「……さて、と」


 クラサメの氷魔法は融け始め、身動きの取れなくなっていたウルフマライターは視界にテオを捉えた。すべてが溶けたとき、傷を負ったテオに勝ち目はなかった。

 そのとき、頭のなかに声が響いた。ルシになったときと同様、これはクリスタルの声に違いなかった。


『――汝の使命を果たせ。力を授けよ』


 テオはきょとんとした様子でしばらく目を見開いていたが、ふつふつと不敵な笑いがこみ上げ、ついに声を出して大声で笑い出した。


「はっはっは! そうか、これが、これこそが私の使命だったか!」


 ルシになってから消えていた人間的な感情がたんを切ったように溢れ出した。テオはいままで溜めていた感情がせきを切ったかのように溢れるのを止めることができなかった。


「クラサメたちを送り出したのは――私の、人としての意思か」


 クリスタルの呪縛を打ち破り、世界の均衡を乱した。白虎のルシは消え、朱雀には最強の兵士が舞い戻る。見下し嘲笑していた人間の意思に、テオはあっさり呑み込まれたのだ。


「……奴がいい」


 ルシになってから人との関わりを極端に避けてきた私だが、不思議とどういう者なのか知ろうと思った人物が一人いる。これもまた運命なのだろう。


「クンミ・トゥルーエよ――汝、白虎ルシ・テオの使命の相手となりて、クリスタルの傀儡かいらいとなれ」


 開かれた青空に向けて伸ばされた左手から、全身の力を奪うかのように光の球が飛び出た。方角は北西、皇国第四鋼室。

 部屋の氷は融けたのに、身体は異様に冷たくなってきた。不思議な感覚だった。


「嗚呼、猫よ。日向へと赴け」



 鴎歴841年、白虎の乙型ルシにクンミ・トゥルーエが選定された。

 そして物語は、皇国軍の朱雀侵攻作戦へと続く──。


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白虎ルシ・テオの追憶 祐希ケイト @yuuki_cater

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