第16話 放課後

「さあ、今日も遊びに行くぞ!」


 授業が終わった。俺はタニザの机の前に来ている。ドリス、テット、そしてなぜかレルカもいる。


「このメンバーが放課後の遊び仲間なの?」

「そうだ」


 俺の質問に、タニザは得意そうに答えた。


「なかなかいい布陣だろ。俺とレルカはもちろん、ドリスとテットもかなり役に立つ。これにリヒトも加われば、今日の構成としては完璧だ」


 遊びに行くんじゃないのか? タニザはなぜか戦いに行く人のようなことを言っている。


「ちょっと待って、いったい今日の目的地はどこなんだ……?」

「大丈夫、ただのショッピングモールだ。ほら、早くしないと時間がない。行くぞみんな」


 俺はあとについていくしかない。


⭐︎


「おー、これが魔界のショッピングモールか……」


 数十分後、俺たちは魔界最大級だというショッピングモール『マジカル・マジック』に来ていた。略して『マジマジ』だそうである。


「さてみんな、小遣いの残金はあるか?」


 マジマジのいろいろな店に全く目を向けることなく一目散に奥へ奥へと進みながら、タニザがみんなに聞いた。


「もちろんだ。今日はパーッと使おうじゃないか」


 みんなを代表してドリスが答える。俺も現在のところ金には困っていない。ヤム兄上の差し金なんだか知らないが、俺の服のポケットには、きっちり財布と多量の紙幣および硬貨が入っていた。昼食の支払いのときに俺の財布の中身を覗き込んでいたテットが「この貴族め!」とか言っていたから、かなり多いのだろう。


「パーッと、とか言うなって。無駄遣いは厳禁だ……まあ、まずは一時間くらい、腕慣らしをしていくぞ」


 タニザはドリスをたしなめながら、どんどん進んでいく。


「テット、いったいタニザはどこに行こうとしてるんだ? 買い物をしそうには見えないけど……」


 俺はテットに聞いてみることにした。


「今日は買い物は後なんだろうな。実は、マジマジには『ブースターズ』ーーいわゆるトレーニング・ジムがあるんだ」

「へえ! どんなのなの?」

「広めの場所で、魔法の練習をすることができるんだ。もしやりたいなら、試合のようなことをすることもできる。俺たちは毎日そこに行って、魔法の腕を磨いているんだ。たまに強い奴が見られることもあるし、楽しいと思うぞ」


 どうやらタニザたちは放課後の自主練をやるようだ。そこまでして魔法の腕を上げたいのだろうか。


 とはいえ、俺も魔界に来て一日近くが経って、わかってきたことがある。魔界の住民たちは、とにかく強さを希求するのだ。誰よりも強くあろうと、訓練を重ねているのだ。そして、それは魔都ガロンのどこからでも一目瞭然に見える魔王城こそが関係しているのかもしれなかった。


「まあ、時期も時期だしね……」


 と、俺の反対側からレルカが付け足した。


「時期?」

「時期よ。今はどんな魔族も、そろって特訓に励んでいるわ。私たち魔族の最高峰の大会ーー『四天王選手権』が近づいているのよ」


 四天王選手権……聞いたことがあるぞ。確か四天王を選ぶのだという……


「四天王は魔王の次に権威のある魔界の地位なの。四天王選手権で上位四人になると、四天王になることができるのよ。普通は五年に一度行われるものなのだけど……最近、四天王があらかたいなくなっちゃったでしょう? これは人界でも話題に上っていたと思うけど……」


 そう、実は今は、魔界からは四天王がごっそりいなくなってしまっているはずなのだ。


「だって、四天王は全員勇者に負けてしまったからな」

「そういうこと。魔王さんが勇者を倒してくれたからよかったけど、今回は勇者に完全敗北するところだったわーーってリヒト、残念そうな顔をするんじゃないわよ。人界の気が抜けてないわね」


 そんなことを言われても、俺はつい最近、勇者たちが四天王を全部倒したと聞いて、トキヤと一緒に大喜びしたばかりなのだ。もちろんこちらの世界では四天王たちを応援しているのだろうが、まだ何か腑に落ちないものがある。


「四天王選手権には誰でも出られるから、私やタニザも出るつもりよ。タニザの実力があれば、四天王入りもありえると言われているわ」


 タニザが? そんなまさか。


「えっ? タニザはまだ十二歳じゃないか。その年なのに四天王になれるのか?」

「タニザならなってもおかしくないわ。それに、一回角が生えると、魔力はその後一週間くらいはどんどん伸び続けるのよ。タニザは素質があるから、魔力が今までの何十倍になる可能性もあるわ」


 何十倍! それはすごいな。俺の魔力も何十倍にもなるのだろうか。


「おいちょっと待て、俺の魔力は四倍にしかならなかったんだが……」


 テットが口を挟んできた。テットはもうかなり前に角が生えているはずだ。


「まあ気にしなくていいわ。これからも、しっかり訓練すれば自然と魔力は伸びていくから」


 レルカはそう言うが、要するにテットにはその『素質』がなかったのだろう。なんだかテットがうなだれているように見える。

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