第5話 テレビゲーム

「さて。洗濯物も終わったし、そろそろデートらしく遊ぼうか?」

「うん……」

 ちょっと逡巡した様子を見せる美羽。

「どうしたの?」

「うん。ちょっと掃除したいな、って思って」

「少し休んでからでいいんじゃないか?」

 真面目な彼女のことだ。やると言い出したらやるのだ。

 でも俺はそれに対して少し休むことを提案した。

 これが正しい解決方法なのだろう。後回しにするのも嫌かもだけど。

「うん。そう言うなら……」

 まだ心残りがあるように呟く美羽。

「さぁ。気持ちを切り替えるぞ」

 俺はテレビゲームを取り出すと、二人用のゲームを動かす。

「どれがいい?」

「協力プレイが出来る奴」

「ははは。争うのは嫌か」

「うん。大輝とは争いたくない」

 コクコクと赤べこのように頷く美羽。

 マインメイトという四角い箱を置いたり、加工するゲームを一緒にやり出す。自由度の高い作品で、ボスはいるが、これといった目標はない。

「じゃあ、二人で家を作ってどっちがいいか、勝負しよ?」

「いいね。負けた方が罰ゲームね」

「罰ゲーム?」

「この間、あまそんで買った世界一甘いお菓子・グラブジャムンを試食すること」

「なんで、そんなの買ったのよ……」

 呆れた声を上げる美羽。

「いや、挑戦してみようと思ったんだけど、一個食べるのに二日かかっちゃって」

「それで余っているんだね」

「そう。さすが心の理解者、美羽さま」

「それほどでもないけど。実際分からないこともあるし……」

 ブツブツと小さな声で応じる美羽。全部は聞き取れなかったけど、それでもいいと思えた。

 完全な理解者などいないのだから。


 さっそくゲームを始めると、俺と美羽は木こりから始める。このゲーム、木を切るのが一番始めにすることなのだ。

 ちなみに美羽も俺も経験者である。

 夜になる前に木材を集めると、地下に籠もる俺たち。自分たちで穴を空けて、地下への道を切り開く。その際に木製のツルハシを使い、石を切り出す。

 石で作ったツルハシでさらに地下深くへ。

 昏くなってきた頃、地下に大迷宮が広がっていた。

「ほらほら。下がれ、下がるんだよ!」

 美羽が悪乗りしたような口調で襲ってくるゾンビや骨の戦士、クモなどを対峙していく。石の剣でも十分じゅうぶんに戦えている美羽。

 その後ろで震え上がる俺。

 というか、戦いたくないから自分で地下を広げていたというのに。

 これでは本末転倒だ。

 大迷宮への道はブロックで閉ざそうと思っているが、美羽が前にいる限り、それも叶わない。

 というか、美羽さん性格変わっていない?

「ほらほら。さっさと倒れろ」

 三体のゾンビを相手に引き下がることもせずに倒していく。

「美羽。下がれ」

「は。この程度で? 嘘おっしゃい」

 バトルジャンキーなのかもしれないが、どうなのだろうか。

 このゲームをやるといつものことな気がする。

「まあ、こんな美羽も好きだけど」

「はっはぁっ。そうだろう!」

 いつもなら『もう!』と照れ隠しをするものだが。

 誇り高く舞う剣士がいた。

 格好良く空中からの斬撃を与える美羽。

 ゾンビを倒し終えると、俺がブロックで道を塞ぐ。

「俺はこっちで小麦と木を育てるよ」

 やはりゲームをやると性格が変わるらしい美羽。

 俺は地下を掘り進め、樹木と小麦を育てる。

 小麦は三つでパンにできる。貴重な食糧だ。

 それでHPたいりょくを回復できるのだ。戦いには必須だろう。

「うりゃ、うりゃうりゃ!」

 美羽は外に出て夜になった丘を歩いている。

 目の前に現れたゾンビを次々と倒していく。

「弱い。弱すぎる。このわたしを倒せるものはおらぬのか!」

 石の剣を構え、次々とモンスターを倒していく美羽。

 狂犬乱舞――という言葉がぴったりだと思った。そのくらい激しい戦いっぷりで、コントローラーが素早く動いている。

 そんな一面もあるなんて……。

「な、なんて素敵なんだ!」

 美羽は人を惹きつける力があるのだと思う。

「そうかい? じゃあついておいで!」

 本当に性格の変わる子だな。

「ひゃっはー! 汚物は消毒よ!」

「いやいや森に火を放つなよ」

 俺は後始末にかかる。

 いつの間にか朝になっていたが、木陰で休むゾンビは多い。だから火を放ったのかもしれない――が、それは貴重な木材、資源を失うことになる。

「地下で造林しているのだから大丈夫でしょ」

 どこか頑な言い分に俺はたじたじになり頬を掻く。

 確かに地下で造林しているので、ここの辺りの森はなくなってくれた方がいいのかもしれないけど……。

「それに整地も必要よね。お互い家の素材を集めなきゃだし」

「そこまで分かっていての計算か……」

 焼けて消滅した森に松明で明かりを灯していく。

 明るいところには敵キャラが出現することはない。

 それにしても、敵はほとんど美羽が片付けてくれたし。

 俺は地下に戻って食糧と木材の切り出しにかかるか。

 斧片手に地下へと降りる。

 地下への入り口はドアがあるので、普通のモンスターなら入ってはこれない。

 ちょっと開け閉めに面倒だけど、セーフティエリア(安全地帯)があるのはとても嬉しいことだ。

「お。たくみじゃん。ちーす!」

 美羽のキャラ変わりすぎじゃね? 大丈夫か?

 匠。それはできあがったばかりの家を破壊し、風通しをよくする――リホームの達人だ。ちなみに攻撃方法は自爆のみ。

 身を挺して破壊することから、ファンも多い。

 そんな匠と出くわした美羽は落ち着いて対処している。

 爆発する直前の状態で斬りかかり、一歩引いて爆発範囲から逃げている。

「遅い遅い」

 熱いロボットアニメの言葉を口にし、匠を狩る美羽。

 俺は、というと、のんびりと林業を営んでいた。

 家を完成させるにはどの程度の木材が必要だろうか?

 諸々必要になってくるし、そろそろ地下の開拓をするか。

 地下資源は多く、石、鉄、金、ダイヤモンド、エメラルドとかがある。

 それらを組み合わせた色使いもいいだろう。

「敵いなくなってつまんない……」

 ぶつくさと文句をたれる美羽。

「なら、羊を集めて羊毛を回収してくれ。ベッドにも使えるけど、建築材料としても使えるし」

「それなら、クモの糸がたくさんあつまっったよ」

 クモの糸は何個か合わせると、羊毛ブロックになる。

 ブロック。つまりは建築材料なのだ。

 羊毛は花などからできる着色料で色を変えることができる。

「花摘みなんて女子らしいじゃない」

 かぁあと顔が赤くなる美羽。

「もう。わたしは戦いたいの~」

「さすが美羽、可愛いな」

 花摘みに心躍らされている美羽が可愛くないわけがない。

 しかし戦闘凶だな。悪いとは言わないけど、少し意外だった。


 しばらくして木材や羊毛、石などからできた建築材料を集める。

「じゃあ、これから家を作っていきます」

「はい」

 ビシッと敬礼をする美羽。

「なんで敬語?」

「いや、大輝くんが敬語だったじゃない」

「あー。ごめん。じゃあ、さっそく家を作ろう!」

「おー!」

 なんだかんだ言って乗り気な美羽。戦いはいいのかな?


 数十分後。

「か、完成した……!」

「わたしも!」

 できあがった家をお互いに見せ合う。

 俺の家は野原クレヨンし〇ちゃん家を作った。

 一方の美羽は見慣れない家の構造をしている。四角い家が三つ重なった形。

 屋根はいわゆる豆腐と呼ばれるのを危惧してか、斜めになっている。

「すごいな」

「そういう大輝だって、完全再現じゃん!」

「いやオリジナリティなら完全に負けているって」

 家に入ろうとするが、ドアがない。

「え。これどういう構造?」

 美羽はクスクスと笑い、ドアの前に立つ。

「ほら、ちゃんとインターホン押さないと」

「あ。そういうこと」

 押してみる。TNT爆弾が落ちてくる。

 ドカンと爆音が鳴り響き、俺のキャラが霧散した。

「って! おい!」

「あとはわたしが見て回るの~♪」

 内部を説明する美羽。

「毎回入り口破壊するのかよ……」

「そう! 面白いでしょ!」

 面白いけども!


 ゲームを終えると、少し熟考する美羽。

「どうしたんだ?」

「うぅ~」

 美羽は耳までまっ赤にする。

「わたし、夢中になりすぎたの」

 今更ですか……。

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