第13話 お化け?
私とサードがギスギスするなか一階を回ってみたけど、やはり他の冒険者もここに訪れていたみたいで置いてある宝箱は全て空だった。
まれに出現する騎士のモンスターもサードと私の技で軽く退けられる。
そんな騎士にも色々と種類があって、ベーシックタイプは剣を持った騎士だけど、たまに盾を持ってサードの剣をいなす騎士が現れたり(とは言っても聖剣で盾は真っ二つになったけど)、剣から炎を出すなど、魔法を使うタイプの騎士なども現れた。
それでも、と私は城の中を歩いててずっと気になっていた城の廊下の脇に目を向ける。
不思議な事にこの城の廊下の脇には狭いへこみ…水路があって、そこを水がチョロチョロと流れている。
「この城にいた人って皆喉が渇いたら通りすがりにこの水飲んでたのかな」
アレンも水路が気になったのかひどく真面目な顔でそんなことを言ったけど、
「どう考えたって下水だろ」
とサードが即座にツッコんでいた。
色んなことに気を使うアレンだけど、たまに真面目な顔で意味不明な事を言ってくる。
そうして一階を全て周り、二階に行くルートも軽く確認する頃になると次第にオレンジ色の光が城の中に差し込んでくるような時間帯になった。
「日暮れか」
サードが呟く。
外から見る城は暗く半ば崩れていて不気味な雰囲気だったけど、中に入ってみると明り取りの窓もしっかりと計算して作られているのか、中は暗くもなく不気味でもなかった。
むしろ水の音が心地いいし、城の窓から見える川や滝、そして崖から臨む景色は思わず見とれてしまうほどの絶景だった。
もしモンスターも魔族も居ない普通の城であれば住んでみたいと思えるほどの景観の良さで、改装してホテルにでもすればかなりお客さんが泊まりに来るんじゃないかしらとすら思った。
まあきっとサードにそんな考えを読まれたら、
「城の建て直し費と維持費でどれくらいかかると思ってんだ?」
と言われて終わりでしょうけど…。
「そろそろ寝泊まりする部屋に移動しようか。日が暮れたら移動も大変になりそうだし」
アレンはマップを見ながら呟き、サードは「おう」と返事をして、私も「ええ」と頷いた。
普通に歩いたら入り組んで迷いそうな城だけど城のマップを持っているし、地図に強いアレンがマップを確認しながら歩いているんだから迷う心配も全くない。
そうして朝一番にモンスターに襲われた城の入口の広間へと向かう。私が風で攻撃し、割れかけて傷だらけになった扉をアレンが開けて…。
「…お?」
アレンが急に立ち止まって、その背中に鼻からもろにドムッとぶつかった。
「ぶっ」
ちょっと、と鼻を押さえながらアレンに文句を言おうとすると、「…んん?」とサードも何かに気づいたのか怪しむ声を漏らす。
そんな二人の様子に何かあったの?とアレンの後ろから横にずれて入口の広間を見た。
そしてキョロキョロと首を動かしてから私も気づいた。
「あれ…?」
サードが倒した騎士、そして私がサードもろとも攻撃してやると風でバラバラにした鎧の残骸が一切無くなっている。
今まで戻って来る時にも倒した鎧型のモンスターはそのままその場にあったのに。
「………」
三人で一斉に目を合わせた。
「復活した…?」
アレンがポツリと呟くけど、今まで倒した騎士のモンスターは復活して歩き回るような形跡はなかった。
「一定の時間がたつと復活するとか?」
私もあやふやながら思いつくことを言うけど誰もうんとも違うとも言わないで、サードは聖剣を抜いて注意深く辺りを見渡しながら先を歩いて行く。
そしてふと階段の脇を見て聖剣を素早く構え、一瞬間を置いてからゆっくりと戦闘態勢を解いた。
「おい、これ見ろ」
二人がサードの元へ行くと、階段の脇に倒した五体の騎士が頭からつま先までほぼ元通りの配置に直されて階段の手すりに立てかけられていた。
それでも騎士は動いてなくて、夕暮れの中、静かに五人が階段の手すりにもたれかかって夕日を浴びながら黄昏ているような滑稽(こっけい)な図になっている。
だけどおかしい。
扉が勝手に内側から閉まったこと、横からサードの頭に石が飛んできたこと、そしてなぜかバラバラになった騎士の鎧が直されていること…。
どれを取っても誰かが居るとしか思えない。
「やっぱり、モンスター以外に誰かいるんじゃないの?」
私の言葉にアレンがハハハと、
「お化けだったりして」
と明るく笑う。
お化け…。
そう言われればこの古城には騎士の亡霊が現れるとかそんな話も聞いているし、あり得ないことじゃないかも…。
サードもかすかに同じことを考えたのか別のことを考えているのか、何も言わずに黙っている。
アレンは無言のままの私とサードを見て、
「違うって言ってくれよぉ!」
と、自分で言っておいて自分で怖くなったのか、手に持っているマップをグシャッと握りつぶした。
サードは考え込むように渋い顔をしてからゆっくりと続ける。
「…いや…あるかもしれねえ」
アレンの表情が固まった。
「これだけ立派な戦闘用の城だ。一階を見た限りでもここ最近ついたようなもんじゃなくて、もっと昔の刀傷もたくさんあった。それに一つ前の町で聞いたろ?
この古城が現役で使われて戦争した時、亡骸(なきがら)が次々と川に放り込まれて滝の水が真っ赤に染まって、人がゴミみてえに途切れなく滝から落ちていったってよ」
サードはアレンを見据える。
「ここでどれだけの人間が戦って死んだんだろうなあ。それを考えたら確実に無いとは言えねえだろ」
アレンの眉尻が垂れて顔色がすこぶる悪くなったけど、「行くぞ」と言って踵(きびす)を返すサードの目が楽しそうに歪んでいるのを私は見逃さなかった。
そしてフッとサードと目が合うと、サードは「言うなよ」とばかりにニヤニヤと目を逸らす。
…これはアレンをからかって遊んでいるだけで、本気で言っているわけじゃなさそうだ。
「エリー、どう思う?」
アレンの表情が強ばっていて青い。そして違うと否定してくれと訴えかけている。
でも私は口をへの字にした。
「…分からない。旅をしていても未だに分からないことだらけだもの。やっぱり無いとは限らないんじゃないかしら」
アレンはそんなぁ、と情けない顔になってショックを受けて固まってしまう。
「けど本当かどうかは分からないから、ね」
アレンを励ますように軽く背中を叩き「行きましょ」とサードの後ろをついていきながら私は心の中で謝った。
アレン、ごめんなさい。
でもアレンのそんな情けない顔を見るとつい意地悪したくなっちゃうの。
ごめんなさいね、いつもこんな時だけサードと結託(けったく)して。いつも間に入ってくれてありがとう。感謝しているのよ、本当よ。
流石に口にしたらアレンに怒られそうな事を心の中で繰り返しつつ、脅えた顔で辺りを見渡すアレンを見てちょっとニヤけながら背中をポンポン叩き続けた。
* * *
アレンが周りをキョロキョロと窺(うかが)っている。
「なぁ、お化けってどんな見かけだと思う?」
アレンがオドオドと話しかけてくる。
「城だし、鎧の男じゃねえの」
「そっか…」
サードはそう言いながら顔に巻いている布をずらしてパンにかぶりついている。
人前だとパンを一口大にちぎって口に入れているけど、私たちの前だと普通にかぶりつく。
そんなサードとは違って私はどうであれパンはちぎって食べるし、アレンはどうであれかぶりついて食べてるけどね。
アレンはもそ…とパンにかぶりついたけど、また顔を上げて口を開いた。
「お化けが襲って来たらどうすればいい?聖剣とエリーの魔法でどうにかなるか?」
「さあなあ。やってみねえと分かんねえなあ」
「そっか…」
アレンは納得しかけたけど、すぐさま顔を上げた。
「もし倒せなかったらどうする?剣も魔法も通じなかったらどうする?なぁ」
サードの顔が笑いを堪えるのに必死という表情で顔を背けてパンを咀嚼(そしゃく)している。
いつも世の中に何も楽しみが無いという表情をしているサードだけど、人をおちょくってる時だけはとっても生き生きとして楽しそうだ。性格悪い。
と思いつつ、私もあえて何も言わないけど。
我ながらどんどんと性格が悪くなっているような気がする。でもアレンの脅える姿をみると何か可愛いからついサードを放っておいてしまう。
ある程度サードが飽きてきたらアレンをフォローしておこうと思いつつパンを食べ続ていると、廊下から妙な音が聞こえてきてふと顔を上げた。
二人にも聞こえてるみたいで顔を上げて口をつぐんで廊下へ続く扉を見ている。
勢いよく水が流れ、そして落ちる音、窓の外を吹く風のか細く長い音、目の前で燃えるたき火のはぜる音と…廊下をパタパタと走る足音…。
「…足音だよな?まさか、お化け…!?」
「敵か?」
アレンはの顔は恐怖に引きつって、サードは聖剣を構える。サードは至って冷静だ。
「…騎士じゃないわね」
エリーが呟いた。
騎士のモンスターは動けば金属の音が響いて賑やかだけど、聞こえる足音は軽い。
「足音…からして男でもないな。一人だ」
「子供じゃないか?なんか走ってるっぽいけど音も軽いし、歩幅が小さいよな?」
サードとアレンも足音からしてどんなモノの足音か考える。
こうやって聞こえる物音から何者かを考えるのは冒険者の基本だ。
もし向こうに居るのが凶悪なモンスターだったら命にかかわるし、音の正体が人間だったら殺してはならないからだ。
サードは聖剣を抜き、そっと扉の近くに寄った。
足音は同じような所をパタパタと動き回っている気配がする。
どうやら自分たちの部屋から部屋二つ分向こうの廊下を走り回っているみたいだけど、こちらに近寄って来る気配は感じられない。
サードは扉をバンッと開けて音のする方へ首を巡らし、しばらく辺りを窺ってから扉を閉めた。
「誰もいねえ」
サードがそう言い終わるか否かの時に、
「いや!帰らないから!ここにいる!」
という子供の金切声の怒声が響き渡った。
サードが再び扉を開けて廊下に飛び出し、私もアレンも戦闘準備を整えて廊下に飛び出した。でも今の金切り声がわんわんと暗い城の中を響き渡っていくだけで姿は一切見当たらない。
頭を動かしてみても、声の主どころか敵すらも見つけられない。
「様子を見てきた方がいいかしら」
もし本当に人間の子供だったら大変だ。
「嘘だろ、人間じゃないかもしれないぞ」
「だな、罠かもしれねえ」
アレンの言葉にサードが頷いて、アレンが私の服を引っ張って部屋の中に引き入れて素早く扉を閉じた。
そりゃあ今はこのダンジョンに近づく人はいない。いくら人間の声がしようが本当に人間かわかったものじゃない。
「…だけど…」
念のために様子を見てもいいんじゃないの、と言おうとして、黙り込んだ。
こうやって人間の情を利用しておびき寄せてから襲ってくるモンスターは多い。楽に餌として食べられるからだ。
でもここには騎士のモンスター…それも言葉を一言も発しないものしかいないのは今日回ってみて確実。
だとしたら今の子供の叫び声は…?
アレンの顔を見ると同じことを考えているのか奥歯に物が挟まったような顔で黙り込んでいる。
「飯食ったら寝るぞ」
サードは一息ついてからパンを食べ始めた。
「だ、だ、だって、今の叫び声って絶対お化…」
「攻撃してこねえならいてもいなくても同じだろ」
先ほどまで楽しそうにからかっていたサードは、本気で信じてんのかよ、とでも言いたげな顔でアレンに指を向けてパンを食べ続けた。
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