというのに。

 でもそれだけ、俺を許している証なのだろう。

 それがたまらなく愛おしい。

 愛らしい。

 そんな彼女を幸せにできるのだろうか?

 いやしなくては。

 まずはいい大学に入り、いい就職先を見つける。

 幸いにも勉強は嫌いじゃない。得意な方だ。

 完璧超人な美羽はいい成績を納めている。

 二人で大学に通える。それもまた嬉しいことではある。

 進路が同じになるとは限らないが……。

 〇ンダムを見終わると、美羽はため息を漏らす。

「なんだかすごいね」

「ああ」

 動画の感想だと知ると、俺はなんだかそわそわしてしまう。

「あの……」「うんと……」

 二人の声が重なる。

「あ。レディーファーストで」

「ふふ。ガン〇ム、面白かったよ。ありがとう」

 美羽は嬉しそうに微笑む。

「で、大輝は何が言いたかったの?」

「あ、いや。……その、進路、どうするつもり?」

 美羽はおとがいに指を当てて思案し、ためらう。

「大輝は?」

「その聞き方はずるいだろ……」


 少し間が空いてから俺は答える。

「俺は私立亜素日体あそびたい大学に行く。そこで勉強していい就職先を見つける」

「え。亜素日体あそびたいってかなりの名門校じゃん。就職率もいいって聞くし」

 美羽は気分屋なところがある。普段はかなり好成績をとっているのだが、気を抜くと平気で赤点をとる。

 俺も好成績をとってはいるが私立亜素日体あそびたい大学は偏差値が75くらいある。

「そうなんだよ。ただ今の成績だとギリギリなんだよな……」

 俺は苦笑を浮かべて、チャオを撫でる。

「そうだね。じゃあ、今度またみんなで勉強しよ?」

「俺が教える側なんだが……」

 いつものメンバーなら俺が教える側になる。つまりはもっと勉強ができる奴がいないのだ。

 でも美羽なら……。

「美羽に教えてもらおうかな?」

「ふーん。わたしは無理だと思うよ?」

「なぜ?」

 美羽は逡巡し、やがて話す。

「例えば、リトマス紙。青がアルカリだとすると、その反対は赤の酸性って覚えて、赤いリトマス紙は赤の酸性、青いリトマス紙はアルカリ性って紐付けて覚えていくの」

 ん!? なんだかとてもわかりにくいぞ。

「ええっと。どういう覚え方しているのさ!?」

「そうでしょう? プランクトンが浮かぶなら、ネクトンは泳ぐ、ベントスなら海底を這う。浮かぶならミドリムシ、泳ぐのはマグロ、海底はヒラメといったように覚えていくの」

 ははは。なんだかレベルが違うような気がする。

「そんなに難しく覚えているのか。俺には無理そうだな」

「あと、映像で覚えているわ。文字も全部映像で覚えるの」

 やばい。美羽の底を見誤っていた。

 これでは他人に教えられないわけだ。

 難しすぎる。

「それでよく勉強できるな……」

 率直な意見が漏れる。

「勉強は苦手だけど、できるんだな」

「……話を戻すが、美羽はどこにいくんだ? 進路」

「ふふ。わたしも一緒の大学にするよ。もっと大輝と一緒にいたいもの」

 してやったりと言った顔で笑みを浮かべる美羽がいた。

 その言葉を聞いて一安心する俺。

 やっぱり俺には余る彼女のような気がする。

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