伍
「……さて、と」
クラサメの氷魔法は融け始め、身動きの取れなくなっていたウルフマライターは視界にテオを捉えた。すべてが溶けたとき、傷を負ったテオに勝ち目はなかった。
そのとき、頭のなかに声が響いた。ルシになったときと同様、これはクリスタルの声に違いなかった。
『――汝の使命を果たせ。力を授けよ』
テオはきょとんとした様子でしばらく目を見開いていたが、ふつふつと不敵な笑いがこみ上げ、ついに声を出して大声で笑い出した。
「はっはっは! そうか、これが、これこそが私の使命だったか!」
ルシになってから消えていた人間的な感情が
「クラサメたちを送り出したのは――私の、人としての意思か」
クリスタルの呪縛を打ち破り、世界の均衡を乱した。白虎のルシは消え、朱雀には最強の兵士が舞い戻る。見下し嘲笑していた人間の意思に、テオはあっさり呑み込まれたのだ。
「……奴がいい」
ルシになってから人との関わりを極端に避けてきた私だが、不思議とどういう者なのか知ろうと思った人物が一人いる。これもまた運命なのだろう。
「クンミ・トゥルーエよ――汝、白虎ルシ・テオの使命の相手となりて、クリスタルの
開かれた青空に向けて伸ばされた左手から、全身の力を奪うかのように光の球が飛び出た。方角は北西、皇国第四鋼室。
部屋の氷は融けたのに、身体は異様に冷たくなってきた。不思議な感覚だった。
「嗚呼、猫よ。日向へと赴け」
鴎歴841年、白虎の乙型ルシにクンミ・トゥルーエが選定された。
そして物語は、皇国軍の朱雀侵攻作戦へと続く──。
完
白虎ルシ・テオの追憶 祐希ケイト @yuuki_cater
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