第4話

 知ってる人はいるので、異世界ではない。

 じゃあ、パラレルワールドってやつだろうか。


 ……まぁいいや。今考えても仕方ないし。

 幸い、厨二力とやらが存在する以外は、元の世界と変わらないようだし。


 とりあえず、『今』を凌ぐことを考えよう。


 授業が終わるまでここにいる。

 厨二力が何かもよくわからないのに、発表なんてさせられたら困るので。


 テキトーになんか調べて待ってよう。

 


 

 20分ほど経った。


 スマホの時計は3時9分。そろそろ授業も終わるはずなので、教室に戻ろうか。


 なんとなく気まずい気がして、そろりそろりと廊下を歩く。

 

 教室に入ると、もう授業は終わっていたようで先生はいなかった。

 みんなそれぞれに、帰りの支度をしている。


 自分の席に戻る。


「……サボったの?」

 隣の席の人──京極 光瑠が話しかけてきた。


「い、いや、ちょっとラフレシアを摘みに……」

 何言ってんだコイツと言う顔をされた。

 僕もそう思う。ラフレシアはない。


「ふうん……」

 京極さんはもう帰る支度はバッチリと言った感じで、席に座っていた。

 そんな彼女、今はぱっちり目を開けているが、授業中はいつもお眠だ。

 高校に入ってから、この人がちゃんと授業を受けているのを見たことがない。

 その整った容姿も相待って、ついたあだ名は『眠り姫』。

 それでも赤点は取っていないようなので、世の中というのは不思議なものだ。

 

「おぉい、座れー。帰りのHR始めるぞー」


 そこらへんで固まって話していた生徒たちがバラバラと自席に着いていく。


「ええと、明日から夏休みだ。えー、怪我とか事件とかに巻き込まれないよう気をつけること。じゃ、挨拶お願い」


「きりーつ、きをつけ、れい」

『さよなら』


 生徒達がガタガタと音を立てながら教室を出ていく。


 僕も部室行かないと。


 ちなみに、僕が入っているのは文芸部。

 陰キャに相応しい地味な部活だ(全国の文芸部員さんごめんなさい)。


 部室棟の端にある部室に向かう。


 部室の前にやってきた。

 ここで異変が一つ。


 表札が『文芸部』ではなく『厨二部』になっている。


 場所間違えたかな? いや、合ってるはずだ。


 …………帰ろう。


 そう思って振り向くと。


「げっ!」


 筋骨隆々のむくつけき大男がいた。

 

「げっとはなんだ! 出市久保!」


 この人は、我らが文芸部の部長、京極 國衛門だ。

「あれ? 何で帰ろうとしてるんだ?」

「い、いやちょっと今日体調が悪いので……」

「本当か?」

 部長の凶悪な顔が迫ってくる。

「い、いややっぱ大丈夫です!」

「そうかそうか。じゃ、部室で皆んなが来るまで待っていよう」


 いぃいいゃややぁぁあああ!


 心の中で悲鳴を上げてみるが、当然聞こえるはずもなく。

 部室へと連れ込まれた。


 

 部室の中には、鬱屈とした空気が満ちていた。

 その原因はあの人。

「やあ……、おはよう……」

「おお、隅人! 来てたのか」

「まぁね……」

 副部長の影田 隅人だ。

 痩けた頬、落ち窪んだ眼窩、青白い肌。

 病人のような印象を受ける人だ。

 これでも健康体で、なんならここ十年間は風邪もひいていないとかいう、見た目に反して元気な人だ。

 

 この文芸部には、あともう一人部員がいる。

「遅れましたー!」

 メガネをかけた陰キャリア充少年、本田 亮太だ。

 朝からウチのクラスに入り浸っているやつ。

 

 これで全員だ。人数はたった四人。陰キャが集まる地味部活(全国の文芸部員さんごめんなさい)。そして男臭い。それが文芸部だったはずなのだが……。


「先輩、厨二部ってなんですか?」

 とりあえず聞いてみる。


「? 何でそんなことを聞くんだ?」

 キョトンとした顔で聞き返された。

「いや先輩、こいつ朝からおかしいんスよなんか」

 僕をおかしいとは失礼な。こっちからすると、そっちの方がおかしいのに。


「そうか。ではもう一度、我が部の崇高なる目的を話そうではないか!」

「……さいですか」

 相変わらず暑苦しい。

「我が部の崇高なる目的、それは──厨二力の研鑽だ!」

 

 なんじゃそりゃ。


「そして、今年の活動目標は! 厨二力全国大会優勝!」


「えーと、なんかよくわからないですけど、この人数で全国優勝なんてできるんですか?」

 マイナーで競技人口が少ないのかな?

 

「できるとも! なんせ今年は出市久保がいるからな!」

 なんだそりゃ。理由になっていない。


「いやそもそも厨二力ってのがわからないんですが」

「なに?」

「先輩、だから今日こいつ朝からおかしいんですよ。なんか歩いて学校きてるし」


「なにィッ! 出市久保が歩いて学校に!?」

「いや、歩いて学校行くのは当たり前だと思うけど……」

「「お前に限っては違う!」」

「はぁ……?」

 声を揃えて否定されてしまった。

 どうやら、この世界の僕は歩かずに学校に行っていたらしい。

 何やってんだ、この世界の僕。


「……病院、行った方が良いよ。精神科」

「唐突にひどいっ!?」

 僕の頭がおかしいと言いたいのだろうか。

「……冗談じゃ、ないよ?」

「はっ──まさか!?」

 部長も何かに気づいたかのように目を見開く。

「出市久保、部長命令だ。今日は早退して、病院に行きなさい」

「いやでも、どこも悪くないですよ?」

 そんなに僕を気狂にしたいのか。


「いやもおうもない! とにかく、行きなさい。部の進退に関わることだ」

「は、はい……」

 部長の気迫に押されて、思わずうなずいてしまう。


 そんなこんなで、何が何だかよくわからないまま、部長に追いやられるようにして部室から出た。

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世界は厨二に溢れてる! 富良斗 雫 @huratoshizuku

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