第13話 ファッション雑誌
美羽が持ってきた雑誌を広げていると、暇な俺は横目でジトッと見つめる。
美羽が取り分けて集中して読んでいたのはファッション雑誌。
「これ可愛い」
美羽が真ん中あたりで紹介されているコーデを見て吐息を漏らす。
「どれどれ?」
俺は気になって後ろから覗き込む。
地雷コーデ。
地雷コーデとはいわゆるメンヘラの着ていそうな暗く可愛いファッションのコーデだ。
ピンクのスカートと黒のブラウスは結構似合っていると思う。だがそれもモデルの良さが垣間見えるからであり、どの
「まあ、美羽ならこんなコーデも似合うんじゃないか?」
今のカジュアルなコーデも似合っているし。
「そ、そう?」
満更でもない様子の美羽は嬉しそうに目を細める。
褒められて嫌な人はいないのだ。
次のページに進むと、蛇が巻き付いただけのような洋服があり、俺は仰天する。
「へ。これのどこがファッション!?」
そう言ってしまうほどには刺激的な衣服であった。
「あー。たまにある奇抜なファッションね」
「奇抜……」
奇抜という言葉を辞書で引いて欲しい。
奇抜とは「思いもよらぬほど風変わりな様」のこと。
いや、奇抜であっているのか。思いもよらなかったし。
よく見ると、雑誌の右下の端の方にQRコードがある。
「そう言えば……」
何か思い出した美羽がスマホを取り出し始める。そのQRコードを読み取る。
「こんなアプリがあるんだけど」
それはカメラアプリのように見えた。
「こうすると……。えい」
俺の写真を撮ると、美羽は何やら操作を始める。
「見て見て」
テンションの高い美羽はスマホの画面を俺に向ける。
そこに映っていたのは俺がスーツ姿になっている……だが。
「こら画像かよ」
なんか雑にくっついているように思い、そう口ずさむ。
「じゃあ、美羽もやってみるか」
俺はそのアプリを落とし、美羽にカメラを向ける。
「ちょっと。わたしはいいって」
「おい。俺で遊んだんだから、今度はお前の番だ」
そう言い切り、俺はカメラで顔写真を撮る。
そしていろんな衣服を着せてみせる。
「ほら。消して」
美羽は後ろからくっついてくるが、消す気はない。
甘いいい香りがする美羽だが、こら画像はとてもよく似合っていて、まるで本当に着ているかのようだ。
さすが美羽。なんでも絵になるな。
「これなんかどうだ?」
俺は薄緑のワンピースを着せてみせる。
「えー。それよりも、もっと大人しい方がいい」
「そうか? 俺はこっちも似合うと思うが」
キャラTにジーンズのショートパンツを選ぶ。
「もう。大輝はなんでもいいでしょ?」
「そんなことはない。美羽は顔がいいからなんでも似合うんだって」
「もう。おだてても何も出ないわよ?」
本音で言っているのに、そう返されるとは。
次を操作し、グッと息を呑む。
「どうしたの? 見せて?」
気になった美羽は俺のスマホを見ようとしてくる。
「いや、これは早い」
「ちょっと! どんなエロいのを想像しているのよ!」
美羽はかぁあと赤くなる。
「ち、違う」
スマホの画面にはウエディングドレスを着た美羽が映っている。
それを見て、気恥ずかしくなった俺は美羽に見せるのを避けていたが、とうとう美羽に捕まってしまう。
「あ」
「なあ? だから早いって」
「もう。もう。もう! 早いってことは意識しているんじゃん」
言葉にならない恥じらいをブツブツと言う美羽。
「あー」
しまった。
早いってことはいずれそうなることを告げているようなものだ。
思わずプロポーズみたいな形になったが、美羽は気にしていない。
「もう」
熱くなった顔をパタパタと両手で扇ぐ美羽。
気にして、いないよな? たぶん。
まあ、美羽と結婚できるのならいいか。
俺はこいつを一生をかけて幸せにする。そのためならなんでもする。
俺の生涯一人の恋人だ。大事にして文句はあるまい。
「な、なんで真剣な顔になるのよ。まるで本当に……」
美羽がうれし恥ずかしそうに目を瞬く。
「あー。なんでもない」
ニカッと笑うと、肘で脇腹をぐりぐりと押してくる美羽。
「もう。薄情しちゃいなよ」
「なんでもないって。まだ早いんだ」
そういずれは結婚してもらう。
なんせ、俺は美羽以外に考えられないから。
「それよりもファッション雑誌見ようぜ?」
「むぅ。引っかかる言い方だな……」
美羽はファッション雑誌を取り出し、見せてくる。
「ほら。このフリルのついたものとか、似合いそうじゃないか?」
「フリルかー。可愛いもんね」
先ほどのアプリでそれらしきものを着せてみせる。
うん。やっぱり似合う。
ファッション雑誌の内容とリンクしてあり、自分がその服を着たように演出する。そして気になればそのまま、そのアプリで買い物ができるという優れたアプリだった。
「これ、買っちゃおうかな?」
先ほど話題にしたフリルのついた服をカートに入れる美羽。
「やっぱり買うんじゃないか」
「もう。分かっていないなー」
俺は分かっていないらしい。
まあ、彼女ができたのも初めてだし、女心というのが分かっていないのかもしれない。
「ごめん。でも、ほら。こっちの地雷系もいいんじゃないか?」
そうして黒いミニスカにピンクのブラウスを重ねたコーデを見せる。
「むむ。それも買う」
「こっちのゴスロリもいいよな~」
ゴスロリとはゴシック・アンド・ロリータのことを示す。詳しくは知らないが、フリルやゴテゴテしたロリータっぽい衣装が多い気がする。
「ゴスロリは似合わないでしょ?」
美羽は呆れたかのように呟く。
「えー。そうかな? この辺りならいけるんじゃないか?」
俺はアプリを操作し、ゴスロリを着せて見せる。
ゴスロリの中でも落ち着いた感じの少し大人っぽいものを選ぶ。
「まあ、これくらいなら……」
押しに弱いのか、美羽はすぐに受け入れてくれる。
「可愛いと思うよ」
「そ、そう? ならいいのだけど……」
ポチポチと衣服を購入する美羽。明後日には到着するとわかり、少しそわそわした様子を見せる美羽。
「届いたら、大輝のために着てみるね」
「ああ。そうだな」
まあ、半分は俺が見たいからなんだよな。
そう思うと美羽の発言は彼氏思いの優しい彼女さんだな。
俺には優しい美羽だものな。
うんうんと頷いていると美羽は怪訝な顔を見せる。
「なになに? どうしたの?」
「いや、俺の彼女は可愛いなって思って」
「ふぇっ!?」
いきなり可愛いと言われて言葉に
そんな顔も可愛い。
「もう、もう。もう!」
俺の脇腹を肘でぐりぐりする美羽。
恥ずかしさのあまり、行動で示すようだ。
「ははは。やっぱり告白しておいて良かったぁ~」
「もう。あのときはびっくりしたんだから」
「だよな。俺も自分の行動にびっくりだよ」
桜の木の下で美羽に告白したことを思い出した。
『好きです。付き合ってください』
そんなテンプレみたいな言葉しか思いつかなかったが、それでも『嬉しい』と言ってくれた美羽を思い出す。
「美羽ってば、告白されるのには慣れているはずなのに」
完璧超人でありながら、容姿にも優れている彼女。
もちろん、モテモテであり、みんなから期待される人だった。
その上、表向きクールな性格をしているのでみんなからは〝蒼き令嬢〟と呼ばれるほどだった。
そんな彼女に当たって砕けろ精神で告白したのだ。それもありきたりな言葉で。
にも関わらず、彼女は涙を浮かべて嬉しいと言ったのだ。
これが小躍りをしなくてどうする。
俺は最高の彼女を得たのだ。
そんな説明を彼女にすると、恥ずかしそうに
「確かに告白されてはいたけど……」
自分が〝蒼き令嬢〟と呼ばれていることは知らなかったらしい。
恥じらう彼女はまた一段と可愛い。
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