第10話 映画
「暇だね」
「ああ。何する?」
俺と美羽は暇な時間を潰すことを考えているが、何をしていいのか困っていた。
スマホをいじりながら、二人でしたいことを考える。
「あ、この映画は配信されていたんだ」
「どれどれ?」
美羽が見つけた映画を見やると、そこには【エルきゃん▲】というアニメ映画がある。社会的な影響も与えたキャンプものだ。今のキャンプブームの火付け役でもある。それに乗っかるような形でンガダムのワンシーンが切り取られ、さらにブームが加速したのだ。
「へぇ~。俺も興味あるな」
「じゃあ、映画鑑賞を始めよう!」
そう言って立ち上がる美羽。
パソコンの前に立つと、映像配信サービスのサイトを開く。パソコンから85インチのテレビにHDMIケーブルでつなぐ。
4Kのテレビなら文句はあるまい。
……って言って配信映像が4K対応じゃないけどね。
そんなことを思いながら、映像をテレビに映す。
「よし。見る準備はできたか?」
「ちょっと待って」
我が物顔で台所に向かう美羽。
その行動に疑問符を浮かべながらソファの上のぬいぐるみを見やる。
「お前たちも見るか?」
「見るよ~」
美羽に言ったんじゃないが、それでもいいや。
しばらくして美羽はポップコーンとコーラを持ってきて、ソファの前にあるガラス机に乗せる。
「準備できたよ!」
「なるほど。それを用意していたのか」
さすが美羽である。準備万端だ。
ポップコーンを食べながら映画を再生する。
始めはエルというキャラとユメというキャラが出会い、二人でキャンプするところが映し出されていた。
突然の母の死。
逃避行するようにキャンプをするエル。そこに寄り添うユメ。
ユメに甘え、嗚咽を漏らすエル。
悲しみを洗い流すように泣き続けるエル。ユメが愛情を持って接するうちに、エルが恋を知る。
だが、ユメは学校では有名人で、学校一の美少女だった。実際にアイドルをやっているほどの有名人だった。
そんなユメとの会話をひっそりと楽しみながらキャンプで仲良くなっていく二人。
しだいにお互いの距離は近づくが、そこでパパラッチに、学校にバレてしまう。
二人の愛は引き裂かれ、キャンプにすら行けない状態に。
悲しみが心を埋め尽くす。
ネットでは毎日のように炎上し、俺の電話番号や家まで特定され、公開されていた。
そんなおり、ユメのプロデューサーがやってきて、一枚の紙を届けてくれた。
そこにはユメの居場所が書かれており、俺はこっそりとその事務所に向かう。
ユメとエルは久々に出会い強く抱きしめ合う。
二人で一緒に生きることを約束し、プロデューサーがやれやれと言った様子で二人の想いを尊重するように告げる。
その覚悟を示すため、エルとユメは記者会見を行う。
日本一のアイドルであったユメはその想いを告げる。
エルへの嫌がらせもあったけど、二人はそれを乗り越え、祝福される。
そんな話。
それを感動しながら観ている美羽と俺。
映像が終わると、ひしっと抱き合う俺と美羽。
「この時間を大切にしよう」
「うん……!」
美羽はコクリと頷くと、ぎゅっと俺を抱きしめ、頭を撫でる。
「大輝くんはわたしのもの」
「いや、俺は誰のものでもないが……」
「そういう意味じゃない」
分かっているが、それは気恥ずかしいので誤魔化そうとした。
「映画、楽しいね」
「ああ」
「また。観ようね」
「分かった」
短い返答に、愛情を感じながらも、俺と美羽はお互いのぬくもりに癒やされるのだった。
「わたしがアイドルだったらどうする?」
「応援するよ」
ジト目を向けてくる美羽。
「本当にぃ~?」
「あー。悪い。できればやめて欲しいと思う。だって、それだけ俺と一緒にいられないだろ?」
「独占欲が強いんだね」
満足げにクスクスと笑う美羽。
「う、うるさいな」
「いいの。大輝くんは素直な方が素敵」
参ったように俺は頭を抱える。
「アイドルじゃなくて、残念だった?」
「そんなことはない。でも美羽は学校ではアイドルだろ?」
目をぱちくりさせる美羽。
「え。どういうこと?」
「だってモテモテじゃん。俺なんかさっぱりだよ」
あまり意識していなかったのか、首を傾げる美羽。
「そ、そんなにモテていないよ?」
「じゃあ、先週の月曜の告白は?」
「あー。そんな人もいたっけ……。でもわたしが好きなのは大輝くんだけだよ」
その言葉に胸を貫かれるような想いでドキリとする。心臓が跳ねた。
「ほら。モテているじゃん」
「そうかも。でもわたしは大輝くんに好かれたいだけなのに」
美羽は悲しげに呟く。
「浮気が心配になるほどにな」
「そんなことしないよ! わたしは大輝くんのためだけに生きるんだから」
重いが、それが俺への愛だと知っている。正直に言えば嬉しい。
でも、こんな俺をいつか愛想を尽かすこともあるんじゃないかと思っている。
「むぅ。分かっていないようね」
「だって美羽は人当たりも良いし、可愛いし」
「そ、そんなこと言われても……!」
照れくさそうに呟く美羽。
「そう言う大輝くんだってモテモテだよ?」
「そんなまっさか!」
だって一度も告白されたことはないんだぞ。
「だって、わたしと付き合っているから、みんな手を出さないだけだよ」
「……そう、なのか?」
少し自信がなくなってきた。いや、この場合は逆か?
とにもかくにも、俺はモテるのか?
「だって
「いや待て。最後は男だよな!?」
「今どき、同性とか気にしないんだよ?」
「ま、まさか……」
俺が知らないうちに世界はそうなっていたのか?
「彗星ってお堅いのね」
「それが言いたかっただけじゃないか?」
俺はジト目を向けると、そっと目をそらす美羽。
「やっぱり! あいつが俺をそんな目で見るはずがない!」
だって大塚は女子を見ただけでスリーサイズと、胸のカップ数が分かるという変た……変人だ。異性に対する執着が異常で、俺と会話している途中でも、女子のことを目で追っているほどだ。
「むぅ。大塚くんはダメだったか……」
騙せなかったことに不服なのか、美羽は唇を尖らせる。
「ああ。大塚はこの間『
「何、その変態的視点」
目を細め、冷笑を浮かべる美羽。
部屋の気温が五度くらい下がったように感じる冷たい目。
その目にゾクゾクする俺は何か間違えているのだろうか。
ちなみに美羽はBカップ。俺はそのほどよい大きさが好きだが、それを伝えることは難しいだろう。
「男ってそんなもんよね。どうせ大きい方がいいんだ」
ブツブツと呪詛のように文句をたれる美羽。
「いや、俺は小さい方が好きだ」
「そんな慰めの言葉!」
苛立っている美羽に抱きつく俺。
「俺、昔に巨乳、というか奇乳のアニメを見てトラウマになっているんだ」
「そ、そうなの?」
貧乳はステータス。我々の業界ではご褒美である。
そう思っているのは俺だけじゃないはず。
「……てか。そんなアニメを見ているんだ?」
「あ……」
バレてしまった。
「ふーん。わたしに隠れて、ね……」
冷たい視線を浴びながら、俺は顔を背ける。
「いや、何を言っているんだ。俺はアニメを見ただけだ」
「巨乳のアニメ、ね……」
再び笑みを浮かべる美羽だが、その目は笑っていない。
怖い。
「いや、だってこの映画のヒロインも貧乳だったじゃないか!」
「!! それは、確かに!」
これはうまくいったらしい。
納得したのか、嬉しそうに目を細める美羽。
「もう。やだ。勘違いしちゃったじゃない」
男全員が巨乳好きじゃないと知ってもらえて、ホッと一息吐く。
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